インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

【NHK研究⑨】改革の目玉「次期トップマネジメント人材」

【NHK研究⑨】改革の目玉「次期トップマネジメント人材」

前田会長が進めるNHKの人事改革が本格的に始動した。その行方に何が有るのか?内部資料と関係者の証言から考える。(立岩陽一郎)

「合格者の平均年齢は43歳か44歳ぐらいだったと思いますが、今の局長の年齢からしますと10歳以上若くなります」

4月1日、前田会長は記者会見でそう語った。

これは前田会長の人事改革の目玉である地方放送局(以後、地方局)の局長に40代を登用する取り組みが始まったことを示す。

職制という縦割りと、依然として根強い年次主義に風穴を開けるための人事改革はこれで本格的に動き出す。

それから間もなく、私の手元に一枚の資料が送られてきた。そこには、「次期トップマネジメント人材 有資格者」と書かれ、12人の名前と「現所属・職位」が書かれている。それが下の写真だ。

NHKトップマネジメント人材
NHK内部資料(筆者撮影)

詳しく見てみたい。先ず、報道局からは報道番組センターのチーフ・プロデューサー、経済部副部長、映像センター副部長の3人。編成局からは専任部長と副部長、アナウンス室から副部長、経営企画局の副部長、技術局の副部長、人事局の副部長、と本社にあたる放送センターから9人が選ばれている。その他に、福井局、大津局、長崎局から1人ずつ選ばれて全部で12人だ。

それに会長メッセージが添えられている。こう書かれている。

「選抜された12人の方々については、今後の人事異動で、地域放送局長や本部・関連団体の主要ポストに順次、任命していきます。4月には数人を、地域放送局長に内示する予定です」。

NHK内部資料(筆者撮影)

因みに、「地域放送局」とはここで「地方放送局=地方局」としているもので、会長のメッセージに有る「地域放送局」が正しい。しかしNHKの内部では「地方局」と呼ぶケースが多いので、ここでは地方局で通す。

12人について見て、納得した点が1つある。見事なバランスで選ばれている点だ。応募は123人。書類選考、グループディスカッション、面接を経て、最後は会長が直接面接して選んだという。熾烈な競争を勝ち上がったエリートということになる。しかし、結果的には、各方面に配慮した人選の様にも見える。少し説明しよう。先ず報道局の3人の原籍は、ホウバンPD1人、経済部記者1人、そしてカメラマン1人だ。その他にアナウンサーが1人、技術が1人、そして編成や経営企画などの管理部門からも選ばれている。取りこぼしが無い。また、人事局からも1人選んでいるところもミソだろう。

加えて3人を地方局から選んでいるのも、人事の妙だ。4分の3が放送センターからで、4分の1が地方局。絶妙なバランスと言える。うまいなぁ・・・一覧を見ての感想だ。やはり前田会長は人事を知り尽くしている。

この40代の若手を地方局長にすることについて、私は否定的に書いた。それは地方局長経験者のOBへの取材から、もともとNHKの顔として外部との関係構築が職務であり、若手を登用することに無理が有るだけでなく、登用された若手にとっても意味が無いと指摘したものだ。

それについて現役の放送局長の数人から反論が寄せられた。その1人に接触すると、次の様に話した。

「以前はそうだったかもしれないが、今の地方局長はいろいろなことをやらされている。けして、外に向かって『顔』としてイベントに出るだけではない」。

地方局長の仕事には、「情報発信能力を高めることは勿論、その地域のローカル色を強く出すことが求められている」という。

「だから、記事に書いてあるような局長のイメージとは随分と違うんですよ」。

どう違うのか?まだわからないと食い下がると次の様に言った。

「例えば、自治体は勿論、その地域の新聞、民放と連携してこれまでに無い展開を考えることも必要になっています。いろいろと提案を出して、新たな取り組みを模索することが局長に求められています」。

局長は、「前田会長の人事制度改革は大きな方向性で間違っていないと思いますよ」と言い切った。

「私自身が縦割りの中で理不尽な思い、嫌な思いをしてきた。「背番号」で評価され、それで偉くなる。『なんでこんな人が偉くなるのか?』という疑問を持つことも少なくなかった。それに初めてメスが入った」。

『背番号」とは、ここで言う「原籍」だ。PD出身、記者出身などでキャリアが固定されてきた点を指している。因みに、報道局長は原籍が記者のポストだ。どんなに名の知れた報道系の人間も原籍がPDだと、報道局長にはなっていない。そういう点は、確かに硬直している。

別の局長からも面白い話を聞いた。

「NHKは拠点局を中心に地方局が1つのブロックとして動いていたが、今は、そういう枠組みも無視して各局が自由に動いて良くなっている」。

少し説明が要る。NHKの各局は各ブロックに拠点放送局が置かれ、その下に地域局が置かれる。例えば、九州なら福岡拠点放送局があり、その下に、北九州、佐賀、長崎、大分、宮崎、熊本、鹿児島、沖縄の放送局がある形だ。各地方局は原則、福岡拠点放送局を通じて全国とつながる形になっている。それも、今は自由なのだという。

「例えば、中国ブロックと四国ブロックとの間で、瀬戸内海を挟んでプロジェクトが始まっています。それぞれの放送局が独自に考え、実現していく形になっているんです」。

創意工夫をどんどんやれということだ。ある局長は苦笑いしながら、こう表現した。

「極めて強力な中央集権による地方自治の実現」。

前田会長の人事改革はかなり強い力で各地に指示となっている。そこには有無を言わせない強さが有るという。その強い指示によって、地方局を活性化させるということだ。それが「強力な中央集権による地方自治の実現」という表現になった。なるほどと思わせる命名だ。

何れの局長も、「大きな方向性で」で、「正しい」或いは「間違ってない」と前向きに受け止めていた。そこで、私の方から問うてみた。

「NHKの組織論としては、正しい方向かもしれません。しかしNHKはコンテンツを作るメディアです。社会に向けてどういうコンテンツを出していくのか。その点は、前田会長はどう説明しているのでしょうか?」

これに対して明確に答えられる局長はいなかった。

(つづく)

Return Top