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【NHK研究⑪】記者クラブがある巨大メディア

【NHK研究⑪】記者クラブがある巨大メディア

NHKでは会長、放送総局長が定例で会見を開く。その会見には誰でも出られるわけではない。実はNHK内に各メディアが所属する記者クラブがある。クラブに所属していなければ記者会見には参加できない。(写真・NHK内部協力者提供/文・立岩陽一郎)

4月21日、NHKの正籬聡(まさがき・さとる)放送総局長が記者会見を開いている。各社の報道によると、「『クローズアップ現代+』の来年(22年)3月末での終了を決定して後継番組の検討に入った」と報じたNHK研究の内容について「私も驚きました。終了すると決まった事実はありません」と語ったという。NHK研究では、後継番組に関するNHKの内部資料や後継番組を制作する局横断のメンバーについても報じているが、それについて問われた正籬放送総局長は「知りませんでした」と話したという。加えて、「より良い番組にするためには議論は自由。議論を封鎖するつもりはない」と述べたという。

この件については既にNHK広報局での動きも入っているが、基本的に、この内容に変更は無い。NHK研究で報じた内部資料については「知りません」ということだ。不思議な対応だが、それについては前回の記事でも伝えた通りNHKに対して以下の質問をしている。

「『まったくの事実無根』ということは、その見解の対象となっている記事は、捏造であるか、虚偽の情報に基づいて書かれたということになるかと思います。そういう理解ということで良いのでしょうか?

これにNHKは答えていない。

この報道内容を私が確認することはできない(4月23日現在)。NHKはこの放送総局長会見について要旨を公表しているが、そこにはこの質疑は含まれていないからだ。質疑の有無さえ確認できない。今後、その内容が公表されるのかは注視したいが、今回のNHK研究はその内容を深掘りするのがテーマではない。

テーマは、NHKの記者会見だ。

この記者会見に、「当事者」とも言える私は出ていない。それはなぜか?出る資格が無いからだ。どういうことか説明したい。

NHKが新聞や民放と違う存在であることは、受信料制度によって成り立つ公共放送(NHKは現在、公共目メディアとしている)である点にある。それ故ということになるが、NHKには新聞記者が常駐している。記者クラブがあるのだ。

ラジオ・テレビ記者会。それが名称だ。冒頭の写真がその加盟社だ。全国紙、通信社に加えて主要スポーツ紙が加盟している。この他に、地方紙などが加盟する東京放送記者会もある。

東京放送記者会の幹事社表(NHK内部協力者の提供)

所属する記者はNHKだけを取材しているわけではない。民放も取材対象としている。しかし、その記者クラブがNHKの中にあるのだ。民放も取材対象ではあるが、特に全国紙、通信社の記者はNHK取材がメインと言って良い。複数の記者でNHKを取材しているケースもある。

私はNHKの記者になって最初に赴任したのは沖縄だった。その後、東京の放送センターに異動になった時、沖縄で一緒だった共同通信の記者から連絡が有った。彼は共同通信のラジオ・テレビ記者会の担当になったのだと話した。夕食をともにしながら彼が言った言葉を覚えている。

「いやぁ、NHKの巨大さに本当に驚いた。これはメディアと一言で言える存在じゃないね」

どういう意味が問うと次の様に話した。

「純粋な意味で、報道機関じゃない。ごめん。報道機関なんだけど、報道機関というだけじゃない。とても全体を把握できない。巨大な組織だ」

恐らく、「純粋な意味で、報道機関じゃない」と言った時、私の表情が強ばったのだろう。彼は直ぐに、「報道機関なんだけど、報道機関というだけじゃない」と言い直した。私はそもそもNHKに記者クラブが有ることも知らなかったが、彼の「報道機関というだけじゃない」という言葉が極めて強く印象に残っている。

その一端を、スポーツ紙で文化面を担当するデスクの友人から聞いて知ったのはそれから随分時間が経ってのことだ。それは紅白歌合戦の取材についての話だ。年末に電話が入ったので「何をしているのか?」と問うと、「当然、NHKだよ」と話した。NHKが用意した別室で紅白歌合戦を見ているのだという。

「もう直ぐ1年も終わるという時に大変だな」と伝えると、「こっちは番組が終わってからが大変なんだよ」と言った。番組終了後に大食堂で終了の宴が有るのだという。和田アキ子さんが音頭を取って始まるその宴を記者と手分けして取材しないといけないのだという。

確かに、「報道機関というだけじゃない」という言葉があてはまる話だ。しかし、実際にはそうした放送に関係する以外にも様々な業務が行われている。「巨大な組織」であることは間違いない。

話を記者会見に戻そう。放送総局長以外に、当然、会長の会見もある。放送総局長の会見は簡単な要旨しか公表されていないが、前田 晃伸(まえだ てるのぶ)会長会見についてはかなり詳しい内容が公表されている。NHK研究でも、会長会見の内容は参考にしている。しかし当然の様に私が記者会見に出ることはできない。ラジオ・テレビ記者会、つまり記者クラブに所属していないからだ。

この記者クラブは東京の放送センターの他に、大阪にもある。NHK大阪拠点放送局に在阪メディアの記者クラブがある。そして大阪放送局長が開く定例会見などを取材している。私は大阪放送局長の会見に出たいと申し入れたことがある。暫くして折り返しの連絡が入った。大阪放送局の広報部長からだった。NHK時代の私の先輩で、確か政治部の記者だったかと記憶している。

「立岩さん、やはり記者会見の出席はお断りさせて頂きます」

「会見は記者クラブの主宰ですよね?記者クラブが了承しない?」

「まぁそういう点も有ります」

「そうですか。それは残念です」

「ご理解頂きたいのですが、放送局長の会見は、大阪放送局が制作する番組に関する説明ですので、立岩さんが知りたいような組織の話にはなりませんので」

記者クラブと協議をしたかどうかはわからないが、しても同じ結果になるだろう。記者クラブとはそういうものだからだ。私は会見への参加を要望する前に、NHK大阪放送局で始まった組織改編について取材をしていた。その内容についての回答を踏まえて放送局長に取材したいと申し入れを行ったものだった。因みに大阪放送局長は経営幹部である理事職にある。これまでに書いてきた地方局の局長とは位置づけが異なる。NHKの組織改編を語れる立場にある。

広報部長は「取材にはその都度、別途応じますので」と言った。しかし実際にはそう簡単ではないだろう。組織改編の取材についてNHK大阪放送局の回答は以下だ。

平素よりNHKの事業運営にご理解を賜り、ありがとうございます。お尋ねの大阪放送局の『体制改革』につきましては、現時点では、お答えを差し控えさせていただきます。何卒、ご理解を賜りますよう、宜しく御願い申し上げます」。

私はジャーナリストとして失格なのかもしれないが、取材先にあまり強い言葉をはくことはない。勿論取材は尽くすが、言われたことの言葉尻をとらまえて相手を追及するといったことはしない・・・という点を認めつつ、実は、NHKについては普通以上にそれが顕著になっているかもしれない。

それはNHKに多くの友人がいて、広報もその例外ではないからだ。「まったくの事実無根」との見解が出された時も、私は強い調子で反発するような言葉は発していない。否、正直言うと、できない。忖度ではない。別に忖度する必要は無い。敢て言えば、「情け」と言った感じか。

しかし、こうは思う。仮に、NHKの記者が取材先の広報から同じようなコメントを受け取ったら、間違いなく、次の様に広報に伝えるだろう。

「広報がそんな対応で良いですか?やるなら徹底してやりますよ」。

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