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【NHK研究⑮】政治部とは何か①

【NHK研究⑮】政治部とは何か①

このシリーズでは、前田会長の改革からNHKの理事、経営委員会の役割など、主にNHKの経営に携わる部分を見てきた。NHK研究は、これから現場の話になる。その最初は政治部だ。NHK政治部。先ずはその導入部として放送総局を説明したい。(立岩陽一郎)

NHKには様々な現場が有る。これまで書いてきたことをNHKの用語でおさらいしておこう。PD、バンセイ、ホウバン、キシャ、カメラマン、ヘンシュウマン、アナウンサー。

PDとはNHKだけで通じる言葉で、プログラム・ディレクターの略称だ。要は、番組を作る制作職員のことだ。バンセイ、ホウバンも説明したがあらためて書いておく。

バンセイとは、制作局所属の、或いは制作局系のPDのことだ。昔は番組制作局という部署名だったので、バンセイとなった。「紅白歌合戦」、「大河ドラマ」、「ためしてガッテン」、「ダーウィンが来た」などはバンセイの代表的な番組だ。歌番組、ドラマは勿論、歴史、科学といった教養番組はバンセイによる。Eテレは基本的にバンセイの牙城だ。「制作局系」と書いたのは、制作局は東京の部署名だが、その系列の部署が全国の放送局にあるからだ。

ホウバンとは、報道番組の略で、文字通り報道番組を制作するPDだ。正式には報道局の報道番組センターとなる。「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代+」は前述のバンセイPDも制作するが、ホウバンにとっての主戦場だ。加えて日曜討論などの政治番組もホウバン制作だ。このほか、突発的な事故、大規模災害、国際問題に関する特番はホウバンが担当する。このため、バンセイに比べてホウバンは忙しい。休日や夜中に呼び出されることも多い。体育会系と称される所以だ。

キシャ(記者)、カメラマン、ヘンシュウマン(編集マン)、アナウンサーは説明の要は無いだろう。このうち、キシャ、カメラマン、ヘンシュウマンはホウバンと同じ報道局に所属する。アナウンサーはアナウンサー室として独立している。

と、長々と説明してきたが、このバンセイもホウバンもキシャもカメラマンもヘンシュウマンもアナウンサーも実は1つの大きな部署に属している。それが放送総局だ。

この他にカンリ(放送管理)、エイギョウ(営業)、ギジュツ(技術)が有るとも説明したが、それらは放送総局の外にあるので今回は割愛する(放送技術は放送総局内にあるなどの一部の例外は有る)。この放送総局こそがNHKの本丸なのは自明なことで、ここで全ての番組を制作・管理しているからだ。

その放送総局で特に注目したいのが、政治部と言われる部署だ。その理由は敢て説明するまでも無いだろう。常に問題となるNHKと政治の関係において、その距離の近さを象徴する存在と目されているからだ。

この政治部とはNHK内でどういう部署で、どういう人たちが何を考えて業務に勤しんでいるのか。それを考えてみたい。

少し変化球から入りたい。この放送総局のトップは放送総局長だ。従来は会長、副会長に次ぐナンバー3が放送総局長だったが、前田体制では正籬(まさがき)副会長が放送総局長を兼任している。そしてその放送総局長を補佐する副局長が従来は2人、現在の前田体制では3人になっている。1人は報道局担当の小池理事、もう1人は制作局担当の若泉理事、そしてこの連載に何度も登場する林理事で国際放送局担当の副局長となっている。

興味深いのはその出身だ。正籬副会長、小池理事ともに政治部記者出身だ。そして前田会長が「林理事は記者出身だけど、記者だけでなく、NHKの全体のことを考えられるし、海外のことも詳しい」と高く評価している林理事もその後の経緯はいろいろだがもとは政治部記者出身だ。若泉理事の副局長ポストは制作局のポストと決まっているので、報道局からは人は出せない。つまり放送総局のトップのうち、全体を見る局長も、報道番組について見る立場の副局長も全員が政治部出身ということだ。

前回少し触れた海老沢勝二会長も政治部出身だ。その前の前の会長で「シマゲジ」の名前で広く知られた故島桂次氏も政治部出身だ。

更に書こう。その政治部は放送総局の中核とも言える報道局の一部署だ。既に説明している通り放送総局には制作局もある。しかし報道局が最大勢力であることは間違いない。

報道局の権限の強さを示す面白い話が有る。放送総局にはこの報道局と制作局とを調整する編成局がある。放送番組の編成を担う部署だ。民放ではこの編成局が最も強い権限を持っている。しかし、NHKはそうではない。ホウバンの実力者として知られたOBが編成局長をしていた当時のことを語ってくれた。

「通常の番組編成は編成局で作成するわけですが、例えば災害や政変などで報道局が特番を組むとなると、私の許可は要らないです。報道局長が編成権を持つわけです。連絡?連絡は有りますけど、許可を取るということではなく。『こうします』という感じです」。

実は、この報道局長のポストには記者しか就いたことがないのだが、その歴代の報道局長のほとんどを政治部出身者が占めている。これは事実だ。

更に書こう。一般に新聞社では、政治部と社会部がライバル関係にあると言われる。NHKでもそういう部分が無いとは言わない。それが政治家のスキャンダルを報じる際には両者の衝突となることも有る。私の入る前のNHKの話だが、ロッキード事件の報道をめぐる政治部と社会部の対立はホウバンを巻き込んで大きな問題になった。「かつては闘っていた」と語る社会部OBは多い。しかし、少なくとも、私が所属した当時の社会部で政治部と徹底的に戦うという姿勢を見せた記者を知らない。勿論、そこに私も入るわけで、この連載では私自身のことはあまり書かないことにしているが、情けないエピソードだけは書いておく。

私が社会部で国会を取材していた時、ある自民党所属の有力政治家に1500万円の現金を持って行った人物のインタビューを撮った。これを報じるにあたってその有力議員にも取材をしないといけない。それは私も理解できる。しかし、その取材は社会部がやるわけにはいかないと言う。有力議員への取材は政治部記者を通して行うのが不文律だという説明だった。

そして、どうなったか?待てど暮らせど、政治部はその有力議員を取材しない。社会部のデスクを通じて問い合わせても、「対応中」という答えが政治部デスクから返ってくるだけだった。結局、私はその原稿を書けなかった。それで情報提供者と話して、新聞社に情報提供をして書いてもらうことにした。これは報道の倫理上、問題かもしれない。しかし、闇に葬り去られるよりはその方が良かった。夕刊の一面にその記事が出て、当時官房副長官だったその議員は官房副長官を辞した。この話は別の機会にも書きたいので、この辺で止めておく。

別の時に、こういうことが有った。不透明な資金の流れを追っていてある大臣の名前が浮かんだ。私は大臣の議員事務所に問い合わせをした。大臣は当然、議員事務所にはおらず秘書が伝えるという話だった。

その日の晩、社会部のデスクらと赤坂で夕食をとっていると私の携帯が鳴った。大臣からの電話だった。説明は明確で疑惑は晴れたが、その電話を切って目の前の社会部デスクにそれを伝えると、「え、大臣と直接話したのか?それはまずいぞ」となった。直ぐに政治部デスクに電話で詫びを入れていた。社会部記者が大臣を直接取材できるのは政治部が担当を置いていない環境省などに限られていた。

もう1つエピソードを書いておく。何度も書くが、私はこの連載で自分を格好良く描く気は無いので、仮に少しでもそう思えたら、その点は笑って見逃して欲しい。本人は抑制的に、情けないエピソードの事実のみを書いているつもりだ。

それは、自民党で鈴木宗男議員が権勢を誇っていた時期のことだ。後に逮捕される鈴木議員について、政治と金の問題で確認したい話が有り、何度か自民党本部に足を運んだ。当然、簡単には会えないのだが、こちらは何度でも行くしかない。

その何度目かの時、私の前にこれまで対応していた自民党職員ではない男性が立ちふさがった。そして私に言った。

「鈴木さんに用が有るなら俺を通してくれ」。

向うは私を知っているのか?妙に堂々としたもの言いに、私は意味が分からず、「どちら様ですか?」と尋ねた。するとその人物は言った。

「お前の会社の先輩だよ」。

NHKの政治部記者だった。鈴木議員が逮捕されるのはそれからかなり後のことだった。私はと言えば、逮捕が不可避となった際に政治部記者立ち合いのもとで取材をしただけだった。

こういうエピソードを、読者の皆さんはどう思うだろうか?立岩陽一郎なんて、大したことないと思う点は当然として、こうした政治部の存在がNHKと政治との癒着を生んでいると感じるだろうか?そう推測する人は多いだろう。私は、正直なところよくわからない。わからないので取材するしかない。

次回は、NHKのエリート集団とも言える報道局政治部を更に掘り下げる。それはどういう部署で、そこに所属する記者は何を考えているのかを見てみたい。

(つづく)

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