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【NHK研究⑯】政治部とは何か②

【NHK研究⑯】政治部とは何か②

良くも悪くもNHKを代表する部署となっている政治部。正式には報道局取材センター政治部。NHK内で絶大な力を持つそれは記者の集団だ。政治権力を取材する一方で、自らがNHK内の政治権力としても幅を利かす。その集団はどのように活動しているのか。(立岩陽一郎/写真は首相官邸HP:総理会見に臨む政治部記者)

いきなり個人的な印象を書く。NHK政治部というと私には黒のイメージが有る。それは別に政治部記者が権力と癒着しているから・・・ということではない。男女問わず多くの記者が黒系のスーツを身に着け、そして黒塗りのハイヤーで動き回る。加えて、一糸乱れぬ動き。個人的な印象ではあるが、それが黒のイメージを抱かせる。

これは同じ記者でも、私が所属した社会部とは少し異なる。社会部は服装もラフで、皆がバラバラに動いていた。ハイヤーを使うのは社会部では警視庁や検察庁といった事件系の記者クラブくらいで、多くの記者は公共交通機関を利用していた。

前回も書いたが、政治部と社会部はメディアの中では対立構造で描かれることが多い。その際は悪の政治部と正義の社会部として描かれ、同時に強者の政治部と弱者の社会部という描かれ方となる。実際には前者については必ずしも正しくはないのだが、後者については少なくともNHKでは正しい。

官邸クラブ

先ずは、政治部記者だったOBに、その内容を語ってもらう。

「政治部は50人。これは新聞社も同じ規模だろう。あなたがいた社会部に比べれば半数くらいじゃないか」

社会部はもともとは100人を超える大所帯だったが、そこから文字通り科学と文化を取材する科学文化部や首都圏のローカルニュースを扱う首都圏が分離したことで、私が所属した時は80人。それでも、政治部より人数は多い。実は、この数の少なさが政治部がNHKで権力を握る上で重要な要素となっていることは、後に触れる。

政治部は政治を取材する。これは誰でもわかることだが、実際にはどのような形で取材が行われているだろうか。先ず、記者はどう配置されているのか教えてもらった。

「いわゆる官邸クラブと言われている首相官邸を取材する内閣記者会。ここに官邸キャップ、サブ・キャップ、三席、四席がいる。その下に、官房長官番と総理番」

官邸キャップをトップに10人近い記者が配属されているという。経営委員会の回で、総理に会いに行く際に官邸キャップが同行したという話を書いた。政権中枢との窓口を仕切る立場ということだ。

官房長官番と総理番とは、ニュース番組の名称としても使われているいわゆる「番記者」だ。ただし、この2つは同じ番記者でも役割が異なる。官房長官番は平日の午前と午後に開かれる官房長官会見に出る。NHKのニュースで、「これについて@@官房長官は・・・」と報じられるが、その質問をしているのが官房長官番だ。

このため、中堅クラス、或いはエース候補が就くケースが多い。現在、松本市長を務める臥雲義尚氏はNHKの政治部で野中勉官房長官番を務めた過去が有る。臥雲氏は、官房長官との会見をどう行うかは、政治部記者としての腕の見せどころだと話している。

官房長官会見でのエピソード

私は国会担当の時に当時のその会見に出たことがある。小泉政権時の福田康夫官房長官の会見だった。これは福田長官に靖国神社についての考え方を質問したかったからだが、私には順番が来ずに会見は終了となった。その後、NHKの官邸キャップから、「立岩君、ちょっと」と呼ばれた。そして言われた。

「質問するなら、こっちがするから私に言ってくれよ」

え?質問するなってことですか?

「否、こっちで一緒に質問するから」

それは逆に申し訳ないですよ。

「官房長官会見で社会部の記者に質問されても困るんだよ」

困る?

「だって、警視庁の会見で政治部の記者が質問したら、君ら困るだろ?」

え?いや、別に・・・

「兎に角、質問が有るなら官邸クラブに言ってくれ」

この官邸キャップは普通に話せる記者、否、政治部を前面に出さない記者という評判の有る人物だった。やり取りも不快なものではなかった。しかし、言われていることの意味が私にはわからなかった。その後、官房長官への質問は、政治部内で打ち合わせるなどの調整を行っていることを知った。そういう状況では、社会部記者からの不規則な質問は歓迎されないのだろう。逆に言えば、私が「官房長官に靖国神社とは別に、アメリカのアーリントン墓地の様な戦没者施設を作る考えはどうか?」を質問して欲しいと言っても、絶対に受け入れられなかっただろう。

無駄なエピソードはさておき、総理番に話を移す。

総理番は政治部1年目の記者などが担当する。官邸の入り口で「ソォリィィ!」と声を掛ける役回りだ。官邸の正面から入る人間を確認して記録する役回りでもある。新聞の首相動静は総理番の情報で書かれている。ここの情報に抜け駆けは無い。例えば、見知らぬ人間が官邸に入ったとする。番記者はそれぞれのルートで確認する。そしてその人物が特定できると、それはその場の各社で共有する。政治部特有のルールだ。政治部にはこうした各社で情報を共有するルールが散見される。それは私が所属した社会部では見られない文化だ。これは必ずしも悪いことではなく、無駄な競争はしないということだろう。合理的な判断だと思う。

総理番は仕事が多い。このため、NHKを含めて各社複数の総理番を置いて取材をしている。例えば、官房副長官も担当する。官房副長官は政治家が務める政務担当と、官僚トップクラスが務める事務担当がいる。その双方を取材する

与党取材の拠点は平河クラブ

次に重要なのが平河クラブだ。自民党のクラブで、党本部がある平河町に因んで名付けられている。政権与党の取材拠点だ。

4階の幹事長室の向かいにある。私も自民党本部は何度か行ったことがあるが、平河クラブに顔を出したことは無い。社会部の記者が来たら迷惑だろうし、私にとっても居心地の悪い思いをすることは間違いない。

そこにもキャップ以下、サブ、そして5大派閥の担当など約10人が配置されている。ここの仕事は基本的に派閥の動きを追うことだ。ある意味、最も政治部らしい仕事と言えるかもしれない。

例えば、とOBは在りし日について語ってくれた。

「経世会を担当すると、金丸、竹下、小沢の動きをフォローする。毎週木曜日に経世会の会議がある。そこで昼飯を食べながら会議をする。これが弁当なんだが、『一致結束、箱弁当』という名で呼ばれている」

担当記者も弁当を食べながら参加する。

「取り敢えず、月に1000円は払う。弁当はそんな安い弁当じゃないが」。

そこには役職の有る議員は出ない。派閥の若手議員が、国会の動きや政策について報告するのだという。

「そういうところに顔を出すことが重要。勿論、若手議員を観察することも」

NHKの派閥担当記者と言っても、常に派閥の大物議員に会えるわけではないという。特に日中は難しい。

その他のクラブ

野党クラブは国会本館の中にある。キャップ、サブ・キャップが情報のとりまとめを行うのは外の官邸クラブ、平河クラブと同じだ。その下は野党の状況次第で変わるという。基本的に、NHKは主要な政党には単独で担当を置く。同じ記者が複数の政党を掛け持ちすると、信頼されないということが理由のようだ。ただし、少数政党が乱立する現在はかなり状況は変わっているようだが。

当然、野党クラブも政局取材がメインとなる。

「与野党がどこまで握っているのか。それを見極めるのが仕事だ。野党の党首は表向きは政府与党を批判するが、どこかで手を打つ。それがどの段階なのか?タイミングは?そういう情報を入手するのが役割となる」。

それは平河クラブ、つまり与党だけを取材していても「駄目」なのだとOBは話した。

「政治家は嘘をつく。そういう生き物なんだよ。公然と嘘をつく。それが政治記者の一番難しいところ。嘘を言われても、それを見極めるのが能力。一方で、口で嘘を言って、目でサインを送る人もいるし、言い方で、ヒントをくれる人もいる。そこに与党も野党も無い。どっちも嘘をつく」。

それを見極められるかどうか。「そこで政治記者の真価が決まる」と言う。

他には、官庁の記者クラブもある。有名なのは外務省クラブ。これは霞クラブという名称だ。私は911の時、応援で政治部のキャップの下で霞クラブに行ったことがある。夕方になって「夜回り懇」があるとのアナウンスが入った。他社の記者がゾロゾロ行くのでついていくと事務次官の部屋に入っていく。私も一緒に入った。ソファーは政治部の記者が座っている。私は入り口近くで立って状況を眺めていた。暫くすると事務次官が入ってきて、そこから懇談会が始まった。

リラックスした懇談の場といった感じだ。事務次官が外務省の状況をざっくばらんに話し、記者が一言二言、問いかける。「質問」という厳しさは無い。誰もメモをとっていなかったと記憶している。

「これがオフレコ懇談って奴か・・・」

ここでのやり取りを記事にするか否かは各社の判断だが、「事務次官が明らかにした」とは書けない。時折、「外務省首脳は」という主語がニュースに出るが、そうしたニュースの出どこの1つということだ。

「それにしても、これは『夜回り』じゃないだろう」。

そう思ったのは、夜回りと言えば、自宅前で夜遅くに帰宅するところを狙って取材することだからだ。勿論、政治部もそうした「夜回り取材」をしている。なぜ夕方の役所での懇談会を「夜回り懇」と称しているのかはわからなかった。

この他では、厚生労働、総務省、防衛省、文部科学省、法務省などに政治部は記者クラブを持っている。これらの記者クラブには社会部記者が入っているところもある。ここで、面白いのが担当分けだ。大臣や副大臣、政務官は政治部が取材する。政治家だからと言ってしまえばそれまでだが、これは前回も書いたが、現場ではかなり面倒な状況になる。最終的に大臣に取材をしないと書けないことも有るからだ。そういう情報は政治部に把握されるということだ。

防衛省も特異だ。大臣、副大臣、政務官は勿論、防衛官僚・・・いわゆる内局も政治部が担当する。そして社会部は自衛隊を取材する。要は、文民を政治部、制服組を社会部が取材するという仕分けだ。ただし、防衛省はその役割が大きくなっていることもあり、政治部と社会部で互いに融通を利かせる形になっているという。

私は小池都知事が大臣を務めた時の環境省を担当したことがある。ここには政治部は記者を置いていなかったので、大臣ともかなり自由にやり取りをしていた。ただし、温暖化防止が政府の最重要課題になってくると政治部が記者を出すということも有り得るだろうと推測する。

基本的に、政治部の記者はどこかの記者クラブに所属している形だ。これも社会部とは異なる。社会部は記者クラブに属する記者もいるが、遊軍といって自由に取材する記者もいる。自由度は高い。

何れにせよ、ここまで書いてきたことは政治部の昼の顔だ。「歴史は夜作られる」と言うが、政治部記者がその活動を活発化させるのは当然、日中ではない。次回はその姿に迫る。

(つづく)
※当初、「一致結束弁当」と記載していましたが、指摘を受けて「一致結束、箱弁当」と訂正しています。「良い意味でも、悪い意味でも、結束の象徴である『箱弁当』」とのことです。ご指摘に感謝します。

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