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【NHK研究⑰】政治部とは何か③ 「電気椅子」に座らされる記者

【NHK研究⑰】政治部とは何か③ 「電気椅子」に座らされる記者

NHK研究の17回目は、引き続き政治部を取り上げる。国会審議の報道、夜回り取材の後の「電気椅子」など、NHK政治部の取材の現場を明かす。(立岩陽一郎)

冒頭の写真は国会近くで待機する政治部記者のハイヤーだ。政治部を象徴する写真と言っても良いかもしれない。前回私が「NHK政治部というと私には黒のイメージが有る」と書いた部分だ。正確に書くと、これはNHKだけではない。朝日新聞も読売新聞も共同通信もTBSも同じだ。加えて、「黒」とは、あくまで私の持つ「イメージ」であることは断っておく。

1つ、「黒」とは無縁なエピソードも紹介しておこう。日中、つまり日の当たる時間の政治部の仕事だ。それは国会審議の報道だ。国会は160日間にわたって通常国会が開かれる。政治部は政局ばかり取材している・・・つまり、政党間の争いばかり取材していると揶揄されることが有るが、国会の細かい審議を追うのは政治部の重要な仕事だ。

私は政治家の汚職で揺れ「事件国会」と称された時に、政治部の国会取材の現場に社会部記者として加わったことがある。場所は国会の1室で、なぜかそこにはNHKの記者だけしかおらず、私以外は政治部の記者が占拠。前回伝えた官邸クラブの四席が指揮する中、私を入れて4人の記者で審議を追う。NHKでは、官邸ナンバー4の四席が国会の記事の出稿を担当する。

部屋のテレビ画面には国会の審議が映し出されている。そこにそれぞれがICレコーダーを置いて、審議の内容をノートに書き続ける。私は正直、きつかった。前の晩も夜回りでほとんど寝ていない・・・などと言い訳はできない。必死でノートをとるが、その文字はミミズのようになっていく。

その合間合間で四席から、「はい、ここ、記事にして」と指示が出る。指示を受けた記者は自分のICレコーダーで内容を確認して審議のやり取りを原稿にする。長い原稿ではないが、発言を間違うわけにはいかない。そして四席がOKを出すと原稿が出て、放送センターでも審議を追っている政治部デスクが確認した上でニュースになる。

正直、その大変な作業に驚かされた。原稿は間髪を入れずに出すことが求められる。それはNHKが毎正時にニュースをやるからだ。午後1時、午後2時といった具合だ。それを書き続ける。当時はまだ新聞社もインターネットでの記事配信は行っていなかった。恐らく、それ故だろう、こうした体制をとっているのはNHKだけだったのかもしれない。

「立岩君、今のどう?書いた方が良くないか?」

そして意識を失いかけた時、四席に話を振られた。ふっと正気に戻る。「寝てるんじゃねー」とは私には言わないが、政治部の記者だったら雷が落ちていただろう。

「は、はい」と言って、自分のICレコーダーで確認する。

「5時に入れるので」

四席の檄が飛ぶ。

確認すると、警察官僚出身の自民党の大物議員に疑惑の団体から現金が渡っていたことが野党から質問され、それを本人が認めた内容だった。これを見過ごしていたんだから、社会部記者として失格だ。直ぐに原稿にして四席に見てもらい、四席の了解を得た。私の出稿なので社会部のデスクに送る。

ところが、暫くして四席に電話が入る。電話を切った四席が私に言った。

「立岩くん、悪い。出稿されない」

え?と思うと同時に、社会部のデスクから私に連絡が入った。

「これ、出稿を見合わせるから」

国会審議が続いているのでデスクと言い争っている場合じゃない。電話を切って審議に集中した。デスクの言葉で眠気は冷めた。

四席が近づいてきて他の記者に聞こえないように小声で言った。

「社会部の判断らしい。すまない。しかし、おかしな判断だな」

もともと寝過ごしていた話故に偉そうには書けないが、実は、奇妙な話では無い。社会部は妙に、この警察官僚出身の政治家に配慮するところがあったからだ。その構図は解説すると、

「政治部:自民党=社会部:警察官僚」

実際には、世の中で正義を追及するように見える社会部がこういう判断をすることも有るということだ。この時の判断が何かしらの忖度なのか、最終的に誰の判断だったかはわからないが、私にそれを伝えてきたデスクはその後、警視庁キャップ、社会部長から経営企画局長になり2021年に理事に就任している。

話を戻す。

NHKの政治部記者について書く上で書いておかねばならないのが、少なくとも国会審議の報道は政治部の懸命な作業によって成り立っていることだ。そして、必ずしも政治部の出稿だけがいわゆる「政治的な判断」に影響されているわけではないことも記しておかねばならない。それは事実だ。

普通にやっていてネタとれますか?

「天皇崩御の時なんかは政治部も社会部も無かったが、私も家に帰らず赤坂プリンスと官邸を行ったり来たりという日々が続いた」

そう政治部OBは振り返った。

狙いは元号の特ダネ。これは各社もそうだ。令和でも同じだったのだろう。その元号選定に関わる人物にマンツーマンで記者をつけたという。

「結果的にはどこも特ダネでは書けなかったが、ある人物のところに、毎日新聞が「平成」ってあててきたんだよ」

ある記者にその情報が入り、政治部で更に取材を進めたという。結局、書けるだけの確たるものを得ることはできなかったという。毎日新聞は恐らく最も先頭を行っていたのだろう。しかし毎日新聞も書けなかった。仮に毎日新聞が蛮勇を振るって書けば特ダネとして後の世まで語り継がれるが、もし違っていたらその逆になる。その誤報は後々まで語り継がれることになる。確かに、政治部のネタは当たっても外しても大きい。

いささか間抜けな質問を政治部OBに尋ねた。政治部記者にとって、取材の正攻法というのは有るのだろうか?

OBは、「そういうものは無い」と言った上で続けた。

「取材の手法っていろいろ有るんだろうが、『普通にやっていてネタとれますか?』ってことですよ」

例えば、「書かないから教えてください」と言う記者もいるという。

「今テレビで政治ジャーナリストで活躍している人の中にも、そうやってネタをもらおうとしていた人はいますよ。良し悪しじゃない。ネタは欲しい。どうやってネタをとるか。それはマニュアルになるものではないんですよ」。

このOBはそれ以上の取材については答えてくれなかった。「昼間に政治家が話をしてくれる話は、大した話じゃない」とまでは口にしたが、それ以上は話す気は無いとのことだった。では、政治部記者はどうやって政治家から話を聞くのか。

実際、政治部から政治部の話を聞きだすのは難しい。政治部は50人という少数だ。内実はどうあれ、外部に対してはガードが堅い。平気で内部の悪口を言う社会部とは全く違う。更に、情報は必ず洩れることも熟知している。それ故、政治部のことを外部に言うことには強い自制が働く。

ここは時間をかけて話してくれる人を探さねばならない・・・と思いつつ取材をしていると、話してくれる政治部OBが現れた。

時間と距離は反比例する

表現が難しいが、権勢をほしいままにしたある大物議員に食い込んだことで知られる記者だった・・・否、過去形を使うと叱られるだろう。このOBは、「政治部記者と政治家との付き合いは一生だ」と話した。勿論、社会部記者もそういうことは有る。私自身、沖縄時代の警察官やオウム事件の被害者とは今も付き合っている。しかし、そのOBの話から推測するに、政治部記者と政治家との付き合いは、その関係が肉親のそれに近い感じだ。

「朝は自宅に行くんだが、当然、オヤジのところには各社記者が来ているわけだ」

オヤジとは、担当する政治家のことだ。まさに、肉親という感覚だろう。

「先着2名までは箱乗りできる。だから他社より先に着いている必要がある」

つまり2社までがオヤジと一緒に車に乗れるということだ。箱乗りと呼ぶ取材方法だ。記者はその車内での話を頭に叩き込む。

多くの記者は大体7時から7時半の間に来るので、その前に行くのだと言う。

「自宅の敷地内に秘書が住んでいる。そこに滑り込んで寝かせてもらうんだ。時には朝飯を出してもらうこともあった。秘書との関係が大事なんだよ」

そしてオヤジが出てくると、出て行って、「じゃあ、と言って乗せてもらう」

大物議員故、SP、つまり警護がつく。当然、SPも乗車する。どんな感じだろうか。

「助手席にSPと記者が乗って、後ろにオヤジと秘書と記者とが乗るんだ」

オヤジに寄りかかるわけにはいかない。

「まぁ楽じゃないが、そんなこと考えている余裕は無いよ。何を言うか、聞き漏らすまいと集中するしかない」

実は、その時に聞いた会話は、その日に自宅に来た記者とは共有することになっているという。総理番の流儀と同じだ。同乗した2人が代表取材をした形になる。しかし、どこまで共有するのかは同席した2人で決めることが可能だ。

「大体、NHKと読売と共同は『御三家』と言われていて、とことん政治家に密着する。で、この3社で情報を分け合うケースは多い」

そうすると、必ずしも全ての情報を共有はしない?そう問うと、笑って話題を変えた。恐らく、共有する情報とそうでないものを区別しているのだろう。

箱乗りして自民党本部に就くと、前回伝えたようなルーティンが待っている。しかし、ある程度記者として経験を積むと、取材の仕方は変わっていく。

「自民党本部の職員っていうのは、基本的に派閥の推薦で採用されるんだよ。だから、職員は派閥とつながっている。ベテラン職員になるといろいろな情報を持っている」

その職員との会話は派閥のトップにも伝わる。それをうまく使って情報収集に努めるという。なるほどと思う。加えて、大事なのは昼寝だという。それは取材が午後から夜にかけてが取材の本番を迎えるということも有るが、もう1つ理由が有る。その際、どこで寝るかが重要だということだ。

「党の要職の部屋の前にはソファーがある。そこで寝る。すると、例えば誰が誰の部屋に入ったかがわかる」

誰が誰に会ったか。まさに政治部取材の基本ということだ。勿論、寝ると言って、横になるわけではない。座りつつ、だ。

かと言ってずっとソファーを占拠しているわけにもいかない。特別に取材が無ければ議員会館へ行って秘書とお茶を飲むという。勿論、議員とも話す

夜回りは当然、各社が来る。夜回り取材。言うまでも無く、夜の帰宅時に自宅前で取材をする日本の記者の定番の取材手法だ。オヤジは一言も発しないで家に入ることが多い。そう書くと、じゃあなぜ各社夜回りをするのか?と疑問に思うだろう。それはそれで、「何も話さなかった」というのが重要な情報なのだという。

しかしOBはオヤジとの関係が他社にも知られた密接さだ。「何も話さなかった」などという情報を持ち帰ったのだろうか?

「秘書に、『一回散ってから戻りますから伝えておいてください」と言っておくんだ。それで各社と一緒に散ってから、また引き返すんだよ」

時には先に家に上がって待っていることも、「当然、有る」と言う。

「玄関を入ったところに応接室が有る。そこで待っている。すると、入り口で記者を振り切ったオヤジが現れて不機嫌そうな顔で『なんでお前がいるんだ』と言う。で、ビールでも飲みながら、となる」

そこで話が聞けるときも有れば、聞けない時も当然有るだろう。それでもサシ、1対1で会うことが重要なのは私でもわかる。OBは言った。

「時間と距離は反比例するんだよ」

時間と距離?反比例?

「長く時間を過ごせば、互いの距離は縮まる。つまり、時間と距離は反比例するだろ」

こうした取材は週末も当然の様に行われる。それも時間と距離は反比例するということなのだろう。

電気椅子

別のOBにも話を聞くことができた。そこで面白い話を聞いた。政治部の原稿の書き方だ・・・出稿の仕方と言った方がわかりやすいかもしれない。

国会の審議の出稿の仕方は前述した通りだ。しかし政局につながる取材は、1人の記者の情報で書くわけではない。ここは社会部の記者とは大きく異なる点だ。

社会部も検察取材などで複数の情報に基づいて記事を書くこともあるが、基本的な骨格は1人の記者の情報で書かれるケースが多い。検察取材であれば、被疑者の供述や捜査で明らかになった内容の記事は、記者からの情報に基づいてキャップが書く。NHKには記事を書く報道端末が有り、その前で取材メモをチェックしつつ書くという形だ。政治部も基本的には同じらしいが、重要な局面ではかなり違ってくるという。

「報道局の政治部の居室に『電気椅子』が置かれるんですよ」

電気椅子?

「いやいや、本当の電気椅子ではないんです。椅子です、椅子。それを政治部長ら含めてデスクで囲むんです。そこに夜回りから返ってきた記者が一人一人座らされるんですよ」

部長も同席?

「ええ、部長も同席します。最終的には部長判断で原稿のトーンが決まるんです」

常に、ですか?

「常に、ではありません。解散するかしないか、重大な政策転換、総理・閣僚の進退に関わるような問題、野党の党内抗争といった政治の重大局目で、居室に置かれます」

OBの話では、通常の朝用原稿は、社会部と同じだと言った。

「キャップがチェックしたらデスクはほとんど手を入れません。ただし、原稿のトーンというか、リードを最終的に部長が判断することになります」

政治部長自らが原稿に手を入れる・・・これは、社会部ではあまり無い光景だ。私は過去に官庁の随意契約の問題を特ダネとして報じたことが有るが、その時は当時の社会部長が最後の原稿をチェックした。これはNHKとして政府と対決する局面であったことと、調査報道という一歩間違えれば報じた側も大きな痛手を被る状況だから行われたもので、通常は、社会部長が原稿をチェックすることは無い。しかし、OBは普通のことの様に、「部長が判断する」と言った。

実際、「電気椅子」の座り心地はどうなのだろうか?

「まぁ、痺れます。だから『電気椅子』です」

「原稿のトーン」というのが大事なのだと言う。それは電気椅子に座った記者の発言から部長、デスクで検討する・・・例えば、野党が不信任案を出すとする。可決するのかしないのか。それを平河クラブ、野党クラブの記者の情報で確認していく。では、「トーン」とは何か?それはNHKとしてどこまで踏み込むかという原稿のニュアンスだ。仮に、「不信任案が可決する」と言い切れるなら、「不信任案可決へ」と書く。そこまで言えるのか?言えないのか?誰が「可決」と言い、誰が「まだわからない」或いは「否決する」と言っているのか。それを、現場を取材している記者の情報を様々突き合わせて、最後は、政治部長が判断するということだ。

「中には、言えない話も有るんですよ。『ここだけの話』というのが」

そこには与野党の担当が揃う。その場で明かせない情報も有るだろう。そういう時はどうするのか?

「部長と廊下に出て、そこで2人だけで話すんです」

部長には話す?

「ええ、部長には話します。そこで隠しても意味は無いんで」

NHKの出入り口は複数有るのだが、記者が出入りに多用するのは西口玄関と言われる場所だ。夜の11時頃に西口玄関を出ようとすると、必ず多少上気した感じの政治部記者の数人とすれ違う。

「これから朝用の原稿を出すのか」

そのくらいにはイメージしていたが、まさかそれから「電気椅子」に座らされて取材内容の確認が行われているとは知らなかった。それはそれで凄い世界だ。

(つづく)

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