
参議院選挙が公示された7月3日、NHKは投開票日が三連休の中日(なかび)となることで投票率がどうなるのか注目されると報じた。参議院選挙の投開票日は20日の日曜。21日が祝日の「海の日」であるため、20日は三連休の中日となる。これについて参政党の神谷代表が「わざわざ連休の中日にする」のは、組織票を持つ与党が有利になるように若者が投票に行きにくくするためと発信し、SNS上でもそうした指摘が拡散している。それは本当なのか?ファクトチェックした。
対象言説
「組織票を持つ与党が有利になるように若者が投票に行きにくい三連休の中日に参院選の党開票日を設定した」
参政党の神谷代表の発言やその他のXで拡散する発信などの内容から対象言説を設定。
(参政党公式インスタグラム(6/14)での神谷宗幣代表の発言)
問:「今回、投票日が連休の中日(7/20)になりそうっていうことなんですけどこちらはどうですか?」
答(神谷氏):「これはねみなさんね…怒った方がいいですよ。だって連休だったらどっか行きたいじゃないですか。そうなると投票所行けないのでわざと投票率を落とそうとしてませんか。なんでそなことを考えるかっていうと、既存の大きな政党っていうのは組織票を持っているのでその人たちは動員もかけてやるから、なんだったら車で連れて行ったりもするので必ず投票所に行かせるんですよね。そうなると一般の浮動票を持っている方々ね、固定していない票が投票に行かない方が自分たちの勝つ確率が上がるので、明らかに一般の方は(投票に)行かないようにして、自分たちの組織の人はいくようにしてとすると負けにくくなるので勝てないまでもそういう想いがあるよね?という風に感じる。みんなが投票行きやすい日に設定すればいいのに、わざわざ連休の中日(7/20)にするっていうことは国民に投票に行ってほしくない。無関心でいてほしいと思っているっていうことですから国民はここで逆ギレしてですねいつもより投票率が10%上がりましたという風にするとこういう舐めたことが起こらなくなる。」
同様の書き込みはXの投稿にも見られる。「若者が動く3連休の“ど真ん中”に投票日を設定。 わざと行きづらくして、組織票だけで勝つ作戦かよ。 圧倒的民意で不正選挙がないように勝ってほしいな。 独裁政治が近づいているよ」とするこの投稿は6月27日現在で4万の「いいね」、1万のリポストを得るなど拡散している。
判定結果
政府・与党が国政選挙の投開票日を決めることは事実だが、公職選挙法32条で定められた期間内で決めなくてはならない。また、日本では過去、国政選挙の投開票日は圧倒的に日曜日に設定されてきた。今回改選の参議院議員の任期内での日曜日を選択する場合、その期間内の日曜日は20日しかない。勿論、日曜日以外に投開票を行う選択肢も有るが、平日だと逆に組織票を持つ候補が有利になる可能性もある。国会の会期を決める際にそうなることを見越していたことは考えらえるが、国会の会期を延長することは可能だったわけで、必ずしも国会の会期で投開票日が決まっていたとも言えない。更に言えば、期日前投票での投票が年々増えている状況を考えれば、与党に有利にするために連休中日を投開票日としたとは断定できない。
ファクトチェックの詳細
選挙日はどう決める?
衆議院と違い解散の無い参議院では3年に1回のサイクルで必ず選挙が行われる。
参議院法制局のHPには「公職選挙法32条1項は、参議院議員の通常選挙は、議員の任期が終わる日の前30日以内に行うとしています。(中略)同条2項では、同条1項の規定により通常選挙を行うべき期間が参議院開会中又は参議院閉会の日から23日以内にかかる場合には、通常選挙は、参議院閉会の日から24日以後30日以内に行うとしています。(中略)現職の議員は、議員としての職責を果たすためには選挙運動ができず、選挙運動に専念すれば議員としての職責が果たせなくなるという不都合な事態を避ける趣旨といわれています。」と書かれている。
今国会は6月22日に閉会となる見通しで、現在の参議院の任期満了日は7月25日であるため、参議院閉会の日から24日以後30日以内に投票を行うとしている公職選挙法32条2項が適用される。そのため、対象日となるのはおのずと限られ、日曜日となると7月20日が有力な期日となる。ほかの日曜日でいえば、7月13日や27日は投票日の対象外となる。

投開票日を決めているのは政府・与党である。そのため、投開票日を自由に決められる印象を持たれるが、法律で定められている期間という制約を受けながら投票日を決めているのが現実だ。Xの投稿にあるような「不正選挙」という指摘は正しくない。ただ、政府・与党にも一定の選挙戦略があり、連休中日の設定が与党に有利となる可能性を否定するものではない。
過去の選挙は何曜日に実施されてきたのか
国によって投開票日の曜日はまちまちで、6月16日のNHKの「動画解説 投票日はなぜ日曜日」によれば、2024年7月の英国の総選挙は木曜日、同年11月の米国大統領選挙は火曜日、今年4月のカナダ総選挙は月曜日、5月のオーストラリア総選挙は土曜日、6月の韓国大統領選挙は火曜日だった。
日本の法令にも「日曜日に投票」という決まりがあるわけではない。人々が投票に行きやすい日ということで、日曜日が選ばれているようだが、現在でも地方選挙では日曜日以外に投票日を設定している自治体もある。国政選挙でも日曜以外の投票が過去にはあった。
我々が調べたところ、衆議院・参議院のHPには過去に選挙が行われた日付が記載されており、そこから曜日を調べていくと、参院選では1953年選挙が金曜日、1959年が火曜日にそれぞれ行われていた。それ以外の参院選ではすべて投票は日曜日だった。つまり60年以上も参院選では日曜日が投票日だったことがわかる。
一方、衆議員選挙では日曜日以外の投票について抜き出すと、1949年は金曜日、1952年は水曜日、1958年は木曜日、1963年は木曜日、1969年は土曜日、1989年は土曜日が投票日だった。ただ、1989年以降の選挙ではすべて日曜日に投票日が設定されている。日曜日以外に行われた選挙が衆院選では36年前、参院選ではは66年前ということだ。つまり日本において国政選挙の投開票日は日曜日の設定が慣例であると言える。
このファクトチェックについて6月28日に参政党に伝えた上で意見を求めた。意見が寄せられた際には記事に反映したい。InFactのファクトチェックは情報の検閲ではなく、まして発信者を非難、批判するものではない。発信された情報について事実関係を確認するものだ。
国会の会期との関係
勿論、参議院選挙は議員の任期内を前提に三年に一度、必ず行われる。このため、通常国会の召集日を決める段階で、投開票日を事実上決められるということはある。これは国会の会期が150日と決められているからだ。しかし、当然だが、会期は延長できる。会期の延長は衆参両院の一致の議決で決めることになっているが、一致しない場合は衆院の議決で会期の延長が可能だ。つまり衆院で多数を占める野党が一致して延期を議決すれば、会期を延長することが可能だった。つまり野党の判断次第で、連休中日での投開票とならない選択肢もあり得た。
参政党の回答
この記事については6月28日に参政党にメールで内容を伝えた上で6月30日にあらためて電話で確認を依頼している。参政党からの回答が有り次第、その内容を原稿に反映させる。
齋藤光、柴田和樹(大東文化大学社会学部・野嶋剛ゼミファクトチェックチーム)
ファクトチェック記事に関する説明(編集長追記)
InFactのファクトチェックは発信され拡散された内容の事実関係を確認することを目的としており、発信者を批判したり否定したりするものではありません。発信には誤解もあります。InFactはそうした内容に、確認した情報を加味することで有権者が判断材するための材料を提供することを目指しています。
この記事は大東文化大学社会学部の野嶋剛教授のゼミとInFactの共同作業で記事化しています。ゼミ生が取材した内容を野嶋教授とInFactとでチェックして出稿しています。共同作業ですが、出稿された記事の責任はInFactにあります。