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【FactCheck】アメリカ「現職の副大統領は当選しにくい」は本当か?

【FactCheck】アメリカ「現職の副大統領は当選しにくい」は本当か?

トランプ大統領は、現職の副大統領だったカマラ・ハリス氏を破って当選した。米メディアの中には、現職の副大統領は大統領選挙で勝てないと信じられていると報じるところもある。現職の副大統領は実際に当選しにくいのか。過去の大統領選挙をファクトチェックした。写真はジョージ・ブッシュ元大統領の就任式(ジョージ・W・H・ブッシュ大統領図書館の公式サイトから)。

対象言説  「現職の副大統領は大統領選挙で当選しにくい」

What is the curse of the incumbent vice president? Why it persists

結論 近年だけを見れば正しい

ファクトチェックの詳細

USA トゥデイ紙はアメリカ唯一の全国紙とも言われる有力紙の1つで、2024年11月6日に、「大統領選挙に立候補した現職の副大統領は呪縛にかかっており、大統領選挙で敗退すると信じられていると学者たちは言う(The belief, scholars say, is that incumbent or sitting vice presidents who run for president are cursed, bound to lose to their opponents.)」と報じている。この記事は、「学者たちは言う」というもので、それをファクトチェックはできないが、「現職の副大統領は大統領選挙で当選しにくい」と言えるのかをファクトチェックする。

現職の副大統領が大統領選挙に挑戦したのは9回ある。ここで大統領選挙は、予備選挙ではなく、本選挙を意味するものとする。表は以下の資料を参考に作成した。それぞれを詳しく見てみよう。

FEC | Election and voting information

Find results from past elections | USAGov

Historical U.S. Presidential Election Results | Britannica

選挙年現職の副大統領政権結果
1796年ジョン・アダムズジョージ・ワシントン当選
1800年トーマス・ジェファーソンジョン・アダムズ当選
1836年マーティン・バン・ビューレンアンドリュー・ジャクソン(民主党)当選
1860年ジョン・ブレッキンリッジジェームズ・ブキャナン (民主党)敗退
1960年リチャード・ニクソンドワイト・アイゼンハワー(共和党)敗退
1968年ヒューバート・ハンフリーリンドン・ジョンソン (民主党)敗退
1988年ジョージ・ブッシュロナルド・レーガン(共和党)当選
2000年アル・ゴアビル・クリントン(民主党)敗退
2024年カマラ・ハリスジョー・バイデン(民主党)敗退

結果を見ると勝敗は、4勝5敗で、ほぼ互角となる。ただ最初の2例は、アメリカの建国直後で、得票の多い順に大統領と副大統領が選ばれるなど大統領の選出方法が大きく異なっている。

1836年と1860年の選挙については二大政党がそれぞれ1人の候補を出すという形が崩れたという特殊な事情がある。1836年は、政権与党の民主党に対抗するため、いまの共和党の前身であるホイッグ党は事実上4人の候補者を立候補させた。ホイッグ党は各州でその州で強い別々の候補者を立候補させることで、民主党のマーティン・バン・ビューレンが選挙人の過半数を獲得できないように企てたが失敗した。どの候補者も過半数を取れなければ連邦議会下院での選挙となる。1860年は、現職の副大統領が、分裂した民主党のうち南部民主党から立候補し、共和党のエイブラハム・リンカーンに敗れている。

このため、比較できるのは近年の5例だろう。これを見ると1勝4敗となる。当選したのは父親のジョージ・ブッシュだけだ。従って近年だけを見れば現職の副大統領が当選しにくいというのは正しい。

因みに、現職のときではなく、その後、立候補した副大統領経験者の場合はどうなのか。

フランクリン・ルーズベルトの死去によって大統領になったハリー・トルーマンが立候補した1948年の選挙では、トルーマンの前にフランクリン・ルーズベルト大統領の副大統領を務めたヘンリー・ウォラスが第三政党である進歩党から立候補したが、現職のトルーマンに敗れている。

ドワイト・アイゼンハワー政権の副大統領で、現職時の1960年にジョン・ケネディに敗れたリチャード・ニクソンが1968年の選挙で当選を果たした。

2024年末に亡くなったジミー・カーター元大統領の副大統領を務めたウォルター・モンデールは、1984年の選挙に立候補したが、現職のロナルド・レーガンに敗れた。

2020年の選挙ではバラク・オバマ政権の副大統領を務めたジョー・バイデンが現職のトランプを破って当選した。

副大統領経験者の当選状況は4回の挑戦で2回当選という結果になっている。(清水竜太郎)

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