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【FactCheck】トランプ大統領が就任演説で語った「嘘」と「誤り」

【FactCheck】トランプ大統領が就任演説で語った「嘘」と「誤り」

アメリカにトランプ政権が誕生して2月20日で1か月。トランプ大統領の言動が世界を揺るがしている。関税をめぐる「不公正」発言のほか、カナダやグリーランドはアメリカの領土になった方が良いとの発言。国内でも連邦議会襲撃を捜査したFBI捜査官を「腐敗している」として解雇を求めている他、対外援助を担ってきたUSAIDも「腐敗している」として閉鎖する決定を下すなどしている。いずれも根拠が不明な発言とされるが、それによって国内外の政治が動いている。

そもそもトランプ大統領は第一期トランプ政権時代からその発言がファクトチェックの対象となる人物だった。本人もそれを意識していて「こう話すとあいつらは4ピノキロ(ワシントンポスト紙のファクトチェックで「嘘」を意味する)と言うだろう」などと発言していた。

そして第二期政権が始まった1月20日(アメリカ東部時間)の就任式。ここでトランプ大統領が行った30分の演説について、アメリカのファクトチェック・メディアPolitiFactがファクトチェックしている。PolitiFactの了解を得てその内容を紹介する。Trump Inauguration: Fact-checks and executive orders (Jan20,2025)の翻訳だ。InFactの訳であることをことわっておく。(清水竜太郎)

嘘(Pants on Fire)」は1件

Trump repeats his evidence-free claim about migrants from prisons, mental institutions

「(バイデン政権は)危険な犯罪者たちに聖域のように保護された都市や保護を与えた」

トランプ大統領は、就任演説でも選挙中の主張を繰り返した。この主張は虚偽だ。外国政府が犯罪者を釈放したり、精神科病院が不法にアメリカへ移民を送っているという証拠はない。

連邦政府データによると、2021年度から2024年度にかけて、移民当局は国内外で有罪判決を受けた非アメリカ国民、10万8000人を逮捕している。これらの数字は、入国審査場や他の場所で止められた人を示している。すべての犯罪者が入国している訳ではない。

誤り(False)」は3件

Trump’s false claims about federal disaster assistance

トランプ大統領は、2024年ノースカロライナ州で起きたハリケーン・ヘレナと1月ロサンゼルスで起きた火事へのバイデン政権の対応を批判した。

「最近、(ハリケーン被害を受けた)素晴らしいノースカロライナ州の人たちが示したように、アメリカは緊急時に基本的な支援さえ提供できないことが判った。さらに最近ではロサンゼルスが支援も受けられずに、何週間も火災が悲劇的に続いている」

バイデン政権は両方の災害に連邦予算を組んでいる。2024年9月、バイデン政権はハリケーン・ヘレナに襲われたノースカロライナ州に非常事態宣言を出した。宣言によってFEMA・連邦緊急事態管理庁の基金からの持ち出しが可能となった。

2024年12月21日、債務上限が問題となっていたとき、バイデン大統領は、災害時に使えるFEMAの基金に対して290億ドルの予算を当てる法律に署名することで政府機関の閉鎖を回避した。これは災害に対するより広い1000億ドル規模の対策費の一部だ。9月と10月に南東地域にハリケーン・ヘレナとミルトンが襲った後に資金増を求める声に応じて設立された。

2024年12月9日現在、FEMAは災害対応したノースカロライナ州の政府機関に対して2億9200万ドル以上の対策費を用意している。

バイデン政権は1月8日、緊急事態宣言に関するカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の要請についても承認している。資金を含めた連邦政府のリソースを使えるようにするものだ。

Claim about Chinese control of the Panama Canal 

パナマ運河を再びコントロールしたいと繰り返すトランプ大統領は、運河の運営についてミスリードしている。トランプ大統領は、「そして何より中国がパナマ運河を運営している」と言うが、この指摘は誤りだ。

1999年12月31日よりパナマ運河は、パナマ共和国が所有し、統治している。パナマ運河は、(11人の役員が取り仕切っている)パナマ運河公社によって管理されている。ただ中国は運河に影響力は持っている。パナマで現地調査を行なったバッファロー大学のカーラ・マルチネス・マチェイン氏、ボイシ州立大学のマイケル・A・アレン氏、それにカンザス州立大学のマイケル・E・フリン氏の3人の防衛分野の専門家たちは、1月13日付けの記事で、中国人の兵士たちが運河を運営しているというのは誤りだが、中国企業が運河に利害関係を持っているのは確かだと書いている。

「現在、香港に拠点を持つハチソン・ポーツ(Hutchison Ports)の支社であるパナマ・ポーツ・カンパニー(the Panama Ports Company)が、バルボア港とクリストバル港を管理している。その二つの港は、運河の入り口と出口になっている。会社は最近、2047年まで港を管理するリース権を更新した」。

ただ専門家らは付け足している。「これらの港は、香港の会社に管理されているが、港と運河に渡る権限は、パナマ政府に属するパナマ運河公社が維持している」。

Trump wrong that there was “record inflation” under Biden

トランプ大統領は、「次にわたしは膨大な権力を行使できるすべての閣僚に対して、過去最高のインフレ率を克服改善し、すぐにコストや価格を下げるよう指示する」と述べた。

バイデン政権での前の年と比べた最高のインフレ率は、2022年の約9%だ。これはおよそ40年間でもっとも高い数字だ。しかし高いインフレ率は、1970年代や80年代初めで、12%から15%を記録している。アメリカが第二次世界大戦に勝利した後の1946年には18%を超えている。

ほとんど誤り(Mostly false)」は3件

Trump misleads about “mandates” for Green New Deal, electric vehicles

トランプ大統領は、「今日の私の行動で、グリーン・ニューディールを終わらせ、電気自動車の義務化を撤回することになる」と述べたが、これはミスリードだ。

発効されている「グリーン・ニューディール」は一つもない。民主党のエドワード・マーキー上院議員とアレクサンドリア・オカシオ・コルテツ下院議員が2019年、温暖化対策として包括的な決議案を提出したが、法律化することはなかった。

バイデン政権になって、議会は(the Infrastructure Investment and Jobs Act and the Inflation Reduction Actを含む)いくつかの温暖化対策の目標を盛り込んだインフラ投資と雇用対策、それに物価を下げる対策を含む法案を可決している。トランプ大統領が大統領令で法律を覆すことはできない。

1月20日夕現在、大統領が今後とる対策は明らかではない。一方、大統領令の内容は分からないが、バイデン政権は、2024年、最初の年の目標値に基づいてアメリカで販売されるすべての乗用車と軽トラックの56%を2032年までに電気自動車かハイブリッド車にするよう求める規定を出している。

Most economists say tariffs do not “enrich” the country levying them

トランプ大統領は、「外国を潤すためアメリカ国民に税金を課ける代わりに、アメリカ国民を潤すため外国に関税をかけ、税金を課す」と述べ、関税をかける計画について主張した。

PolitiFactの取材によるとほとんどの経済学者は、関税がアメリカ国民を「潤す」とは考えていない。関税が現実社会でそのように機能するのは稀だ。価格の上昇によって関税を取り入れた国の消費者はしばしば損していると話す。ボイシ州立大学の政治学者、ロス・バークハート氏は「関税はビジネスを進める際のコストを人工的に上げてしまう。経済成長の落ち込み、人工的な価格上昇、消費の低迷という形であらゆる経済的生産に打撃を与える。消費者にとっては購買力の低下につながる」とPolitiFactに述べた。

関税はまた、国内生産者が輸入した原材料の国内価格上昇分を支払うことを意味する。

Trump inflates U.S. death toll from building of the Panama Canal

トランプ大統領は就任演説で、「(パナマ運河の建設で)アメリカは3万8000人の命を失った」と述べ、アメリカはパナマ運河をコントロールすべきだという主張を強めた。

この人数は、公式の犠牲者の人数を超えている。1881年から建設を行なったフランス人の犠牲者を加えれば、この人数も可能かもしれない。

クリストファー・クライン氏は 2023 History.com article の中で、「パナマ運河の建設で、30年間余りで少なくても2万5000人が亡くなっている」と書いている。クライン氏はまた国務省の話として、フランスが1888年に工事(計画)を断念するまで、事故や病気で2万人が亡くなり、そのほとんどがカリブ海の島々からの労働者だったとしている。

クライン氏はまた「1904年から建設が完了する1913年の間にまで、アメリカでは5,855人の労働者が亡くなったと記録されている」と書いている。アメリカが記録した死亡者数やフランス人の死亡者数に関するほかの記事からも類似の数字がある。

レーティングなし

Trump didn’t put his hand on the Bible when he was sworn in.He’s still the president.

宣誓を終えた直後から、トランプ大統領が聖書の上に一度も左手を置かなかったという指摘が出始めた。トランプ大統領が手を置かなかったのは事実だが、それで大統領に就任していないとは言えない。

最高裁のジョン・ロバーツ長官が宣誓を執り行い始めた。そしてファーストレディであるメラニア夫人の前で右手を挙げるようトランプ大統領に求めた。メラニア夫人はトランプ大統領が届く位置で聖書を持っていた。宣誓時の動画や画像からトランプ大統領が宣誓を行なったものの、聖書に手を置かなかったことが判る。

歴代の大統領や連邦政府のメンバーは、聖書に手を置いて宣誓を行なってきたが、合衆国憲法は聖書に手を置くことを求めてはいない。

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