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【参院選25FactCheck】立民・野田代表”食料品の消費税を0%にするための財源10兆円ある”は本当か

【参院選25FactCheck】立民・野田代表”食料品の消費税を0%にするための財源10兆円ある”は本当か

立憲民主党の野田代表が7月2日に行われた党首討論会(日本記者クラブ主催)で、食料品の消費税を0%にするための財源としては、基金の積み過ぎや特別会計などで10兆円あると発言した。その根拠は明確なのかファクトチェックした。

対象言説

「基金の積み過ぎ」の有無、「外国為替特別会計」からの一般会計への組み入れ、「租税特別措置」の金額の3つポイントから検証を行った。

7月2日、日本記者クラブで開催された党首討論会での立憲民主党の野田佳彦代表の発言。
「外為特会の剰余金であるとか所得の見直しなどで2 年間の10 兆円分の財源は作っております。基金のお積みすぎ、これは2 月現在で7.8 兆円ありました。それから、推移をずっと見ていますけども、間違いなくまだ 4.6 兆円残ってるという風に思っていますので、2 年分の財源としてこの4.6 兆を入れています。7.8 兆で全部明示してる会計がありますので、そこからのチョイスをしてるということであります。
それから、外為特会は、これはですね、剰余金出た場合には7 割はこれ一般会計に充てると、3 割は残すということでしたけども、全部一般会計に使うってことは、これはコロナの時からやり始めていますんで、これを令和6 年、令和7 年、令和8年と3 年間やれば3.6 兆円算出することができます。
それから、隠れ補助金と言われてる租税特別措置は2 兆円台ありますんで、そのうちの賃上げ促進税制だけでも0.7 兆円あり、ありますんでね、これ合わせると、全て合わせて1.8 兆円捻出することができます。」

結論

結論としては「基金の積みすぎ」「租税特別措置」については正確またはほぼ正確であり、一方、「外国為替特別会計」については一部に誤りを含んだ内容があった。

ファクトチェックの詳細

基金の積み過ぎについて

いわゆる「積みすぎ基金」とは、基金残高があるのに新たな基金の予算を計上することで基金の積み残しがたまることを指す。政府の予算の無駄遣いと批判を受け、令和 5 年第55 回行革革新推進会議で基金の点検と見直しのルールとして「基金の点検・見直しの横断的な方針」を打ち出された。

令和7 (2025)年2 月5 日の衆議院予算委員会で、立憲民主党所属の城井崇衆議院議員が積みすぎ基金が7兆円 から8 兆円であるという試算を示し、城井議員は自らのHPでも「令和6(2024)年度109基金で少なくとも約7.8兆円の『積み過ぎ』部分がある」と述べている。

 城井氏の指摘を受けて、令和7 年2 月13 日衆議院予算委員会で、加藤勝信財務大臣は「令和六年度基金シートにおける基金残高や支出見込みを単純に足し上げますと、令和五年度末の基金残高は約十六・四兆円、令和六年度当初、補正予算において措置された金額を合計すると約三・五兆円、令和六年度の支出見込額は約五・六兆円、令和七年度の支出見込みは約六・二兆円、また、令和八年度の支出見込額については現時点で見込むことが困難であり、基金シートでも記載されていないものと承知をしております」と答弁している。
 この数字を差し引きすると約8.1 兆円の基金残高が残る計算になる。野田代表の「2 月で積みすぎ基金が7 から8 兆円」と発言した根拠はこの予算委員会で城井議員の主張および加藤大臣答弁を受けたものであると考えら、野田氏の発言は根拠が明確で正確であると言える。

外国為替特別会計について

 野田代表は「外為特会は、これはですね、剰余金出た場合には7 割はこれ一般会計に充てると、3 割は残すということでしたけども、全部一般会計に使うってことは、これはコロナの時からやり始めています」と党首討論で述べた。

 まず、財務省HPによれば、外国為替特別会計とは政府の行う外国為替等の取引を円滑に行うため、外国為替資金を設置した特別会計のことである。外国為替資金特別会計の剰余金とは外為特会の運用収入による歳入から歳出を引いたものである。

 外為特会の剰余金の一部は一般会計に繰り入れられる。野田発言はこの一般会計に繰り入れられた剰余金を食料品の消費税0%の財源として使うとの趣旨である。一方、野田発言にある「剰余金の7 割を一般会計に、3 割は残す」という点については明確に法令で定められているわけではなく、財務省の説明は以下のとおりである。

「外国為替資金特別会計に発生する利益(剰余金)の使途については、その健全な運営を確保するために必要な金額を、外国為替資金に組み入れるものとしている。他方、一般会計の厳しい財政事情に鑑み、外国為替資金特別会計の剰余金をできるだけ一般会計財源として活用すべきとの要請もある。外国為替資金への組入額と一般会計への繰入額は、この両方の点を勘案して決定している。」

 実際、令和5年度決算においては、3.9兆円の剰余金が生じ、うち、約2兆円を一般会計に繰り入れ、約5千億円は翌年の歳入に繰り入れた。必ずしも野田代表の言うように7割・3割と決まっているわけではなさそうである。以下の表でまとめたように、剰余金の処理の方法は年によって異なり、新型コロナウイルスの流行以降も全てが一般会計に入れられたことはない。

これらについて立憲民主党に問い合わせをした。これに対して立憲民主党から回答があった。先ず、外為特会について、「剰余金出た場合には7 割はこれ一般会計に充てると、3 割は残すということでした」という点についての問い合わせには以下の回答があった。

「これは「一般会計繰入ルール」と言われるもので、野田代表が財務大臣を務めていた2010年
12月22日に設けられたものです(財務省のホームページからも確認をすることができます)。こ
のルールはその後も維持されており、例えば、衆議院財務金融委員会において、鈴木俊一財
務大臣(当時)は「外為特会から毎年度生じる剰余金の処理に当たりましては、その3割以上を
外為特会に留保すること、これを基本とした上で、外為特会の財務状況でありますとか一般会
計の財務状況を勘案をいたしまして一般会計への繰入額を決定することといたしております」と
答弁をされています(2023年5月9日)。また、本年6月11日に行われた国家基本政策委員会合
同審査会における党首討論では、石破総理も「外為特会でも、7割は一般財源になっているわ
けでしょう」と発言をされており、これも「一般会計繰入ルール」に基づく運用がなされていること
を裏付けるものとなっています。
(財務省HP)外国為替資金特別会計の剰余金の一般会計繰入ルールについて
https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/gaitame_kawase/foreign_exchange_fund_special
_account/gaitame_kuriire.htm」

次に、コロナの時から全部一般会計に使うとした発言の根拠については以下の回答があった。

財務省のHPにおいて、外国為替資金特別会計(外為特会)の決算情報が公開されています
が、令和4(2022)年度においては、前述の「一般会計繰入ルール」に反して、外国為替資金へ
の組み入れ(=外為特会への留保)が一切行われず、翌年度歳入への繰り入れを除き、剰余
金の全額(2.8兆円)を一般会計に繰り入れていることが分かります。
(財務省HP)令和4年度決算(外国為替資金特別会計)
https://www.mof.go.jp/about_mof/mof_budget/special_account/gaitame/2022account.html

 以上が外為特会に関する立憲民主党の回答だ。ただし、上記ファクトチェックの通り、データを確認すると必ずしも「一般会計繰入ルール」の通りに繰り入れが行われているわけではなく、また新型コロナウイルスの流行以降も毎年全てが一般会計に入れられてはいない。また記載されているHPのURLは正しくはこちらのURLだと思われる。

租税特別措置について

  租税特別措置とは、税制の優遇措置であり、特定の目的、目標を果たすために、条件を設けてそれを満たすことで限定的に特別措置が適用され税額が軽減(加重)されるものである。野田氏は特別措置の軽減のことを「隠れ補助金」と形容した。

 野田氏は「賃上げの促進税制が7000 億円」と発言していたが、財務省の租税特別措置の適用実態調査の結果に関する報告書によれば、賃上げの促進税制は、給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除という項目であり、令和5 年度の控除額を確認すると7278 億円あった。

また、「隠れ補助金と言われてる租税特別措置は2 兆円台あります」という点については、朝日新聞の以下の報道がある。記事では特定の企業が個人の税負担を軽減するための「租税特別措置」(租特)による法人税の減収額が、2022年度は2兆3015億円にのぼるとされている。

ただ、「1.8 兆円捻出することができます」という部分の根拠は見つけることがでず、立憲民主党に問い合わせを行った。以下が立憲民主党からの回答だ。

お示しをいただいた野田代表の発言の中で、「2年間の10兆円分の財源は作っております」と
の発言がありますが、この「1.8兆円」というのは、その2年間分の数字となっております。その
内訳ですが、「賃上げ促進税制」の廃止による法人税増収額0.7兆円×2=1.4兆円に加えて、
その他所要の租特の見直しにより、1年あたり0.2兆円、2年間で0.4兆円の増収が見込めるも
のと考えております。

以上が立憲民主党からの回答だ。これによって「1.8兆円」についてはその根拠を確認することができた。

(村上倫太郎,柴田和樹/大東文化大学社会学部・野嶋ゼミファクトチェックチーム)

編集長追記

 消費税の減税をめぐる議論では、消費税法で使途が定められている社会保障費の財源をどう確保するかが焦点の一つとなっています。それだけに財源は有るとした野田代表の発言の根拠を確認するファクトチェックは重要だと考えます。対応して頂いた立憲民主党には感謝します。

 この記事が示す通り、InFactのファクトチェックは発信者や発信された発言を否定したり批判したりするものではありません。発言の根拠を確認し、その内容を社会と共有することを目指しています。立憲民主党の回答を踏まえ、事実と認められるものについてはその通りに記し、そうでないものについてはその点を記しています。


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