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【参院選25FactCheck】立民・候補者 ”防衛費ばかり増えている” は本当?

【参院選25FactCheck】立民・候補者 ”防衛費ばかり増えている” は本当?

長野県選挙区から出ている立憲民主党の羽田次郎候補が街頭演説で、「医療従事者、保育士、介護士に就く人が少なくなっているのは所得が少ないから」「防衛費ばかりどんどん増えている」などと発言した。これらの発言に根拠があるのか、ファクトチェックした。(この記事は8bitNewsのニュース動画を記事化したものです)

対象言説

立憲民主党の羽田次郎候補が7月9日、長野県駒ヶ根市内で次のように演説した。

「駅の周辺からどんどんお店が、シャッターが閉まっていき、人口も高齢者が住んでいる、働いている皆さんも、なかなか子供を預ける場所はない。そうした様々な課題はやはり、都会に人が一極集中していく、そうした中において人手不足、若い人たちがどんどんどんどん、東京、名古屋、大阪などにみんな移り住んでしまう。そうしたことに歯止めをかけて、出ていってしまった若者たちを再び地域に戻ってきてもらう。そのためには医療や介護教育、保育も含めてそうした政策を整えていく。

医療従事者や保育士、介護士などそうした職業につく方たちがなぜ少なくなっていくか、やっぱり所得が十分じゃないからです。農業も全く同じこと。そうした皆さんが所得を得られる制度の改革が必要だと考えております。防衛費ばかりどんどん増えていくそんな予算の使い方、そろそろ見直さなければいけない私は考えております。

今回の選挙、昨年10月、国民おひとりおひとりが今の与党・自民党ではなくて野党を選んでいただいたそのことによって与野党の数が逆転する、これはやっぱり皆様が物価高、この1年半で3万品目も食料品だけで値上がりしている、明日の生活どうするか苦しんでいる人がいる中で、自民党の政治家中心に永田町でパーティーを開き、そして裏金を作り、責任を追及されたら高齢の会計責任者に全ての責任を押し付ける。

地域の皆様が安心して暮らせる制度、地域のインフラを整えていかなければ、若い人は戻ってこない。移住者も定住できない。都会に集中した財源を地域に移動してくる地方分権を進める必要がある。地域の課題は地域の皆様に考えていただくことを私たちは進めなければいけない。」

この演説から、次の3点について検証した。

①「医療従事者や保育士、介護士が少なくなっていくのは所得が十分ではないから

②「防衛費ばかり予算がどんどん増えていく

③「物価高によりこの1年半で3万品目も食料品だけで値上がりしている

結論

①は、保育士については退職理由の上位に低収入が挙げられているが、他の職種では当てはまらない。保育士、医療従事者、介護士の数は増加傾向にある。

②は、防衛費の予算は増加しているが防衛費だけではなく、社会保障関係費も増えている。

③は、2024年1月以降で約3万品目の食料品が値上がりしている。

ファクトチェックの詳細

①医療従事者や保育士、介護士が少なくなっていくのは所得が十分ではないから

厚生労働省の統計資料によると、各職種の1ヶ月平均賃金は、次のとおりである。

・医師 102万5900円
・看護師 36万3500円
・保育士 27万7200円
・介護支援専門員 30万1600円
・全産業平均の一般労働者 33万0400円

医師の数看護師の数保育士の数介護福祉士の数はいずれも増加傾向にある。

他方、低所得が現実の退職理由になっているかどうかも確認した。

看護師については、日本看護協会の調査(2025年)によると、「2023 年度に退職した新卒看護師について看護管理者が考える主な退職理由」の上位は「健康上の理由(精神的疾患)」が52.5%などで、「給与への不満」は2.4%となっていた(日本看護協会)。ただ、これは看護管理者の認識を示したもので、退職理由の実態を反映しているのかは定かでない。

労働組合である自治労の調査であるが、「公立・公的医療機関で働く医療従事者の意識・影響調査結果」(2025年)によると、67%の医療従事者が収入に不満を持っているとの結果が出ている(労働政策研究・研修機構)。ただ、低収入が現実の退職につながっているかどうかは定かでない。

保育士については、東京都の調査(2019年)で、退職理由の2位(29.2%)に「給料が安い」が入っていたという調査結果がある(令和4年版厚生労働白書)。

介護職については、公益財団法人介護労働安定センターの調査(2023年)で「職場の人間関係に問題があったため」が最も多く34.3%、「収入が少なかったため」は4番目の16.6%だった(同センター報道発表)。

これについて立憲民主党に質問したところ、以下のコメントがあった。


〇 介護や医療従事者についても、賃金と退職との関連性に関する調査結果があります。
・「令和5年度 介護労働実態調査」(公益財団法人介護労働安定センター)の労働者調査の結果では、介護従事者が直前の介護の仕事を辞めた理由として「収入が少なかったため」が4番目に多い回答で16.6%となっています。また、同調査では、労働条件等の悩み、不安、不満等の内容として、「仕事内容のわりに賃金が低い」が37.5%で2番目に多い回答となっています。
・自治労が今年3月に公表した「医療従事者の意識・影響調査結果」では、「現在の職場を辞めたい」と思う人の割合(「常に思う」・「しばしば思う」・「たまに思う」の合計)は77%に上っています。離職を検討する理由としては「賃金に不満」が2番目に多い回答となっています。収入については67%が不満(「不満」・「やや不満」の合計)と感じており、不満の理由は「物価上昇に比べ賃金が上がっていない」が最多となっています。
〇 85歳以上を中心に高齢者数は 2040年頃のピークまで増加し、介護や医療の需要が増加していくと見込まれています。介護職員や看護職員の人数は増加傾向にありますが、2040年頃に向けてさらなる人手の確保が求められています。

②防衛費ばかり予算がどんどん増えていく

防衛関係費は、当初予算ベースでみた場合、2012年度の4.71兆円から2024年度の7.95兆円に大きく増加している。特に2023年度からは急激に伸びている。背景には、岸田内閣が防衛予算を2027年度までにGDP比2%に拡大する方針を決定したことがある。

令和6年版防衛白書より)

ただし、予算が増えているのは防衛費だけではない。社会保障費も年々増加している。

財務省のまとめた「社会保障参考資料」によると、2012年度の28.9兆円から2024年度の37.7兆円となっている。1990年度と2024年度を比較した場合、社会保障費の方が防衛費よりも金額・割合ともに増え方が大きいことがわかる(下図参照)。

財務省「社会保障参考資料」より)

増加の割合はどのスパンでみるかによって変わってくる。ここ数年に限ると、防衛予算の増え方の方が大きいのは確かだ。

これについて立憲民主党はインファクトの取材に対して次のようにコメントした。

防衛費に関しては2022年度まではGDP比1%程度で5兆円代だったものが、政府の方針で2023年度から5年間でGDP比2%へ倍増させるとした。5年間で倍増させるというのは急激な予算増であり、またこれは政府の意思としてこの分野の予算を倍増させるという増加であり、社会保障の自然増とは増加の性質が違うことを表現したものです。
https://www.mod.go.jp/j/budget/yosan_gaiyo/fy2025/yosan_20250402.pdf (p.8参照)
さらに、例えば、防衛予算の増加率でいうと、22年度から23年度は26.3%(1.4兆円超)のところ、社会保障費の増加率は0.41兆円、これは36.9兆円の社会保障費全体の比率にすると防衛費の伸び率よりはるかに低いレベルです。
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20241113/02.pdf (p.6参照)

③この1年半で3万品目も食料品だけで値上がりしている

帝国データバンクの「食品主要195社」価格改定動向調査によると、2024年の値上げ12,520品目、2025年の値上げ品目(11月分まで判明分)は18,697品目となっている。

2024年1月以降を合計すると約3万品目だが、今年11月分まで含まれているため、厳密には1年半分ではないが(1年半分だと約2万5000品目)、おおむね正しい。

 (8bitNews 構二葵)

以上の記事の内容は8bitNewsでご覧いただけます。

編集長追記
この記事は8bitNewsが動画サイトで報じたものにInFact編集部で一部加筆して記事化し、8bitNewsの確認を経て共有させて頂いています。立憲民主党への質問はInFact編集部として行っています。

InFactのファクトチェックは発言者を批判したり否定したりするものではなく、発言の内容について事実関係や発言の根拠を確認して社会と共有するものです。

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