
2月8日投開票で衆議院選挙が行われることになった。高市首相は1月19日に首相官邸で行った記者会見で、食料品について2年間に限り消費税の対象としないとの公約を掲げた。しかし、高市首相は就任後の国会審議では、消費税の税率を下げることについて「スーパーのシステム改修に1年以上かかる」旨の発言をしている。それが本当なら、公約を実現するのは数年先ということになるが、そもそも、この発言はどこまで明確な根拠に基づくものだったのだろうか。選挙を前に、消費税をめぐる高市首相の国会での発言についてあらためてファクトチェックした。(画像は1月19日の高市首相の会見)
対象言説 高市首相 ”スーパーのシステム改修に1年以上はかかる”
高市首相の答弁:「あまり言いたくはなかったのですが、消費税率の引き下げについて、大手事業者の関連システムの改修に1年以上かかるとか、これもかなりシェアの高い大手のシステム関係の事業者ですが、レジの改修、これにまず1年以上かかるということで、まず物価高対策として即効性のあるものとしては、諦めた経緯がある」(2025年11月10日衆院予算委員会)。

結論
システム改修とはPOSシステムを指していると考えられるが、この改修に1年以上を要するとは確定的には言い難い。半年以内にできるという大手事業者の証言もある。高市首相はその点も含めて丁寧に説明する必要がある。ただし、これは与党だけでなく、野党の議院からも聞かれる内容で、与野党ともに丁寧に説明する必要がある。
ファクトチェックの詳細
POSシステムと呼ばれるいわゆるスーパーのレジシステムについて国内シェアを多く占める大手企業3社(東芝テック、NECプラットフォームズ、富士通)にこの点について確認した。POSシステムとは、「Point Of Sales System(販売時点情報管理)」の頭文字をとった呼称で、レジを含む販売管理のシステム全体を指す。このシステムについてはKDDI BUSINESSが具体的に説明しているのでそちらを参照して欲しいが、その改修について前記3社が回答に際して具体的な社名を出さないことを条件に回答した。このため、社名は出さずに以下、その回答を紹介する。
A社:「税率を一律変更するにしても、食料品のみ税率を変更するにしても、顧客である店舗側で設定変更することが可能だ。メーカー側によるシステム改修をせずとも、顧客側でPOSシステムの設定変更をすることで税率変更に対応できる。仮にシステム改修など、メーカー側の対応が必要になったとしても、税制に合わせてシステムの検証を実施し、顧客へマニュアルを案内するというプロセスを要するものの、それも半年程度あれば対応可能。」
B社:「単純な税率の変更のみであれば、メーカーによるPOSシステムの改修は不要。ただ、内税商品の価格見直しなどが同時に発生する場合は、システム改修以外の部分で時間がかかることが予想される。顧客ごとに個別に改修をしている場合や、POSシステムの連携する外部システムとの影響によっては、大規模な改修が必要になるケースもある。なお、これまで単純な税率引き上げ(1997年4月の3%から5%)の際には3〜6か月の期間を、2014年4月の税率引き上げ時には総額表示への対応なども並行して実施する顧客もいたことから商品価格の一斉更新なども進めたため6〜12か月程度の期間がそれぞれかかった。」
C社:「POSシステムの改修に要する期間や費用を一概に回答することはできない。全国展開をしている顧客もいれば、1店鋪のみの経営をしている顧客もおり、モデルや仕様、カスタマイズの有無、他のシステムとの連携状況によって、対応がそれぞれ異なるからだ。」
つまり、A社は「半年程度もあれば対応可能」、B社は「単純な税率引き上げの際には3か月~6か月」で「総額表示への対応なども並行して実施する」ケースでは「6か月~12か月」、C社は一概に回答することはできない」という結果だ。C社の回答を考慮しても、以上のことからスーパーのPOSシステムの改修に一定の期間はかかるものの、1年以上の期間を要するとは必ずしも言えない。
(田中善之)
編集長追記
1月19日の高市首相会見で消費税減税は「私の悲願だ」と発言している。では、「1年以上かかる」という国会での後ろ向きの説明は何だったのかということになるが、ここでは、もう少し「1年以上かかる」という説明にこだわってみたい。
この種の発言は高市首相だけではない。2025年5月21日、野田氏との党首討論の中で、当時の石破首相が同様の発言している。そこから考えられるのは財務省がこうした答弁を作成しているということだ。
因みに、生成AIのGeminiに「日本政府は消費税を引き下げると、レジシステムの改定などで1年以上かかると言っています。これは本当ですか?」と問うと、以下の回答が寄せられる。
AIの回答
「「1年以上かかる」という主張が妥当かどうか、主な理由を整理して解説します。
1. レジ・基幹システムの改修
現代の小売店や企業のシステムは非常に複雑です。
- POSレジの改修: 単に税率を10%から8%に変えるだけでなく、過去の売上データとの整合性、返品処理の計算ロジック、レシート印字の変更などが必要です。
- 基幹システム(ERP): 企業の在庫管理、受発注、会計ソフトはすべて税率と連動しています。特にB2B(企業間取引)では、契約書上の税率や請求書のフォーマット変更など、膨大なプログラム修正が発生します。
2. 「軽減税率」という大きな壁
現在の日本の消費税には、標準税率(10%)と軽減税率(8%)の2種類が存在します。
- 区分の再設定: もし消費税を一律に引き下げるならまだしも、「特定の品目だけ下げる」あるいは「全品下げるが軽減税率枠は維持する」といった形になると、商品マスター(数十万点に及ぶこともある)のデータを一つずつ書き換える作業が発生します。
- インボイス制度への対応: 2023年から導入されたインボイス制度により、税率ごとの計算と端数処理のルールが厳格化されました。これを再び変更するのは、エンジニアの確保を含め大きな負担となります。
3. 値札の貼り替えと物流の混乱
実店舗を持つ小売店にとって、最もアナログで過酷なのが「値札の変更」です。
- スーパーや百貨店にある数万点の商品の棚札をすべて貼り替えるには、膨大な人件費と時間が必要です。
- また、増税時と同様、減税時も「駆け込み需要」や「買い控え」が発生し、物流がパンクするリスクがあります。
4. 過去の事例との比較
過去の増税時には、政府は周知期間として半年〜1年程度を設けてきました。
システムの「デバッグ(検証)」: 金融機関や公共料金のシステムは、1円の誤差も許されません。プログラムを書き換えた後、数ヶ月かけてテスト運用を行うのが通例です。に勿論、消費税の税率の変更については慎重に考える必要が有るとの意見は理解できる。しかし仮に消費税を下げるべきでないというなら、政策論を展開すべきで、必ずしも事実とは言えない話を持ち出して政府答弁を行うことは避けなければならない。
2019年の10%への増税: 法律の成立から実施まで十分な期間がありましたが、それでも中小企業のレジ導入支援などに時間がかかりました。」
以上が生成AIの回答だ。一見もっともらしく見えるが、細かく見ると政府のこれまでの説明をまとめているだけなのがわかる。例えば、1の「現代の小売店や企業のシステムは非常に複雑です。」にしても、それを踏まえて3社は回答しており、POSのシステムを理由に1年以上かかると断定できるものではない。2についてはも同様だろう。3については実はスーパーマーケットの取材で同じ回答が有ったが、これは税抜きでの表示に戻せば解決する話だ。そうすれば消費税率がどう変わろうがスーパーマーケットはそれによって作業を強いられずに済む。また4については逆に言えば、過去に3%から5%、5%から8%、8%から10%といった数度の税率引き上げは経験値として蓄積されていると考えることもできる。つまり、生成AIの回答は単に政府の回答をなぞっただけで、それをもって高市首相の国会での発言が正しいと言うのは難しい。
実は、石破首相の「1年以上かかる」の発言について理解を示す発言をしている他、ファクトチェックをしたメディアの中には「1年以上かかる」を「ほぼ正確」と判定したケースもある。そういう意味では、3社の回答をどう読むかで判断がわかれるところもあるのかもしれない。ただし、本当に「1年以上かかる」というならば、自民党が衆議院選挙で公約に掲げた「2年間消費税ゼロ」という案をどう理解したら良いのかわからなくなる。
消費税の引き下げは常に財源論を無視してはできない。そういう意味で、消費税の引き下げに慎重な財務省がシステムの複雑さを理由にしている面も有るのだろう。しかし、そもそも財源論とシステムの話は異なるものだ。財源論は財源論、システムの説明はシステムの説明として整理して議論しなければいけない。それらを混同させて、消費税を下げるにせよ上げるにせよ、結論を導くためだけに都合の良い説明を続けるとなると、今回のように一種の矛盾を露呈することになる。それは極めて深刻な政治不信を招くことを政府も与野党も理解するべきだろう。

