第2 これまでの経緯
これまでの経緯を時系列でまとめておく(青下線部は9月6日追記部分)。
- 4月16日 武田邦彦氏(以下「武田氏」という)が自身のブログで「コロナ考え直し2:PCRは検査にならず」と題する動画を配信。
「PCR検査というのは武漢風邪も検出するし、普通の風邪も検出すると。両方とも陽性となると。だからPCRが陽性だといって武漢風邪とは限りません」などと発言。 - 6月18日 インファクトにおいて、4月16日公開の武田氏の発言動画について「『PCR検査は風邪も検出』と誤った主張の動画が拡散」と題したファクトチェック記事を作成し、掲載。
- 7月10日 『虎ノ門ニュース』生放送
・出演した武田氏が、この記事について言及しつつ「これ間違いだらけなんだけどそれはしょうがない」「こういう団体ね。やっぱり、毎日新聞とか、琉球新報とか、そういうところからスポンサーもらったらさ、お金もらったらね、そりゃだめだよ」などと発言。
・須田慎一郎氏(以下「須田氏」という)が、「メディアが、自分たちの名前でやると、色ついて見られちゃう。公正中立さを装うために、こういった団体をわざわざ作ってるんですよ」「ファクトチェック・イニシアティブ、特定非営利活動法人として、東京都の認証受けてるんですよ。やっぱり東京都にこれは抗議すべきですよ」などと発言。
・7月10日放送の『虎ノ門ニュース』は、事前にインファクトやFIJ側への取材、放送を行う予定であるとの事前通知も、放送を行ったとの事後通告もありませんでした。視聴者から多数の誹謗中傷が届いたことで、放送された事実を事後的に知らされた形でした。
- 7月10日 インファクトが厳重抗議と訂正申し入れのコメントを発表し、立岩陽一郎編集長より、DHCテレビ番組担当者宛に送付。
・訂正申し入れの内容は2点。
①武田邦彦氏が勤める大学等に抗議等が寄せられたことについて、インファクトの関係者が関与した事実はないこと。
②大手メディアをファクトチェックの対象とせず、右派系ネット情報のみを対象に結論ありきの検証をしているとの指摘は事実と異なること。 - 同日 FIJも訂正申し入れ文を発表し、DHCテレビ番組担当者宛に送付。
・訂正申し入れの内容は3点。
①FIJまたはメディアパートナーの関係者が、武田氏が勤める大学等に、抗議等を寄せた事実はないこと。
②FIJがメディアパートナーである琉球新報、中京テレビ、毎日新聞など、既存メディアからお金をもらっている事実はないこと。
③大手メディアの報道をファクトチェックの対象から除外し、ネット上の情報だけを検証対象とし、特定の立場の言論に批判を加える手段としてファクトチェックを行っているとの事実はないこと。 - 同日 『虎ノ門ニュース』ホームページにてFIJから訂正申し入れがあったことを掲載。ただ、インファクトから訂正申し入れがあったことについては言及しなかった。
- 7月13日 『虎ノ門ニュース』生放送
・番組側がFIJの訂正申し入れ文を読み上げ、武田氏のビデオメッセージを放送。インファクトの訂正申入れには言及しなかった。
・FIJの訂正申し入れ①に関し、武田氏は「(引用注:大学に連絡をしてきた人が)ファクトチェックというグループに所属していようが所属していまいが、まあ結果的には同じことなんですね」などと述べた。
・番組側は、「武田邦彦氏は、このグループから私にではなく中部大学にひどいメールを送ったとメール送信者がファクトチェックイニシアティブであることを示唆されていますがこの件につきましては訂正に応じたい」とのDHCテレビのコメントを発表。同時に、武田氏に対し反論の機会を与えず取材や記事掲載告知も行っていない点を指摘し、「ファクトチェックイニシアティブは武田邦彦氏に謝罪される必要があるのでは謝罪する必要があるのではないか」との見解を発表。
・7月13日放送の『虎ノ門ニュース』も、事前にインファクトやFIJ側への取材、放送を行う予定であるとの事前通知も、放送を行ったとの事後通告もありませんでした。視聴者から多数の誹謗中傷が届いたことで、放送された事実を事後的に知らされた形でした。
・当方のファクトチェックの対象は武田氏のブログ上の言説であり、番組から謝罪を要求される理由はありません。ファクトチェックを行った主体ではないFIJへの要求も筋違いです。そもそも、武田氏の当の本人からは、記事の内容に事実誤認があるとの具体的根拠に基づく指摘も、謝罪要求も全くいただいておりません。このケースにおいて記事化前の取材が必要ないと判断した理由は、前記「第1 見解の骨子」2(2)に記載した通りです。
・FIJの訂正申し入れ②に関し、武田氏は「ね、理事長から始め委員とかボードの人とかですね、それから周辺の協力者とかいっぱいいますけどね。その人たちが全くお金に関係なく活動に協力するっていうことは、僕の常識ではちょっとないんで」などと述べた。
・番組側は、「サイト上で明確に金銭の授受を否定していない限り、メディアパートナーから資金援助を受けていると誤解されるのは当然と言えるのではないでしょうか。以上のことから番組と致しましては訂正には応じますが、ファクトチェックイニシアティブにおかれましては公式サイトでの表示方法など誤解のないような掲載を求めたいと思います」との見解を発表。
FIJに関する事項ですが、この放送前から、FIJのサイトにはメディアパートナーから「加盟料・参加料は頂いておりません」と明記されています。
・FIJの訂正申し入れ③には言及せず、「今回の件につきましては当番組および武田邦彦氏また共演の須田慎一郎氏は引き続き取材活動を継続し進展がございましたら改めて番組内でご紹介させていただきたく存じます」とMCがコメント。
・この件について、出演者の田北真樹子氏や竹田恒泰氏がコメントを求められ発言。その際、田北氏は「右派メディア」という言葉がサイトで使われていると指摘し、「特定の立ち位置にいるメディアに対しては厳しくウォッチされるのかなというような印象は受けました」と発言。竹田氏は、FIJの訂正申し入れ文の一部表現を捉えて、FIJ関係者が武田氏の大学等に抗議・連絡をしてきた可能性が残されていることを示唆。
・番組MCがいうように、武田氏と須田氏の取材活動が継続して行われていたという事実はありません。この時点で両者からインファクト、FIJに対して何らの連絡も寄せられた事実はなく、その後もありませんでした。
・出演者の田北真樹子氏がいうように、インファクトやFIJのサイトには「右派メディア」という言葉を使っていません。「右派」という言葉を使ったのは、7月10日放送における須田慎一郎氏の「特に左派からのアプローチとしての、こういったファクトチェックが非常に流行ってるというか、大流行してるんですよ。つまり、保守だとか右派的なね、言論に対して、批判を加える手段としてのファクトチェック。だから結論先にありきなんですよ」という発言です。その発言を受けてインファクトの訂正申し入れ文で「大手メディアをファクトチェックの対象とせず、右派系ネット情報のみを対象に結論ありきの検証をしているとの指摘もありましたが、これも全く事実と異なる指摘です」と、番組出演者が使った表現だとわかるように記しています。
・竹田恒泰氏の発言に関しては、FIJから改めて事実関係を明確に全面否定する趣旨のコメントが発表されています。
- 7月14日 FIJが改めて事実関係を明確にする趣旨の見解を発表。
・見解は2点。
①ファクトチェック・ガイドラインで、特定の主義主張や党派・集団等に批判を加える目的で行われるものではないと明記していること。
②FIJやメディアパートナーの関係者が武田氏の大学等に連絡等を入れた事実がないこと。 - 7月24日 『虎ノ門ニュース』生放送
・①ファクトチェック団体は神様なのか、②何かしらの資格はあるのか、③対話することは可能なのか、④ファクトを確立する「論理的手法」はあるのか、の4点について検証するとの内容で出演者の見解を放送。
・武田氏の言説を検証したインファクトのファクトチェック記事について、須田氏は、選んだ理由について説明していない点を捉え、FIJのファクトチェック・ガイドラインを逸脱しているのではないかと指摘。対象に話を聞くことなく記事を出すことは「極めて不完全」「致命的」と批判。「誤り」とのレーティングについても「乱暴すぎる」と批判。
・7月24日放送の『虎ノ門ニュース』も、事前にインファクトやFIJ側への取材、放送を行う予定であるとの事前通知も、放送を行ったとの事後通告もありませんでした。いずれも視聴者から多数の誹謗中傷が届いたことで、放送された事実を事後的に知らされた形でした。
・ファクトチェックは神様なのか、お釈迦様なのか、という発言がありましたが、当然、ファクトチェックをするのも人間であり、間違いがゼロとは言い切れません。そのため、国際的なファクトチェック団体の綱領で、誤りがあった場合の「明確な訂正」がうたわれており、インファクトが加盟するFIJのガイドラインにもその点が盛り込まれています。
・ファクトチェックの対象言説を選択した理由を書いていないのはFIJのガイドラインを逸脱しているのではないかとの指摘がありました。FIJのガイドラインには、ファクトチェック記事で対象言説を選択した理由を明記する必要があるとの規定はなく、各メディアの判断に委ねられていると考えています。今回のファクトチェック記事では、武田氏の動画がかなりの再生回数に上っていたことに言及しています。
・ファクトチェックの対象言説の発信者に確認をとらずに記事化した点についても批判がありましたが、この点については「第1 見解の骨子」で述べた通りです。
- 8月4日 インファクト立岩編集長が、7月24日放送で武田氏が「PCR 法を開発したノーベル賞を取った人がウイルスの特定にはふさわしくないと言っている」と発言したことについて、武田氏に対しその根拠を質問する取材申込みメールを、番組を通じて送付。
それに対して、武田氏から取材に対する回答はなく、番組側から8月7日放送で回答するとの返答があった。 - 8月7日 『虎ノ門ニュース』生放送
・番組側は、インファクトから「PCR 法を開発したノーベル賞を取った人がウイルスの特定にはふさわしくないと言っている」と発言した根拠について武田氏に取材の質問があったことを明らかにしたが、武田氏はこれについて全く説明しなかった。
・MCは7月24日の番組内で公開質問を投げかけたが、回答がないと説明。改めて質問事項を記載した取材申請書を送付すると予告。
・7月24日放送では一方的に見解が発表されたことだけで、「公開質問」が行われたとは認識しておりませんし、その旨の事前、事後の連絡はありませんでした。
8月7日 『虎ノ門ニュース』担当者がFIJ事務局長(楊井)宛に取材申請書に送付。
これが7月10日の放送以来、初めて『虎ノ門ニュース』から来た取材申込みでした。しかし、取材を申し込んだのは須田慎一郎氏ではなく『虎ノ門ニュース』であり、ファクトチェックを行ったインファクトではなく、FIJに対する申込みでした。
8月11日 FIJ事務局長(楊井)から『虎ノ門ニュース』担当者に回答書を送付。
その際に、FIJとインファクトは異なる団体であるため、ファクトチェック記事の内容・経緯に関する質問は、改めてインファクトに質問、取材申込をするように連絡先とともに伝えた。(回答書の全文は次のページ参照)
・『虎ノ門ニュース』からの取材申請書には「私どもといたしましては、こちら側の一方的な配信にとどまらず、
・ただ、取材申請書には「私どもといたしましては、ファクトチェックを否定するのではなく、その在り方を伺い、ともに議論を深めていければと思っております」と書かれていましたので、ファクトチェックの理解が深まる形になるのであれば対応する考えでした。まず、FIJとインファクトの混同を避けるために、FIJとして回答できることは書面回答することとし、改めてインファクトに取材申請があれば対応することを、わざわざ連絡先を添えて伝えました。しかし、この連絡先にコンタクトが来ることはありませんでした。
- 8月14日 インファクトで、「『PCR法を開発してノーベル賞を取った人が『ウイルスの特定にはふさわしくない』と言った』は本当か?」と題するファクトチェック記事を作成し、公開。
- 8月21日 『虎ノ門ニュース』生放送
・虎ノ門ニュースがFIJ事務局長(楊井)に送付した取材申請書の質問事項について、FIJ事務局長として返答した回答書の内容が紹介された。(コメント)
・8月21日放送の『虎ノ門ニュース』も、事前にインファクトやFIJ側への取材、放送を行う予定であるとの事前通知も、放送を行ったとの事後通告もありませんでした。 - 8月31日 インファクトの楊井共同編集長が須田氏に対し、取材申請と質問書を送付。
質問事項は3点。
①須田氏はインファクトに取材をしたことがあるのか。
②インファクトの連絡先について『虎ノ門ニュース』の担当者から聞いていたのか。
③須田氏は、ファクトチェックの対象となった武田氏のPCR検査に関する言説を事実に基づいた正確な発言と認識しているのか。ファクトチェック記事に事実誤認があるのか。 - 9月4日 『虎ノ門ニュース』生放送
・インファクトからの取材申請書の質問事項が紹介された。これを受けて、須田氏は、質問①に関して「7月24日放送で、公開質問をしており、それが取材申込である」という趣旨の回答を、質問②に関しては、山田氏から聞いていると答え、質問③に関しては「結論から言うと、わかりません、ということですね。 今の私にそれに答えるだけの知見はない」と答えた。
・須田氏は『虎ノ門ニュース』担当者からインファクトの連絡先を聞いていたにも関わらず、これまで一度もインファクトに取材申込もせず、一方的に番組で批判的論評していたことを認めたことになります。インファクトからの取材申込に対して返信すらなく、番組内でもファクトチェックの内容についても見解表明を回避していました。須田氏は何度も武田氏と共演しており、ジャーナリストとして武田氏に具体的な根拠を聞き出すことはできたはずです。こうした経緯をみれば、須田氏の狙いは、ファクトチェックされた武田氏の言説内容にはなるべく触れずに、別団体であるFIJを攻撃して信用性を貶めることにあったと考えられます。