
春闘での大手企業の相次ぐ賃上げが注目されていおり、中小企業の状況に注目が集まっている。賃上げは政府が推し進める政策でもあり、最低賃金の引上げも同時に進められている。他方、最低賃金を引き上げると中小企業の倒産が増えるという指摘は根強くある。実際に最低賃金と倒産件数には関連はあるのか?2024年に最低賃金を大幅に引き上げた徳島県の例を検証した。

対象
「中小企業をつぶす気か、単純に価格転嫁や生産性の向上は厳しい(2025年8月5日放送・ABEMA Prime)【最低賃金アップ】時給アップに耐えられない?倒産リスク増?ゾンビ企業救う意味は?中小経営者と考える|アベプラ」
「(徳島県での)84円はパーセンテージで言うと9.3%、これまでの3%ずつ上がっていたものを急に9%にすると事業者が悲鳴をあげる(2024年9月21日放送・BS-TBS)全国トップの上げ幅は84円 「最低賃金」なぜ?徳島県が異例のアップ【Bizスクエア】 | TBS NEWS DIG」
結論
民間の調査会社の調査によると徳島県が最低賃金を引き上げた月から一年間の倒産件数は、前の一年間と比べて4割増えている。その前の引き上げ後の一年間の倒産件数が2割増しだった点を考えると大きく増えている。他方、倒産件数が増加したのは、人件費を含めた様々な要因が考えられ、最低賃金だけが要因だとまでは言えない。
ファクトチェックの詳細
徳島県は、それまで最低賃金が全国で二番目に低い水準だったが、2024年11月から84円という大幅な引き上げた。しかしこれに対して「中小企業の倒産が増える」という指摘も多く、実際に倒産件数が増えるのか注目されていた。
そこで民間の大手調査会社「帝国データバンク」株式会社 帝国データバンク[TDB] | TEIKOKU DATABANK, LTD.と「東京商工リサーチ」東京商工リサーチが発表している月ごとの倒産件数を見てみる。徳島県で最低賃金が大幅に引き上げられた2024年11月から2025年10月までの一年間のデータをその前の一年間と比較してみよう。
次のグラフは、両方の一年間の倒産件数をInFactがまとめたものだ。2024年11月から2025年10月までの倒産件数は、それぞれ59件と60件となっている。前の一年間は、倒産件数が42件と43件だ。従って倒産件数は前の一年間と比べて両方とも4割増えていることになる。

この結果だけをみれば徳島県での倒産件数は増えたことになる。ここで前回、最低賃金を引き上げた後の結果を調べてみる。前回の引き上げは、2023年10月だ。最低賃金は855円から896円に引き上げられている。そこで2023年10月から翌年の9月までの一年間の倒産件数をその前の一年間と比べてみる。
その結果が下のグラフだ。2023年10月からの一年間の倒産件数はそれぞれ41件と43件だった。前の一年間は、倒産件数がそれぞれ34件と35件なので、両方とも2割増えたことになる。

では全国はどうなのか、同じ2024年11月から2025年10月までの倒産件数は、前の一年間と比べてどうだったのか、帝国データバンクによると倒産件数は1万266件に上っている。そして東京商工リサーチでは1万277件となっている。
その前の一年間は、帝国データバンクが9798件、東京商工リサーチが9940件となっているので、倒産件数はやや増えて、両方とも1万件を超えたことになる。
従って徳島県で最低賃金の大幅な引き上げが始まった2024年11月からの一年間を前の一年間と比べると倒産件数は大きく増えたことが判る。2023年10月から始まったその前の引き上げの際も倒産件数は増えたが、増加率は2倍だ。ただ全国的にも倒産件数は増加傾向にある。
では、倒産件数は、最低賃金を大幅に引き上げたため増加したのか。徳島県では、東京商工リサーチの資料をもとに倒産の要因について分析している。それによると要因としては、「販売不振」が39件で最も多く、次に経営状態が悪化しているにも関わらず対策を取らない「既往のしわ寄せ」が8件、「過少資本」が5件となっている。
最低賃金が要因として考えられるのか、徳島県経済産業部に問い合わせたところ、以下の回答を得た。
倒産件数の増加は、徳島県のみならず全国的な傾向であり、近年の倒産件数増加の要因として、
▲人件費の上昇、物価高騰によるコストの増加、▲ 価格転嫁が不十分、▲「ゼロゼロ融資」などの返済の本格化、
▲ 構造的な人手不足・後継者不足などが影響していると考えている。現在の日本経済全体を取り巻く複数の課題が重なり合った結果として、徳島県でも倒産件数が相応に増加していると捉えている。
つまり倒産件数の増加は、人件費以外の複合的な要因があると考えられ、最低賃金だけが要因であるとは言えない。
(清水竜太郎)

