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【FactCheck】岸田首相はテレビで総裁選への思いなどをふんぞり返りながらベラベラ喋っていたか?

【FactCheck】岸田首相はテレビで総裁選への思いなどをふんぞり返りながらベラベラ喋っていたか?

能登半島地震で甚大な被害が出ており多くの人が現在も行方不明となっている。こうした状況で岸田首相がテレビ番組に出て自らの総裁選への思いを「ふんぞり返りながらベラベラ」と語ったとの言説が拡散している。その発信者の思いは理解できるが、番組での岸田首相の発言は必ずしもそうではなく、ややミスリードだ。

対象言説 「「岸田首相がBSフジに生出演し、総裁選への思いなどをふんぞり返りながらベラベラ喋っている。」

言説の全文:「岸田が4日夜、BSフジに田崎史郎と共に生出演し、総裁選への思いなどをふんぞり返りながらベラベラ喋っている。凍てつく体育館や自家用車内で死と向かい合いながら今このとき夜を明かしている被災者の気持ちを少しでも考えたら、こんな時間を過ごすという選択肢はないはず。「狂気の男」と言ってよい。」X(1月4日)

結論 「ややミスリード」

岸田首相が1月4日にBSフジの報道番組「プライムニュース」に生出演し、総裁選などについて語ったのは事実だ。しかしテレビ出演への是非はともかく、岸田首相の話の中心は地震への対応であり、発信された言説の伝える内容とは異なる。従来のレーティングを適用すると「ミスリード」となるが、そうまでは言い切れず、今回は「ややミスリード」とする。

ファクトチェックの詳細

元旦、石川県能登半島を震源とするマグニチュード7.6の地震が発生した。1月5日現在で石川県では100人近くが亡くなっている上(1月7日現在では100人をはるかに上回っている)、200人以上の安否が判っていない。救援物資が十分に届かないだけでなく、救出を待つ被災者が多数存在していることが報じられている。まさに非常事態だ。

こうした状況で岸田首相が出演したのは1月4日の「プライムニュース」。これはBSフジが平日の夜放送している報道番組で、元フジテレビ政治部記者の反町理キャスターを中心に政治家や学者などをスタジオに呼んで討論するものだ。

新年初回放送となったこの日は、「岸田首相に問う 決意と覚悟」と題して、岸田首相がスタジオ生出演した他、公明党の山口代表や国民民主党の玉木代表も出演している。翌5日には、共産党の志位委員長、維新の会の馬場代表、立憲民主党の泉代表も出演している。このことから両日の放送は、与野党の党首に対して政治課題について質す一種の年頭行事といえる。NHKも1月7日の「日曜討論」で同じような放送を行っている。

では岸田首相は番組でどのような発言をしたのか、「プライムニュース」が発信している34分間のハイライト動画などで確認した。

最初の13分間は「能登半島地震への対応」について話している。この中で岸田首相は、「救命救助が最優先」と強調した。そして地理的な特徴ゆえ、陸路からの支援が難しいとした上で、自衛隊を小さなグループに分けて各被災地に個別対応していることや県庁に中央省庁の幹部を派遣して、直接ニーズを聞き、迅速に判断すること、予算の投入には躊躇しない旨を述べた。

次の5分間は「波乱含みの国際情勢と外交戦略」で、日米関係が重要であり、日本の安全保障が厳しい環境にある点を強調した。

そして次の10分間が「政治とカネ問題と政治改革」「自民党の自浄作用」だ。政治刷新本部をつくり、自ら本部長を務めて信頼回復をめざすこと、派閥は政策を磨き、人材を育てることが原点であると指摘している。

そして最後の6分間が「自民党総裁選への思い」だ。

今年の政治日程が紹介された後、「(自民党総裁選)再選に向けた岸田首相の戦略」について話が移り、ジャーナリストの田崎史郎氏が再選に向けて厳しい状況である点を指摘。

この後、反町キャスターが、デジタル田園都市構想や憲法改正など政権当初に掲げた政策が進んでいないのではないかと問い詰めている。

これに対して岸田首相は、デジタル田園都市構想だけでなく、新しい資本主義やエネルギー政策の転換、安全保障の改革、子ども子育て政策も行なったと指摘した。そしてまずは政治の信頼回復に取り組むとした上で、この2年間積み上げてきた政策の成果を具体的な形にする、その一つが賃上げや児童手当の拡充などだと述べた。

ここで反町キャスターが「やり残したことはないか。これをやらないと総理を辞められないというこだわりの部分はないか」と問うている。総裁選出馬に関する言質をとる狙いと見られる。岸田首相は直接は答えず、次のように話している。

「今やっている政策、結果を出し始めますが、この結果はこれからも積み上げて行かなければいけない。これで終わりということはないと思っています。」

反町キャスターは「総裁選への思い」で言質を取ろうとするかのように、更に質問を続ける。

「総裁を続けることによってこれまでの政策がより完成度を高めるという気持は当然お持ちですよね。」

岸田首相は答える。

「それは、政策、磨き上げたいと思いますし、結果は積み上げたい。それは当然のことだと思います。」

反町キャスターはなおも総裁選について問い続ける。

「そのために総裁を続けたいと当然なるだろうと僕らは思うわけです。(総裁任期を)9月で終わりたいと思うわけがない。」

これに対する岸田首相の言葉だ。

「今の現状を考えます時に、厳しい目が注がれている。そういった中でありますので、まずは全ての土台であります政治に対する信頼の回復に努めたい。その上で賃上げを始めとする政策、新しい資本主義を始めとする様々な政策を結果につなげて30年ぶりに日本の経済、好循環に持っていきたい、様々な政策、これを形としてしっかり示すことにつなげて行きたい。これに尽きる。それをしっかりと示すことによってその先も考えることができるかもしれませんが、今の時点においてはそれに尽きると思っています。」

岸田首相が「ふんぞり返りながら」話したかは視聴者の印象だが、確かに座り方は椅子の背もたれに背をつけた姿勢で話している。それは見方によっては「ふんぞり返りながら」に見える。また、岸田首相が総裁選について問われ、それに答えているのは事実だ。しかし、番組を通してみれば、岸田首相が主に話しているのは地震への対応であって、総裁選は必ずしもその中心になっていた訳ではない。また、総裁選についてはキャスターの執拗な問いに答えたもので、「ふんぞり返りながらベラベラ喋っている」という発信が伝えるものとはニュアンスの異なるものだ。

InFactは従来、レーティングに基づいてファクトチェックの結果を示している。それで判定すると「ミスリード」となるが、今回は「ミスリード」とまでは言えないもののそれに近いという意味で「ややミスリード」と判定する。

ここまでがファクトチェックだ。ただ発信者は、地震が発生したばかりで、その被害が甚大であることを踏まえて、国のトップである岸田首相が取り組むべきはその対策であり、テレビに出演することではないと主張しているものと受け止められる。「凍てつく体育館や自家用車内で死と向かい合いながら今このとき、夜を明かしている被災者の気持ちを少しでも考えたら、こんな時間を過ごすという選択肢はないはず。」という気持は多くの人が共感しており、その結果、この言説が批判的に拡散している。その批判に納得する人は多いだろう。

その点は、岸田首相、首相官邸は勿論だが、テレビ局も重く受け止める必要がある。予定されていた年始恒例の番組であっても、これだけの事態が起きている最中であれば官邸からオンラインで出ることは可能だ。この番組に出演する前に官邸で行われた記者会見では、原発に関するものなどの質問に答えずに打ち切っている。都合の悪い質問に答えずに親和性の高いメディアの番組を優先したと批判されても仕方のない側面もある。また、仮に「総裁選」について問われたとしても、「震災で多くの人が極めて厳しい状況にある中で、それについて語るのは穏当ではない」と言えばすむ話だ。

1月7日のNHK「日曜討論」では、岸田首相は収録で対応した。そして背中を椅子の背もたれから離して座り笑顔を見せる場面は無かった。この番組でも「総裁選への立候補は」と問われているが、現在取り組んでいる政策で成果を出すなどと語った後、「そこから先の政治日程については考えていない」と答えるに留めていた。今回の言説が拡散するなど多くの批判を受けて対応を変えたのかもしれない。

(清水竜太郎、立岩陽一郎)

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