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【衆院選26FactCheck】「解散は総理の専権事項」の背後に憲法を拡大解釈するための政府見解が存在

【衆院選26FactCheck】「解散は総理の専権事項」の背後に憲法を拡大解釈するための政府見解が存在

「解散は総理の専権事項」との木原官房長官の発言について琉球新報のファクトチェックで「憲法に規定はなく、不正確・ミスリーディング」と判定されている。憲法に規定が無いのだから当然の判定だが、では何故、官房長官や与党議員はそれを常套句のように繰り返せるのか。その根拠について調べると、条文を拡大解釈すための政府見解が存在することがわかった。

対象: 官房長官らが発する「解散は総理(大臣)の専権事項」。

木原官房長官会見(1月13日)など。

結論:7条の「天皇は、内閣の助言と承認により」となっている解散の条文に関する政府見解として「『助言と承認』には、実質的決定権を含む場合もある」としているため。

ファクトチェックの詳細

憲法条文の確認

先ず、日本国憲法の条文を整理する。この中で、衆議院の解散について書かれているのは第7条、第45条、第54条、第69条の4つの条文だ。このうち解散の手続きに関係するのは第7条と第69条となる。

第7条は「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。」とし、その3号に、「衆議院を解散すること。」と書いている。

第69条は「内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、10日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。」としている。

今回の解散も含めて、不信任案の可決などとは無関係に「解散は総理(大臣)の専権事項」という言葉が使われており、これが第7条について言及したものであることは明らかだ。条文にある「内閣の助言と承認により」を「内閣総理大臣の専権事項」と解釈したもので、この点は琉球新報のファクトチェックでも言及されている。また、「解散は内閣の専権事項」と書かれているわけでもない。

衆議院作成の資料

では、なぜ「内閣の助言と承認により」が「内閣総理大臣の助言と承認により」となり、なおかつ「内閣総理大臣の専権事項」に飛躍して解釈されるようになったのか。実は、それを説明した資料が有る。「衆議院の解散」に関する資料だ。2025年5月8日付で衆議院法制局と衆議院憲法審査会事務局がまとめている。以下、それに従って整理する(以下、添付画像は全てこの資料から)。

この資料に第7条に関する政府見解が書かれていた。そこには以下のように書かれている。

「天皇の国事行為に対する内閣の『助言と承認』は、実質的決定権を含む場合もあり、衆議院の解散に関する実質的決定も、憲法7条のいう『内閣の助言と承認』によって行われる。」

「助言と承認」に内閣の「決定権」が含まれるという政府見解が存在するということだ。「助言と承認」に「決定権」が含まれるととは無茶な理解に思えるが、その下に、この政府見解には問題が有るとも受け取れる説明も書かれている。以下の文言だ。

「憲法7条の国事行為は、本来、形式的・儀礼的なものであり、内閣の『助言と承認』に実質的決定権を含むことは適当ではない。その上で、議員内閣制や権力分立の建前からすれば、権力の抑制と均衡の観点から、衆議院の不信任に対応して、内閣に衆議院の解散権が与えられているとする。」

つまり有力な制度説としては、「内閣の『助言と承認』に実質的決定権を含むことは適当ではない」となっているということだ。そして、有力な制度説は、内閣不信任案が可決されたときなどに議会を解散できるとした第69条をもって内閣は解散を決定できるとしているということだ。

この資料には他にも興味深いことも書かれている。日本国憲法は日本がGHQ=連合国総司令部の占領下に置かれた時代にマッカーサー草案(1946年2月13日に日本側に交付)を基に日本政府が作ったことが知られている。そのマッカーサー草案では、第7条の項目はなく、第69条による解散のみが書かれていたという。

これに対して時の政府は、「衆議院解散が、一番起こり易い場合は内閣と衆議院とが衝突して、又は意見に差があって、その判断を国民に求めるという場合である。しかしながら、ただそれに限定するというものではない。非常に重大なる審議事項が生じて、そこでもう一度、この問題を眼目にして、国民の意見を確かめる方がよいというような判断が付いた場合には、やはり解散ができる。そのほか、今空想的には想像できないが、今述べた一般論に従って解散ができる」と当時の帝国議会で説明したという。

このうちの後段の「非常に重大なる審議事項が生じて、そこでもう一度、この問題を眼目にして、国民の意見を確かめる方がよいというような判断が付いた場合」として第7条「天皇の国事行為」の条文に「内閣の助言と承認」による解散権が加えられ、その「助言と承認」の主体がいつの間にか「内閣」から内閣総理大臣となり、なお且つ、「助言と承認」は「実質的決定権を含む」と解釈されるようになったということだ。

その結果、以下のように「総理の専権事項」として解散が時の政権の意のままに行われて、その度に選挙が行われることになっている。

(立岩陽一郎)

編集長追記

そもそも天皇の国事行為に「衆議院の解散」を入れること自体が主権在民の民主国家としてどうかと疑問に思うが、政府が説明したような「非常に重大なる審議事項が生じて、そこでもう一度、この問題を眼目にして、国民の意見を確かめる方がよいというような判断が付いた場合」が全く無いとは言い切れないので、憲法の条文はそのままで良いだろう。ただし、拡大解釈を可能にしている政府見解はあらためるべきだろう。そして、国会法などで解散権について明文化し抑制的なものにすべきではないか。

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