更に、山敷准教授は、
「チェルノブイリ事故、スリーマイル島事故などの原発事故においては放射性物質の放出量を示す数値は、放射性希ガスを含めた総量で示されることが多い。なぜ、福島第一ではヨウ素換算倍率係数のみを持ち出すのか。(福島第一原発事故は)総量を示さないのは事故の規模を誤認させてしまうことになる」
と指摘する。
前述の通り、チェルノブイリ原発には、福島第一原発で放射性物質の拡散を防いだ格納容器が存在しなかった。また、ウランの炉心が爆発を起こし、放射性核種が広範囲に飛散した。対して、福島第一原発では、圧力容器と格納容器の爆発は免れたとされ、それによって放射性核種の飛散量が少ないとされる。しかし一方で、福島第一原発事故においては、原子炉3基がメルトダウンを起こしており、制御不能となった核燃料の量はチェルノブイリの時より多いのである。
チェルノブイリ事故を上回る可能性も
もちろん、福島第一の事故は、ある面で更に幸運だったという指摘もある。札幌市で開かれた2013年の日本海洋学会で、東京大学大気海洋研究所の植松光夫教授は、
「いろいろな推計があるが福島第一から放出された放射性物質の85%程度が太平洋に落ちたと見てよいのではないか」
と話した。
今や海洋汚染の元凶と指弾される福島第一の立地条件だが、それによって少なくとも陸地に降る量が緩和されたことは間違いない。しかし、それはあくまで放射性物質の落ちた先が陸地か海の違いであって、事故の規模をそれで語ることは正しくない。
また、福島第一の事故についての旧原子力安全・保安院の評価そのものが実際よりも小さく見積もられているのではないかという指摘もある。放出された総量の1万1340ペタベクレルについて、実際はそれ以上に放出されているというデータも有るからだ。欧米の研究者の(ノルウェー大気研究所の大気科学者、アンドレアス・ストールらのグループ)共同研究では、福島第一事故で放出された放射性希ガスとセシウム137の合計を1万5337ペタベクレルと推計している。
【外部リンク】福島第一原発から放出されたキセノン133とセシウム137
つまり福島第一原発事故では、放出されたキセノン133とセシウム137だけでチェルノブイリの総量を上回っているのだ。
これは何を意味するのか?事故としてその深刻さを議論する際、チェルノブイリ事故と福島第一事故とには何の差も無いということだ。少なくとも、それが国際社会の認識だということは知っておく必要がある。