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NHK会長辞任求め受信料支払い停止へ

NHK渋谷放送センター
NHK放送センター

◇法律家グループ「籾井氏に資格なし。視聴者による是正要求だ」

「政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」という就任記者会見での発言や、10人の理事全員に日付を空けた辞表を提出させていたことなどで、強い批判を浴びているNHKの籾井勝人会長に対し、法律家と研究者で作るグループが受信料の支払いを停止することを決めた。期限は籾井会長が辞任するまでで、週内にもNHKに通知する。辞任を求める世論が高まる籾井会長の「居座り」が、NHKの経営問題に発展する可能性が出てきた。(アイ・アジア編集部)

受信料の支払い停止を決めたのは、弁護士の阪口徳雄さん、神戸学院大学大学院教授の上脇博之さんら10数名で結成した「NHKを考える弁護士・研究者の会」。週内にNHKに「支払い停止」の通知書を送ることになった。
この通知書によると、籾井会長が今年1月25日に行った会長就任会見で行った発言について、「個人的発言であっても取り返しのつかない異常で不適切な発言であり、NHKの会長としての資質、能力、資格はないと言わざるを得ない」と批判。
また、その発言を国会で撤回して謝罪した後に開かれたNHKの経営委員会で、籾井会長が「それでもなおかつ私は大変な失言をしたのでしょうか」と発言した点などを、視聴者とNHKとの信頼を裏切るものだとしている。
更に、籾井会長が理事10名全員に対して日付のない辞表を提出させていた問題を、新聞、民放テレビ各社が報じているにもかかわらず、NHKが一切伝えていない点について、既にNHK内で会長の意向を忖度(そんたく)して番組を作る状況が生じており、放送内容が歪められている可能性があると指摘している。
受信料の支払いを停止することについては、NHK会長に対して次のような通知を行うという。
「私たちは今までNHKは公平、公正、中立な報道を行うものと信頼し受信料を支払ってきた。貴殿の発言は、その前提となるNHKと視聴者との間の信頼を裏切った。その存立基盤を貴殿は自ら破壊したのである。もはや、公共放送の会長に貴殿が座り続けることを、視聴者として認めることはできない。NHKが受信者から信頼を確保する道は、口先だけの謝罪、撤回ではなく、貴殿が辞任することしか残されていないと判断する。視聴者は、制度上は、NHKの会長の「リコール権」を有していないが、受信料を支払わないことによってNHKにその是正請求をすることはできるし、そうせざるを得なくなった」。
受信料の支払いを停止する期間は、籾井会長が辞任するまでとしている。
NHKは、受信料の不払いについては、これまで裁判所に提訴するなどして対応してきた。これについてグループの呼びかけ人の1人である阪口徳雄弁護士(大阪弁護士会)は次のように話す。
「NHK側が提訴してくることは十分覚悟している。むしろ、裁判になって公の場で、視聴者側の主張を展開したい。それに対してNHKの側がどのような反論をするのか聴きたいというのが本音だ。
放送法は、NHKが客観的に公正、公平、中立に報道することにより国民の信頼を得て、初めて国民が受信料を払う関係に立つ法的スキームになっている。だから既に起きているようなNHKが国民の信頼を喪失した時には、この根本関係が崩壊する。
NHKの放送内容が放送法に定める放送がなされないか、またなされない危険性がある場合は、受信契約者はNHKに対して放送法に従った放送をなすまで受信料を一時停止又は保留する権利を有ると考えられるので、その主張を公開の法廷で言いたい。
そしてなぜ、このような放送法をおよそ理解できていない会長を選んだのか、会長を選んだ経営委員長を法廷で尋問したい。また会長の見解なども法廷で尋問したい。私たちはNHKに一日も早くまっとうな公共放送に戻ってもらいたい。そのためには、籾井会長の辞任は不可欠だ。当然、会長が辞任すれば、受信料の支払いは再開する」
 
一連の「籾井騒動」で、受信料の支払停止が顕在化するのは今回が初めてとなる。阪口弁護士によると、賛同者の輪は関西から首都圏に広がっているという。籾井会長問題はNHKの経営の根幹を揺さぶる事態に発展する可能性が出てきた。
匿名を条件に取材に応じたNHKのディレクターは次のように話した。
「NHKの中で籾井さんを支えているのは政財界にべったりの政治部と経済部の記者くらいで、圧倒的に多くの職員は『早く辞めてくれ』というのが本音だ。ただ、出身母体の政治部をバックに権勢を欲しいままにした海老沢勝二元会長も受信料の不払い運動を機に辞任に追い込まれており、もし受信料の不払いが起これば、一挙に会長を変えようという動きになるだろう」
籾井会長は、騒動の発端となった1月25日に、NHKの社内誌のインタビューに応じ、次の様に話している。
「みなさんにお願いしたいのです。コンプライアンスという言葉をよく聞かれるでしょ。では、本当にコンプライアンスを意識しながら、業務に取り組んでいるのか、言葉で流しているところがあるのではないでしょうか。コンプライアンスとは、不正を働かない、そういうことばかりではないんですよ。放送法を守らない、これもコンプライアンス違反になるのです。放送法はれっきとした法律ですから、守らなきゃいけない義務が我々にはあるということなんです」
視聴者による受信料支払い停止という「異議申し立て」が始まったことは、NHK内部でも深刻に受け止められて籾井会長の去就に影響する可能性がある。



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