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米国メディア界にも蔓延するセクハラ Divided States of America/アメリカ「断」衆国 その断層の実像③

調査は、米国のメディア企業におけるセクハラの実態を生々しく伝えている。記事によると回答者の41%は自身がセクハラを受けたことがあり、28%は同僚がセクハラを受ける場面を見たことがある。自身がセクハラを受けたと回答した人の67%は会社へ報告していない。

回答者の証言もこまかく紹介されている (Neason, 2017)。大半は職場の上司や同僚から受けたセクハラ事例である。

「同僚が身体に触れ、不快な言動を繰り返す」
「他の同僚がいる前で、男性の同僚がシャツの中に手を入れてきた」
「上司のセクハラを総務部へ報告したが何の回答もなかった」
「取材が終わったあと、取材先からセクハラを受けた」

回答者の65.5%は「職場にセクハラ規則がある」と答えたが、「職場で安全だと感じるか」という質問に対しては、正社員では31%、フリーランスでは63.2%が、「安全ではない」「どちらともいえない」と回答している。調査によるとフリーランスの96%がセクハラ規則の詳細を知らされず、また多くの場合、企業と結ぶ就業契約にもセクハラ関連条項が含まれていない。

同誌は、調査結果もさることながら、メディア企業が調査に対して非協力的だったことに驚きを隠していない。『レビュー』誌は米国内の主要な新聞社・放送局を含む149社へ調査協力依頼を送ったが、1社も回答はなかったのだという。

米国の企業は一般市民からの問い合わせに対してもていねいに対応するのが通例で、完全なゼロ回答はかなり異例といってよい。ハリウッドでのスキャンダルを熱心に追求し #MeToo運動の広がりを繰り返し報道しつづけた米国メディアが、自社のセクハラ実態に関する外部からの照会には揃って口をつぐんでしまったことに、この問題の根深さが見て取れる。

ところで同種の調査は、米国外では過去に何度か行われたことがある。2016年には豪州で広範な調査が行われ、やはり半数以上が職場・取材先でのセクハラ被害を受けたと報告されている (North, 2016)。

セクシュアル・ハラスメントが一般的に「職場で起きるもの」と定義されるため、多くの調査はオフィスで上司・同僚から受ける被害が中心になっているが、2014年に国際女性メディア財団が世界中のメディア企業で働く約700人を対象に行った調査では、セクハラ被害を受けた回答者の32.4%が、被害を受けた場所を「取材現場 (in the field )」と答えている (Barton, 2014)。

どの報告も一様に指摘しているのは、調査の困難さだ。豪州での調査を主導した研究者は、メディア企業がもつ「秘匿性の文化 (culture of secrecy)」のゆえに内部調査が進みにくく、女性記者たちもハラスメントが「男性優位の産業で働くためのやむを得ぬ代償」だと信じ込まされる傾向がある、と述べている。

メディア企業におけるセクシュアル・ハラスメントについて科学的な調査で全貌を明らかにする作業は、まだ始まったばかりである。しかしこれまでに行われた報告はいずれも、文化・習慣に関わりなく、セクハラに寛容でありつづけたメディア企業の姿を指し示している。『レビュー』誌は調査結果を踏まえて、こうコメントしている。「ニュース速報が飛びかう現場の中心で起きているのは、公共のために真実と透明性を追求するニュースルームが、自らの仲間を守るという責任を長きにわたって果たしていない現実である」。

Barton, Alana and Hannah Storm (2014) Violence and Harassment against Women in the News Media: A Global Picture (International Women’s Media Foundation)

Neason, Alexandria (2017) “What we found when we asked newsrooms about sexual harassment” (Columbia Journalism Review, Dec. 1)

Neason, Alexandria et al. (2018) “Sexual harassment in the newsroom; An oral history” (Columbia Journalism Review, Jan. 31)

North, Louise (2016) “Damaging and daunting: Female journalists’ experiences of sexual harassment in the newsroom” (Feminist Media Studies, 16:3, pp. 495-510)

 

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