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【ミネソタ通信②】当選知事が語った「デモクラシー健在!」

【ミネソタ通信②】当選知事が語った「デモクラシー健在!」

アメリカの中間選挙は連邦議会の上院で決選投票となったジョージアで民主党の現職が勝利し、100議席のうちの51議席を獲得。その直後に民主党議員1人が離党し無党派となったが、結果的に50対49という民主党勝利の結果となった。仮に無党派となった議員が共和党の側についたとしても、副大統領のハリス氏が上院議長としての1票を行使できる。

連邦議会下院は予想通り共和党が過半数を制する結果となったが、民主党としては最小限に食い止めることができたというのが受けとめで、民主党が予想外に健闘したというのが今回の選挙の受けとめだろう。メディアが競って共和党の勝利を予測する中、なぜこうした選挙結果となったのか。それを考える上で各州の選挙結果に注目する必要が有る。ミネソタ通信の2回目は、州の選挙について伝える。(柏木明子)

中間選挙では、アメリカの各州で様々な選挙が行われている。アメリカの各州では、連邦議会と同様に二院制が採られている(一州を除く)。私の住む中西部のミネソタ州では、これまでは、上院(67議席)は共和党が、下院(134議席)は民主党が過半数を占めていた。事前の予想では、物価高や治安悪化への懸念などが追い風となって共和党が上下両院共に奪うとの見方が強かったにも関わらず、結果は、知事選、州議会上下両院ともに民主党が過半数を制するものとなった。その結果は驚きを持って受け止められている。上院については、州民主党議員のトップリーダーが「ミネソタ州上院の奇跡」と表現したほどだ。

州議会では、公共投資、教育、福祉保健、労働、商工業、農業、環境政策、治安、財政、税制等、州民の生活に直接関わる多くの法案が審議・制定され、州予算が承認される。今回の選挙結果によってねじれ議会が解消され、州民主党議員が推進する多くの法案が成立しやすい環境が生まれることになる。民主党が州知事と両院を制したのは10年ぶり(議会としては2013-2014年以来)だ。何が有権者を動かしたのか。

「ミネソタの皆さん、この州に民主主義は健在です。よくやってくれました。(“Minnesota, democracy is alive and well in this state. Well done.”)。」 現職のティム・ウォルツ知事は、投票日の夜に開かれた民主党の祝賀パーティで、集まった支持者に向かって、笑顔でこう述べ拍手した。一方、8ポイント差で敗れた共和党知事候補のスコット・ジェンセン氏は同じ頃、「赤い波(レッドウェーブ)は来なかった。来たのは青い波(ブルーウェーブ)だった」と、共和党・民主党のシンボルカラーに例えながら、率直に敗北を認めた。

ウォルツ知事が「民主主義は健在」と強調したのは、ここミネソタ州でも民主主義の危機が懸念されるような動きがあるからだ。象徴的なのが、共和党からの立候補者の顔ぶれだ。今回の中間選挙では、トランプ前大統領の根拠のない主張に同調し2020年の大統領選挙の結果を否定、または疑問視する多くの立候補者が州議会選挙に出馬していた。その数はMPR(ミネソタ公共ラジオ)の調べによると、共和党立候補者の4人に1人、43人にも及んでいた。しかも、選挙を管轄する共和党の州務長官(The Secretary of State)候補までもが、いわゆる「選挙否定論者」だった。この州務長官は主な任務として、大半の州で、州内で実施される郡や市などローカルなレベルも含めた選挙の最高責任者の役割を担う。ミネソタ州もそのひとつだ。有権者の選挙人登録(voter registration)から、公正な選挙の実施、選挙結果の認証に至るまで、選挙に関わる業務全般を統括する。過半数の州では、州務長官も選挙で選ばれる。因みに、今回の選挙では、ミネソタも含め共和党からの州務長官立候補者の過半が「選挙否定論者」、または「選挙疑問視論者」だったことが注目されていた。そしてミネソタ州では、民主党候補が前述の共和党候補を、9ポイント差で破った。

知事選は僅差を予想させる世論調査も一部では出ていたが、再選を目指していたウォルツ知事の圧勝となった。ジェンセン氏と当州務長官候補は、選挙直前になってトランプ氏からの一方的な支持を受けたが、連邦議会の状況に似てトランプ氏の支持は勝利にはつながらなかった。

とはいえ選挙結果全体で見れば、民主党の一方的な勝利とも言えない。民主党は、州議会選で、今選挙で都市部に加え、郊外の選挙区で予想以上の強さを示した。しかし都市部、郊外以外では、共和党がむしろ勢力を伸ばしている。ミネソタ州における民主党と共和党の勢力は、州の都市部と地方で対照的だが、今選挙でその傾向がいっそう強まった格好だ。

「最も多様性のある州議会」の誕生

注目されるのは当選者の顔ぶれだ。今回の州議会選挙(上院67議席/下院134議席)は、ベテラン議員の多くが退職を表明し、現職の約4人に1人が出馬しないという異例の選挙になった。退職議員47人の議会経験年数の合計が600年にも達し、ベテラン議員の経験値が一挙に失われることが懸念されたほどだ。

結果として、大きな変化がもたらされた。MPRによると、州議会選では上下院合わせ57人もの新人候補が当選。人種、民族、ジェンダーの面から見て、地元メディアがこれまでで「最も多様性のある」と形容したが議会が誕生した。例としてまず挙げられるのが、州上院初の黒人女性議員の誕生だ。しかも1人でなく一挙に3人が当選した。その1人が、幼い時にソマリアから家族と共にミネソタに移住した25歳のゼイナブ・モハメド氏だ。コミュニティオーガナイザーとして、これまでNPOで黒人の移民女性の政治参加・市民活動参加の向上を目指す活動や、地域政策のアドボカシー活動を続けてきた。当選の知らせを受けて、真っ先に、若い人、有色人種の人、先住民の人、女性に向けて「これはみなさんの勝利です(This is your victory)」とツイートしている。さらに彼女の当選は、州の最年少議員の記録を塗り替え、初のZ世代議員の誕生となった。ソマリア系議員は、すでに連邦議会及び州上下院を合わせると4人が現職だ。

州下院においても多様性が高まった。初当選者の中には、黒人、ラテンアメリカ系アメリカ人のほか、アジア系アメリカ人の中では州で最も人口の多いモン族、日系人、そして初のトランスジェンダーの議員が含まれる。国勢調査によると、この20年でミネソタ州の白人以外の人口割合は約1割から2割に増加した。一方、選挙前の州議会の同比率は約13%にとどまっていた。報道によると今回の選挙結果、この非白人の比率が、人口比には及ばないものの17%にまで高まった。

「『最も多様な州議会』の意義についてどう考えますか。」 再選直後の記者会見で、質問されたペギー・フラナガン副知事は次のように答えた。「地域を代表する議員が、地域の多様性をより正確に反映するようになり、議会に新しい声が届くようになれば、民主主義がよりよく機能するようになるでしょう。それは私たちみんなにとってよいことです」。フラナガン氏は、アメリカ史上、「選挙で選ばれた(行政府の中で)最も高い地位にあるネイティブアメリカン女性」でもある。因みに、ミネソタ州では副知事は知事の”running mate” として、大統領選と同様にペアで選挙を闘う。

当選した人種的マイノリティ議員の多くは、民主党選出だ。共和党からも、女性や多様な背景を持つ候補を擁立する動きが顕著にみられた。

Z世代の政治参加     

民主党勝利の要因として、今年6月の人工妊娠中絶の権利に関する最高裁の判決が大きかったと言われている。この歴史的判決に対して、もっとも強い反発の声を上げたのがZ世代を含む若い女性だった。本稿執筆時点で、世代別の投票率は明らかになっていない。ただ。ウォルツ知事は、選挙から4ヶ月以上前の判決について、「誰も忘れていなかった。(選挙に)大きな影響を与えたと思う」と話している。

さらに、若者の恒常的に低い投票率に触れながら「今回は違うように感じる。若い人たちは単に投票しただけではない。選挙イベントにも参加し、政治に対して何を求めているのかを訴えていた」と、若者の果たした役割について評価する。

Z世代は1990年後半以降に生まれた世代で、上述のようにミネソタ州が急速に多様化した時代に育った世代だ。一般的に、他世代よりもインクルーシブ(他者の多様性を尊重する)で、民主党支持派が共和党支持派を大きく上回ると言われている。

ウォルツ知事は、選挙全体を振り返り、「市民の民主主義への強い思い」が示されたこと、さらに、多くの若者が選挙活動に参加し、また投票所での暴力的行為も見られなかったことなどを挙げながら、「非常に勇気づけられる(”super encouraging”)」と選挙を総括した。

一方、地元紙の報道によると、州共和党は今回の惨敗を受けて、ジェンセン氏のほか、党関係者からも、これまでの戦略を再考する必要があるとの声が出ているという。

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