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【アメリカ中西部通信④】驚くほど本格的な「模擬選挙」(下)

【アメリカ中西部通信④】驚くほど本格的な「模擬選挙」(下)

前回(「驚くほど本格的な「模擬選挙」(上)」に続く、アメリカ中西部通信4回目。取材者の柏木明子が模擬投票が実際に行われたセントポール市の高校での取り組みをお伝えする。(写真、文/柏木明子)

何が問題か、どんな候補か

筆者が訪れたハイランドパーク高校ではどんな授業が行われているのだろうか。アメリカ政治を教えるデイビッド・ザイチック先生は、選挙の年に授業をするのは、選挙のない年よりも「はるかにエキサイティングだ」と話す。

教師歴26年のザイチック先生は、選挙の年は、模擬選挙に向けた授業がその年の「基盤」になるという。生徒にとっての学びが大きいからだ。「私の教師としての目標は、生徒に選挙に行く習慣が身についた大人になってもらうことです。もちろん投票するだけでは十分ではありません。ただ、投票に行く習慣が身につけば、将来、社会問題や政治的な問題にもより積極的に関わっていくような大人になれると考えています」。 

そのため、新学期の初めから、いかに投票が大切かを理解してもらうことに力を注いでいる。州内の選挙では、文字通り数百票の差で当確が決まることもあるので、「一票は大切」という言葉には説得力がある。ただ、ザイチック氏が教えるのは単に「投票すること」の大切さだけではない。特定の候補に1票を投じることの意味についても、一人一人の生徒に考えてもらうことに力を注ぐという。「生徒を中心」においた授業を心がけていると話した。

ザイチック先生によると、生徒たちは誰に投票するかを考えるにあたっては、まず自分にとってどんな問題が最も大切かを考える。例えば、それが移民問題であれば、自分の考えに一番近い候補者は誰かをリサーチさせる。政党から候補者選びをするのではなく、生徒自身の持つ価値観から候補者を選べるように、リベラルと保守の考え方についても教えていると、ザイチック先生は語る。その過程で、生徒自身の考え方は、リベラルー保守のスペクトラムのどの辺りにあるのかも見えてくるという。

とはいえ、自分にとって大切な問題がわからないという生徒もいるだろう。そうした場合にはどうするのかも聞いてみた。

「そういう時にも、『生徒を中心』において、生徒自身が考えるように働きかけます。わからないと言っていても、誰もが自分にとってこれは大切と思えることを何かしら持っているからです。実際、アメリカには、ヘルスケア、女性のリプロダクティブライツ、移民問題など、生徒にとっても身近でわかりやすい問題がたくさんあります。だから、いくつか問題を挙げていくと、これだ!と思える問題が見つかるのです」。

「投票して終わりではだめ」

生徒の反応が気になったので、ザイチック先生の生徒の1人で、投票を済ませたばかりのチャーリー・ブーンさん(17歳)に聞いてみた。すると「カリキュラムにそった勉強だけではなくて、実際に起きていることを学びながら勉強するのはとても(政治を理解する上で)役立ちます」と前向きな答えが返ってきた。候補を選ぶ際には、できるだけ客観的な、例えば、OnTheIssue.orgのような情報サイトを見て情報収集をしたという。人権や差別の問題、さらに経済格差に興味があると話すブーンさんは「どの候補者の政策を見ても、全ての政策に賛成はできない。候補者を選ぶ時に、どこか妥協しないといけない。それが難しかったです」と今回の体験を振り返った。そして、こう続けた。

「投票してそれで終わりではだめだと思います。実際の変化が起きるように、投票した後に実際に何かしていかないと。そう、そんな気持ちに少し火がついたような感じがします」。

別の生徒は、模擬選挙を通じて、投票のやり方がよくわかったので、18歳になった時に自信を持って投票所に行くことができる、と喜んでいた。共同主催者YMCAのアンダーソン氏によると、投票の勝手がわからないために、投票しない若者も多いので、その意味でも未成年のための模擬選挙の意義は大きいという。もちろん生徒によって興味の持ち方に差はあるようだ。あまり真剣に準備をせずに投票に来ている生徒も見かけた。

選挙の年は教えるのがいっそうエキサイティングだと話すザイチック先生は、模擬選挙を通じた授業の成果についてこう話してくれた。

「中間選挙の翌日、私たちは集まって実際の選挙結果を見ながら、どこで誰が勝った、過半数をとったのはどちらの政党だ、などと話しながら盛り上がるでしょう。と同時に、生徒たちは、なぜそういう結果が出たのか、それが、一人一人の投票の結果であることを(身をもって)理解できるようになっているのです」。

投票結果は?

参加校全体の模擬選挙の結果は、州知事選に関しては、実際の結果と同様に、現職の民主党ティム・ウォルツ知事の勝利に終わった。ただし、得票数の差には大きな違いがあった。模擬選挙では、ウォルツ氏の得票率は45.2%と、対立候補の共和党ジェンセン氏(29.2%)に16ポイントもの差で圧勝した。公式の選挙での得票率差の2倍だった。

この結果から、親子間で支持する候補にもかなり違いがあることが窺える。合わせて興味深いのは、模擬選挙では、大麻合法化を求める小政党からの候補者ら、(二大政党以外の)4人の候補者への投票総数が、全体の26%にも上ったことだ。実際の選挙では4人合計で数%しか票を集めなかった。

州務長官のウェブサイトによると、生徒向けの模擬選挙は、カリフォルニア州、アイオワ州など多くの州で実施されているという。(了)

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