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コロナワクチン契約書が非公開の理由 厚労省が明らかにした製薬会社への配慮「【ワクチンのファクト⑳】

コロナワクチン契約書が非公開の理由 厚労省が明らかにした製薬会社への配慮「【ワクチンのファクト⑳】

不開示となっているコロナワクチン契約書の不服申し立ての審査は、1年以上も進展がなかった(ワクチンのファクト⑲)。今般、ようよく審査の進捗があり、厚生労働省から契約書非公開の「理由説明書」が提出された。そこに書かれていたのは製薬会社への配慮だった(田島輔)。

「理由説明書」の送付

新型コロナワクチンの供給契約書(ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ノババックスの4社の製品分)については、情報公開請求に対して、次のとおり、①製薬会社の正当な利益を害するおそれがある、②厚労省の地位を不当に害するおそれがある、の2点を理由に全て不開示となっている(ワクチンのファクト⑥)。

①厚生労働省と個別の企業との間で契約した内容であり、公にすることにより、当該法人等の権利、競争上の地 位その他正当な利益を害するおそれがある(情報公開法第5条第2号イ)

②厚生労働省が行う事務に関する情報であって、公にすることにより、厚生労働省の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれがある(情報公開法第5条第6号ロ)

InFactでは、2021年12月18日付けで、不開示決定に対する異議申立ての制度である「審査請求」を行ったものの、1年以上も手続きは進んでいなかった(1年以上、手続きが進捗しないこと自体が異例であることは、「ワクチンのファクト⑲」で報じた。)。
その後、2023年2月17日に、厚生労働省が情報公開・個人情報保護審査会へ「不開示決定」に関する諮問を行い、ようやく手続きが進み始めた。

情報公開・個人情報保護審査会へ諮問する際には、厚生労働省から不開示決定に関する「理由説明書」が提出され、「理由説明書」はInFact宛てにも届いた。

数ある情報開示請求に対して、黒塗りでの開示が多くのケースで見られる。それはそれで問題も有るが、可能な限り開示するために一部を黒塗りにすることは理解できないわけではない。しかし今回は一部の「黒塗り」等ではなく、契約書の全てを「不開示」としたものだ。なぜなのだろうか。「理由説明書」の内容を見てみよう。

契約書非公開の理由は?

まず、審査請求に際し、InFactは次のような理由から、少なくとも契約書の一部が開示されたとしても、製薬会社や厚生労働省の利益を害することはない、すなわち、契約書全体の不開示は違法である、と主張した。

①新型コロナワクチンの供給契約書には、契約当事者名、準拠法、標準的な条項等、利害と無関係の一般的な条項も含まれているはずであり、このような条項を開示しても、製薬会社や厚労省の利益を害することはない。

②イスラエル保健省がファイザー社との新型コロナワクチン供給契約書を公開している等(参照)のことから、製薬会社が例外なく契約書全体の不開示を求めているとは考えられない。

③ワクチンの供給量等、ワクチン購入に関する情報の一部はメディアを通じて報じられており(参照)、このような公開済みの情報も含めて、契約書全体を不開示とすることは許されない。


これに対し、厚生労働省がワクチン供給契約書の全てを「不開示」とした理由は次のようなものだった。

①製薬会社の正当な利益を害するおそれについて
製薬会社との間で秘密保持契約を締結している中、契約書を公にすると、製薬会社のコロナワクチン供給能力や交渉に関する企業戦略、合意可能な内容を競合の製薬会社や交渉相手である他国を含む他の者に公開することになるため、当該法人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることは明らかである。


②厚労省の地位を不当に害するおそれについて
厚生労働省と製薬会社との間で締結された契約書は、製薬会社から機密扱いを求められているため、この契約書を公にすることで、製薬会社との間で締結されているワクチン供給に関する合意が破棄され、本邦へのワクチン供給がなされなくなるおそれがある。
更に、我が国におけるワクチン供給に関する交渉の交渉方針(国として許容可能な契約条件を含むが、これに限られない。)を他の製薬会社その他の各種メーカーに類推させ、国が、既存及び今後のワクチンその他の物資の調達交渉において著しく不利になるおそれが生じる。

機密扱いを求められている契約書を公開すると、コロナワクチン以外でも、今後のワクチン調達に関する交渉において、日本が不利な立場に立たされる、というのが契約書を全部不開示とした主な理由のようだ。

製薬会社の強い交渉力

今後もパンデミックが発生する可能性は否定できない中で、ワクチン供給について不利に働く懸念があるならば、契約書の公開に応じない厚労省の考えも理解出来なくはない。

しかし、気になるのは、製薬会社が「ワクチン」という製品を盾に、厚労省に対し非常に強い交渉力をもっているように見える点だ。コロナワクチンについては、製薬会社が強気の姿勢で臨んだことが報じられている(参照)。アメリカの消費者団体「PUBLIC CITIZEN」も、製薬会社が強い交渉力をもって各国と不公正な契約を結んでいることを問題としていた(参照)。

なお、HPVワクチンに関しても、積極的勧奨の早期再開を求め、積極的勧奨再開を前提に確保したワクチンが廃棄されれば、今後のワクチン供給に影響がある可能性がある、と製薬会社が警告した事実が報じられている(参照、警告の後、HPVワクチンの積極的勧奨は再開された〔参照〕。)。

このように、製薬会社は厚労省に対して極めて強い交渉力を有しているように見える。もちろん、ワクチンといった薬剤は病気に対処するための重要な商品であり、ワクチン供給を確保することは社会的に必要なことだ。また、営利企業である製薬会社が利益を求めることは何ら否定されることではない。

しかし、だからといって、ワクチン供給を確保するために、どのような条件の契約であっても許容されるわけではないだろう。当然だが、国が購入する原資は税金であり、国民は税金がどのように使われたのか、敢えて全てとは言わないまでも一定程度知る必要がある。ワクチン供給契約書の一切が不開示の状態では、ワクチン供給の条件が許容できる内容だったのかどうか、我々は一切判断することができない。

ワクチン供給契約書の一切を不開示としブラックボックス化することは、あまりに国民の知る権利を軽視する対応ではないだろうか。この問題については、進展があり次第、継続して報じる予定だ。

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