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真っ黒だったコロナワクチンのマーケティング調査提案書と報告書【ワクチンのファクト⑱】

真っ黒だったコロナワクチンのマーケティング調査提案書と報告書【ワクチンのファクト⑱】

InFactでは、厚労省が実施したコロナワクチン広報プロジェクトについて調査している(ワクチンのファクト⑫)。今回新たに広報プロジェクトの基本となったマーケティング調査の提案書と報告書を情報公開請求したが、公開された資料のほとんどが「黒塗り」だった。それも真っ黒な「黒塗り」だった。(田島輔)

黒塗り資料の数々

今回、新たに厚生労働省から開示された提案書と報告書は、「新型コロナウイルス感染症のワクチンの情報提供に資するための国民の認識や意向に関する調査及び情報提供資材制作」という入札案件で作成されたものだ(2021年1月25日から3月31日にかけて実施)(参照)。

この入札案件は、「ワクチンのファクト⑫」で解説した。

その目的は、コロナワクチン接種推進に向けたマーケティング調査を実施し、効果的な広報資材を作成するというものだ。「ターギス株式会社」というヘルスケア分野を専門とする外資系広告代理店が落札している。

では、マーケティング調査や広報資材の具体的内容はどのようなものだったのだろうか。

InFactは、2021年11月29日にターギス社が作成した提案書、2022年2月28日にマーケティング調査報告書の情報公開請求を厚生労働省に対し行った。

しかし、文書の開示決定があったのは2022年12月15日と、請求から開示決定まで約1年も要した(なお、文書の開示・不開示の決定は、原則として情報公開請求から30日以内にされなくてはならない〔参照〕)。
さらに、ターギス社のノウハウなど正当な利益を害するおそれがあるという理由で資料は黒塗りばかりだった。

開示された「提案書」。「黒塗り」ばかりで詳細はは分からない。
マーケティング調査報告書も、「黒塗り」ばかり。

何が開示されなかったのか?

では、具体的に何が開示されなかったのだろうか。
提案書は75Pあったが、開示されたのは基本的には提案の「タイトル」だけだ。

提案のタイトルからは、ターギス社が、①定性調査(50代から80代男女へのグループインタビュー)、②定量調査(20代から80代の男女1200人程度へのインターネット調査)を実施し、③調査結果を踏まえて、広報資材を作成する、という流れであったということが分かった。

ただ、定性調査(グループインタビュー)や定量調査(インターネット調査)、作成された広報資材の内容は一切不明だ。

中には、タイトルにも「黒塗り」があるページもあった。

定性調査(グループインタビュー)の報告書も開示されたのは提案のタイトルだけで、具体的な内容は全て「黒塗り」だった。
なお、定性調査で調査されたのは、各世代での「コロナ禍1年の生活実態と意識」だったようだ。

また、定量調査(インターネット調査)の報告書には、メッセージ案の具体的な改善案が提案されたページもあった。メッセージ案は、若年層向けのメッセージ(新1&新2案)とS案(Sが何を意味するかは不明)の3案が提案されていた。

開示された資料は「黒塗り」ばかりで、国民向けに展開された広告手法がどのような内容だったのか、判別できる情報は公開されていない。

「ワクチン啓発プロジェクト」で広告賞を受賞

ところで、広報プロジェクトを実施したターギス社について興味深い情報があった。
ターギス社のHP(参照)では、所属するオムニコムヘルスグループ・アジア・パシフィックが2021年の「Japan/Korea Specialist Agency of the Year」の銀賞を受賞したことが発表されていたのだ。

「Agency of the Year」のHPより

その受賞理由には、以下のような記載がある(参照)。

OHGAP also contributed to healthy lives by being awarded Japan’s Ministry of Health, Labor and Welfare’s vaccine awareness campaign, which was hugely successful.
OHGAP(オムニコムヘルスグループ・アジア・パシフィック)は、日本の厚生労働省のワクチン啓発キャンペーンを受注し、健康な生活に貢献しました。そのワクチン啓発キャンペーンは大きな成功を収めています。

受賞理由にある「ワクチン啓発キャンペーン」とはまさに、ターギス社が落札した「マーケティング調査と広報資材作成」のことだろう。

ターギス社のマーケティング調査と広報資材作成の終了後、「新型コロナウイルス感染症のワクチン広報プロジェクト」と銘打った案件が正式にスタートしている(参照)。
そして、2021年度はプラップジャパン(ワクチンのファクト⑬参照)、2022年度は電通PRコンサルティングが「ワクチン広報プロジェクト」を落札した。2023年度にも新たに「ワクチン広報プロジェクト」の入札が発表されている(開札日は2023年3月27日、契約期間は9月30日まで)(参照)。

これら「ワクチン広報プロジェクト」の基礎となったのは、ターギス社が実施した「マーケティング調査」と制作した「広報資材」だろう。つまり、ターギス社のフォーマットが踏襲された可能性があるということだ。

確かに、日本における新型コロナワクチンの接種率は、諸外国と比較しても極めて高い。
接種率だけを見れば、ターギス社の広告賞受賞理由にあるとおり、ワクチン広報プロジェクトは大成功だ。

「黒塗り」の資料から分かること

しかし、コロナワクチンの接種率は、回数を経るごとに接種率が下がってきている(参照)。このことは、ワクチン接種を推進する政府への信頼低下を意味するのではないか。

これまでに見てきたとおり、「広報プロジェクト」の資料は「黒塗り」ばかりで内容は全く分からなかった。情報公開請求から文書の公開までにも、約1年と非常に時間がかかっている。
政府・厚生労働省が「コロナワクチン広報プロジェクト」の情報公開に消極的であることは明らかだ。

新型コロナワクチンに関しては、今後、年1回接種となることが検討されている(参照)。
政府は今後もコロナワクチン接種についての国民への協力を求め、高い接種率を維持したいはずだ。

ワクチンに関する情報公開に消極的な政府を、これからも国民は信用することが出来るのだろうか。
これまでに行ったワクチン接種の広告手法やワクチンの効果について、隠すことなく情報公開しなければ、政府への信頼が回復することはないだろう。

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