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発表についての自由意思を禁じられたブラジルの契約書【ワクチンのファクト⑧】

発表についての自由意思を禁じられたブラジルの契約書【ワクチンのファクト⑧】

日本政府が不開示とするワクチンに関する製薬会社との契約書。しかし、諸外国の契約書から、その概要は見えてくる。「ワクチンのファクト⑦」で詳述したコロンビア政府とファイザーとの契約書の締結から1か月後、ブラジル政府とファイザーとの間で新型コロナワクチン契約が締結された。その契約書を見てみよう。(田島輔)

ブラジル厚生省のサイトからリーク

ブラジル政府とファイザーとの契約書がリークされてブラジル厚生省のサイトに掲載されたことがある。英ガーディアン紙によると契約締結後の2021年4月のことだ。契約書はサイトからすぐに削除されている。誰がリークしたか等は不明なままだ(参照)。

削除されたが、掲載された際に契約書が拡散。それによると、ブラジル政府とファイザーとの契約は、2021年3月15日に締結されている。

「ワクチンのファクト⑦」で解説したコロンビア政府の契約書の締結日は2月2日であるため、その1か月後にブラジル政府とファイザーとの契約が締結されたことになる。

リークされたブラジルの契約書は、コロンビアの契約書と同様、黒塗り部分がない完全なものだった。では、その内容にコロンビアの契約書との違いはあるのだろうか。精査すると、契約の外部への発表を防止するための厳しい条項が加えられていた。

契約について自由な発表を禁止
ワクチンの長期的な効果が不明であることや、予期しない副反応がある可能性をブラジル政府が認識する旨の条項(5条5項)、ワクチンの供給が出来できない場合でも、ファイザーは責任を負わない旨の条項(2条5項(b))、ファイザーがワクチンに関して賠償責任を負う場合にはブラジル政府が肩代わりする条項(4条7項、8条1項)等、ファイザーが責任を回避するための様々な条項が存在している。

加えて、コロンビアの契約書には存在しなかった内容が加わっていた。それは、ブラジル政府が契約について自由な発表ができなくするためのものだった。以下だ。

12.3 Publicity.
「Purchaser shall not make, or permit any person to make, any public announcement concerning the existence, subject matter or terms of this Agreement, the wider transactions contemplated by it, or the relationship between the Parties (except as required by Law, and subject to the protections set forth in Section 10.1), without the prior written consent of Pfizer (such consent not to be unreasonably withheld or delayed). Any press release regarding this Agreement is subject to Pfizer’s review and prior written approval.」

12条3項 公開
「購入者は、ファイザーの事前の書面による同意を得ることなく(かかる同意は不合理に保留・遅延されない)、本契約書の存在・主題・条項、本契約書に規定される広範な取引、当事者の関係に関するいかなる公表も行わず、また、いかなる第三者にも公表させてはならない(法令によって要求され、本契約書10条1項に定める保護を受ける場合を除く)。本契約に関しては、いかなるプレスリリースもファイザーのレビューを受け、事前の承諾を得る必要がある。」

この条項の意味は、コロナワクチンの契約に関する情報について、ブラジル政府はファイザーの許可を得なければ自由に情報発信できないということだ。

プレスリリースを出す際にも、ファイザーの事前審査を受けなければならないと規定されているため、ファイザーに不都合な情報をブラジル政府が発信することは出来ないということだろう。

また、コロンビアの契約書に存在していた、第三者の求めに応じて情報開示する場合には、契約書の公開版を作成できる旨の規定も、ブラジルの契約書からは削除されていた(10条1項)。

ファイザー社製ワクチンを第三者から入手することを禁止

さらに、コロンビアの契約書にはなかった条項として、第三者からファイザー製ワクチンを入手することを禁じる規定が加わっていた。

2.1 Agreement to Supply.
(f)Purchaser, including any related Person or any agents of Purchaser, covenants to exclusively obtain all of its supply of any Vaccine of Pfizer, BioNTech or their respective Affiliates intended for the prevention of the human disease COVID-19 (including the Product) either (i) directly from Pfizer or from Pfizer through the COVAX Facility, or (ii) from a Third Party, whether by donation, resale or otherwise, only if Purchaser has obtained Pfizer’s prior written consent.

2条1項 供給に関する合意
「(f)購入者(関係者または購入者の代理人を含む)は、新型コロナウイルス感染症を防ぐことを目的とするファイザー製のワクチン(本ワクチンを含む)ついて、(ⅰ)直接ファイザーから、または「COVAX」※を通じてファイザーから、あるいは、(ⅱ)ファイザーからの事前の書面による承諾を得た場合に限り、第三者から寄付・再販・その他の方法により、独占的に供給を受けることを誓約します。
※COVAX:新型コロナワクチンを共同購入し、途上国等に分配する国際的な枠組み(参照

これは、ファイザーからの事前の承諾がない限り、ファイザー製のワクチンが余った第三国からワクチンの提供を受けることは出来ないということだ。

さらには、「Purchaser shall not directly or indirectly resell, donate, distribute, export or otherwise transport the Product outside the Territory without Pfizer’s prior written consent.(購入者は、ファイザーの事前の書面による承諾なく、直接または間接的に、本製品をブラジル以外の地域に再販・寄付・分配・輸出・その他輸送を行うことは出来ない。)」(4条6項)と、ブラジル政府がコロナワクチンを外国に寄付等してはいけない旨も明記されている。

したがって、ブラジル政府は、ファイザーが同意しない限り、ワクチンが不足すればファイザーから購入しなくてはならず、反対に、ワクチンが余っても他国へ寄付することはできない。

日本の契約内容は一切不明

ブラジル政府とファイザーとの契約は、契約に関する自由な公表や第三者からのワクチンの入手が明確に禁止されるなど、コロンビアの契約よりもさらにファイザーに有利な契約になっていた。

日本政府とファイザーとの契約は、コロンビアに先立って、2021年1月20日に締結されている(参照)。日本政府はInFactの情報開示の求めに一切応じていない。 「不開示」というのが回答だ。日本政府もブラジル政府のように自由な発表を禁止されているということなのだろうか。

全てを開示する必要は無い。しかし、開示できる条項が有るなら、それは開示するべきだろう。何もかも開示しないということでは、ワクチンに関する市民の信頼は得られないのではないか。

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