ただ、松井候補の発言には事実と異なる点がある。前回の大阪府知事選挙に出て勝利した松井候補は選挙広報に都構想の再挑戦を掲げていた。また維新の会のマニフェストにも都構想の実現が記されていた。しかし、大阪市長選挙に出て勝利した吉村候補の選挙広報には都構想の文字は無かった。つまり、「僕と吉村市長は、この都構想に再チャレンジすることを真正面に掲げて選挙を戦った」というのは、事実とは言えない。
ここで、大阪都構想とは何かを整理したい。その詳細については現在も議論が続いているが、決まっているのは、大阪市を4つの特別区に分割し、市が持っている政令指定都市としての権限を大阪府に移譲するというものだ。つまり東京都の様な行政形態にしようということだ。
ただ、大阪市内ではけして評判が良いとは言えない。大阪市が消滅するということに懸念を示す市民が多いからだ。これを意識したものと思われるが、討論会で松井候補は次の様に話している。
「都構想という新しい制度をつくっても、大阪市のエリアが消滅するようなことではない。都市はそのままです。都構想は、行政の制度を見直すだけのことであります」
この発言はどうだろうか?
都構想の根拠となる法律『大都市地域における特別区の設置に関する法律』の第一条には以下の通り定められている。
第一条 この法律は、道府県の区域内において関係市町村を廃止し、特別区を設けるための手続並びに特別区と道府県の事務の分担並びに税源の配分及び財政の調整に関する意見の申出に係る措置について定めることにより、地域の実情に応じた大都市制度の特例を設けることを目的とする。
また、大阪市のホームページ『大都市制度(総合区・特別区)の検討・取組みについて~「総合区」「特別区」ってなんだろう?~』には特別区制度には以下の解説がされている。
「特別区制度は大阪市をなくし、特別区を設置します」
こうして見ると、都構想では大阪市は廃止されるが大阪市のエリアつまり地域は消滅しないという松井氏の発言自体は間違いではない。また、「都構想は行政の制度見直すだけ」、つまり行政制度である大阪市を廃止するという点も事実を伝えていると解することはできる。