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大阪府市長選ファクトチェック 候補者に事実と異なる発言

一方で、「都市」とは「多数の人口が比較的狭い区域に集中し、その地方の政治・経済・文化の中心となっている地域」(デジタル大辞泉)とされており、特別区という4つの自治体が設置されることから「都市はそのまま」となるか疑問は残る。

そこで都構想のモデルとなっている東京の事例を見てみたい。1943年に当時の東京府は東京市を廃止して東京都になった。東京市は東京23区というエリア(地域)としては現在も残っている。しかし、76年前の東京市という概念を現在も共有している東京都民は極めて稀だろう。因みに、東京市についてかすかに記憶に残っている可能性の有る80歳以上の東京都民(日本人)は都民全体の約7%(平成31年1月現在)だ。

例えば、現在、世田谷区と江東区の住民が1つの共通するアイデンティティーを有しているかと問われれば、「勿論、そうだ」と答える人はかなり少数だろう。

つまり、東京市という概念が共有されていると考えるのには無理が有る。従って松井候補の、「(大阪市という)都市はそのままです」は、仮に都構想が実現した後の将来的なことも考えると事実とは言えない。

討論の中で、そもそも都構想がなぜ浮上したのかも議論されている。吉村候補の次の発言がわかりやすい。

大阪市というのはものすごく小さなエリアの中に都道府県が二つあるような状態です。この状態の中で、大阪市と大阪府がそれぞれ同じような権限を持ち、縄張り争いをし、そして二重行政を重ねてきた。これがまさに大阪の不幸の歴史であります。まさに、これが大阪の成長を阻害してきたと思っています。現在、大阪には一本化する司令塔、つまり大阪全体の成長戦略を描く、そういった司令塔がないという状況で進んできたのが、これまでの大阪市と大阪府の関係‘」

これに対して小西候補は次の様に反論している。

司令塔の一元化ということをおっしゃっています。あるいは今の府市の状態では同じ権限を持って、ということをおっしゃるけど、法律上、府と市が同じ権限を持つってことはありえないわけで、権限上は大阪府か大阪市に属しているわけです

実は、この点が都構想の賛否を考える際の重要なポイントとなっている。小西候補は、そもそも大阪市と大阪府はそれぞれで行政上の権限が明確になっており、吉村候補の言うような「同じ権限を持ち、縄張り争いをし、そして二重行政を重ね」るようなことは無いと主張しているわけだ。

参考記事 「 大阪府知事選でフェイクニュース 維新の会代表が拡散に加担も指摘を受けて削除

これについてはどうだろうか?両者の発言をファクトチェックした結果を先に書くと、小西候補のこの発言は事実とは言えない。総務省にファクトチェック大阪のメンバーが確認したところ、道府県と政令指定都市との間での二重行政の存在は否定していない。それを解消するための調整機能も作られている。

過去に、福岡県と北九州市との間でこの調整機能が利用されたこともあるという。

我々はそれぞれの候補の主張の良し悪しを論じることはしない。よって、争点である都構想の是非には一切、踏み込まない。それはまさに有権者が判断するものだからだ。

このファクトチェック大阪に参加したのは、ジャーナリスト、企業経営者、教師、元公務員、市民活動従事者、元政治家。最終的なとりまとめは立岩陽一郎が行った。

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