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InFact緊急声明 総務省検討会の方針について「官製ファクトチェック」の出現を危惧する

InFact緊急声明 総務省検討会の方針について「官製ファクトチェック」の出現を危惧する

総務省の「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ(案)」についてInFactは「官製ファクトチェック」を出現させる恐れが有るとして、強い懸念を表明します。

問題のとりまとめ(案)は総務省の「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」が提示したものです。確かに、デジタル空間で拡散する情報に様々な問題があることは私たちも共通の認識をもっています。しかし、この中で「ファクトチェック」の役割に触れている点については、実際にファクトチェックを行っているメディアとしてInFactは極めて強い懸念を覚えざるを得ません。

このとりまとめ案は、政府のすべきこと、プラットフォーマーがすべきこと、ファクトチェックの担い手を一括して、且つ、「偽誤情報」という言葉によって極めて不明確な対象に対応しようとするもので、健全なファクトチェックの実施に悪影響を与えるのみならず日本の言論空間そのものに禍根を残す内容を含んでいるからです。

国際的なファクトチェック団体の集まりであるIFCNが規定している通り、ファクトチェックはジャーナリズムの一部です。ですから「ファクトチェック団体」を新聞、放送、通信といった「伝統的メディア」から切り離して議論をすることにそもそも問題があります。その上で指摘したいのは、仮に政府が「ファクトチェック団体」を支援する枠組みが作られてしまうと、それは世界で行われているファクトチェックとは異なる「官製ファクトチェック」の誕生に道を開くことにつながりかねません。もとより政府の発信そのものもファクトチェックの対象であり、仮に「官製ファクトチェック」がデジタル空間で「偽誤情報」をファクトチェックしたとしても、それは政府の代弁にしか過ぎず、ファクトチェックではありません。

前述のIFCNは2024年6月25日にサラエボ声明(Sarajevo Statement)を出しています。そこには「ファクトチェックは、虚偽であったり、誤解を招いたり、重要な文脈を欠いたりするメッセージを訂正し、明確にするための証拠を提示し、追加情報を提供することを目指すものである。ファクトチェックは、こうしたメッセージを抹消したり消し去ったりすることを目的とするのではなく、公開討論の一環として、その討論に正確に情報を提供するために必要な証拠を提示しながら、それらを維持することを目的としている」と書かれています。

InFactはこの声明に署名しています。ところがこのとりまとめ案では、ファクトチェックによって誤りだとされた情報について削除されることも検討されています。これはサラエボ声明の精神とは異なるものです。

今、著名人になりすました「なりすまし詐欺情報」、個人を狙った誹謗中傷、災害時の偽情報などが起きており、政府、プラットフォーマーが対応すべき点が有ることに異論は有りません。しかし、それはファクトチェックが関わる問題ではありません。特に「なりすまし詐欺情報」や「誹謗中傷」はそもそもファクトチェックの対象ではりません。災害時の偽情報については現状でも捜査機関が摘発を行っています。

ファクトチェックはデジタル情報であろうが、その他の情報であろうが、根拠の示されない真偽不明な情報を確認し、その結果を根拠を示しつつ公表するものです。それをサラエボ声明は、「(政府の)検閲は情報を削除する。ファクトチェックは情報を追加する」と表現しています。そして、我々のファクトチェックの内容も含めて、その内容を判断するのは市民です。

InFactは市民から幅広い寄付を募ることで独立性を維持し、今後ともファクトチェックを含めたジャーナリズムを実践するとともに、情報の真偽を判断できる市民の育成に努力したいと考えています。

以下がサラエボ声明(2024年6月25日/ InFact訳)の全文です。

「すべての人々には、情報や考えを求め、受け取り、伝える権利がある。ファクトチェックは、こうした原則に深く根ざしている。ファクトチェックには、情報源を見つけ、広く読み、率直に語る自由を持つ専門家にインタビューする権利と能力が必要である。これが、すべての真のファクトチェックの土台となる。

ファクトチェックは、自由な報道と質の高いジャーナリズムの一部であり、公共の情報と知識に貢献するものである。ファクトチェックは、虚偽であったり、誤解を招いたり、重要な文脈を欠いたりするメッセージを訂正し、明確にするための証拠を提示し、追加情報を提供することを目指すものである。ファクトチェックは、こうしたメッセージを抹消したり消し去ったりすることを目的とするのではなく、公開討論の一環として、その討論に正確に情報を提供するために必要な証拠を提示しながら、それらを維持することを目的としている。

にもかかわらず、ファクトチェッカーは近年、オンライン検閲者として執拗に攻撃され、そのような攻撃の後、多くの人が暴言、Doxing、組織的攻撃、法的脅迫、政治的圧力、さらには肉体的暴力にさらされてきた。しかし、言論の表現であるファクトチェックは検閲ではない。検閲は情報を削除する。ファクトチェックは情報を追加する。メディアやオンライン企業がどのように言論を受け入れるか、Tecプラットフォームがどのように公共の投稿をキュレーションし、モデレートするか、そして社会全体が違法または有害な言論をどのように定義し、取り扱うべきかについては、これまでも議論されてきたし、これからも必要な議論だろう。

実際に害を及ぼす情報であれば削除されることもあるが、虚偽の主張が虚偽であるという理由だけで削除されるべきではない。その代わり、その主張の信憑性を判断するために、適切な文脈と検証を公衆に提供すべきである。

同時に、虚偽の主張が人気やバイラリティで報われるべきではない。さらに、新しいAIツールの登場により、虚偽の情報を拡散する可能性に対する認識が高まっており、正確性の必要性がこれまで以上に高まっている。市民は、政府、経済、健康、そして生活のあらゆる側面について意思決定を行うために、正確な情報を必要としている。ファクトチェックは、市民に正確な情報を提供し、情報の生態系を改善するための重要な要素である。」

【編集長追記】この件に関して8月12日に緊急シンポジウムをオンラインで開催します。無料ですので是非ご参加ください。

【日時】8月12日(祝・月)10:00〜(2時間程度)

【形式】オンライン・ウェビナー方式  無料

【参加方法】ここをクリックして登録をお願いします。



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