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[FactCheck]「スウェーデン首相がコロナ禍初期に感染拡大を止められなかった責任を取って辞任」は根拠不明 

[FactCheck]「スウェーデン首相がコロナ禍初期に感染拡大を止められなかった責任を取って辞任」は根拠不明 

チェック対象のツイートには、スウェーデンのロベーン首相が辞任したのは新型コロナウイルス対応の責任を取るためだと記載されているが、引用元の記事には家賃規制の緩和をめぐり他の党と対立し、信任を否決されたことが経緯だと書かれており、ツイートの内容は根拠不明だ。指摘を受けて発信者はツイートを削除した。(佐藤翠)

作家で投資家の藤沢数希氏が、米紙Bloombergのツイートと記事(6月28日付、どちらも英語)を引用したこのツイートは、7月2日現在で693リツイートと871いいねを集めた。藤沢氏のTwitterのフォロワー数は18万人を超える。

映画評論家・コラムニストの町山智浩氏もこのツイートを引用し、400件以上のリツイートを獲得している。

元記事には、「家賃規制の緩和をめぐる対立から政府が崩壊」と記載 

藤沢氏が引用したBloombergの記事では、首相が辞任に至った経緯について以下のように説明している。

The biggest Nordic economy is mired in a crippling political crisis after the government collapsed following a clash over relaxing rent controls. Lofven lost a confidence vote in parliament last week after parties across the political spectrum united against him. He then tried and failed to reconcile key partners.
(筆者訳:北欧最大の経済大国であるスウェーデンでは、家賃規制の緩和をめぐる対立から政府が崩壊し、深刻な政治危機に陥っています。ロベーン氏は先週、議会で信任投票を行いましたが、各政党が団結し反対したため敗北しました。ロベーン氏は、主要政党との和解を試みましたが、失敗に終わりました。)

この記事では、同氏の辞任にコロナ対応が関係していたとは書かれていない。

藤沢氏は元ツイートに返信する形でFinancial Timesの記事を引用

当該ツイートの翌日の6月29日に藤沢氏は英紙Financial Timesの記事(6月17日付)を引用し、英語で以下のようにツイートしている。

Covid isn’t everything, but it’s one of the reasons why he had to resign. > “Sweden’s government has come in for criticism from the country’s Covid commission … for its handling of the pandemic in which Stockholm refused to impose a formal lockdown.
(筆者訳:新型コロナウイルス(対策)はすべてではないが、辞任せざるを得なかった理由の1つである。>「スウェーデン政府は、新型コロナウイルスが爆発的に流行した際にロックダウンを拒否し、同国の新型コロナウイルス対策委員会から批判されていた。」)

「新型コロナウイルス(対策)はすべてではないが、辞任せざるを得なかった理由の1つ」というのはFinancial Timesの記事には書かれておらず、藤沢氏が自ら補った文章だと考えられる。辞任の背景について、同記事は以下のように説明している。

Sweden’s government is teetering on the brink of collapse after a majority of MPs in parliament on Thursday said they would back a no-confidence vote in Prime Minister Stefan Lofven.(中略)All three rightwing opposition parties said they would back the vote, sparked by anger from the ex-communist Left party at plans to scrap rent controls for new flats. The four parties together have a majority in parliament.
(筆者訳:過半数の議員が木曜日にロベーン首相への不信任決議を支持すると表明したことから、スウェーデン政府は崩壊の危機に瀕しています。(中略)(この不信任決議案は、)新築住宅の家賃規制を撤廃する計画に対する、旧共産党の左派の怒りに端を発したものであり、右派の野党3党はいずれも決議を支持するとしています。なお、この4党でスウェーデン議会の過半数を占めています。)

CNN, The Guardian, Politico, DW, ロイター, Euronewsなど世界中のメディアが今回のロベーン氏の辞任に関して報道しているが、同氏の辞任を「コロナ禍初期に感染拡大を止められなかった責任を取るためだ」と説明した記事はInFactが調べた限りでは確認できなかった。ロベーン氏自身、辞任理由に新型コロナウイルス対応の責任を取ると表明していない。

これについて藤沢氏に問い合わせたところ直ぐに以下の返信があった。


速報記事であまり本文を読まずにリツイートしてしまったのですが、たしかに本文にはコロナ対策失敗が原因とは書かれていません。早とちりでした。しかし、国王にコロナ対策を非難されたり、コロナ対策で多数の死者を出したことも支持率低迷のひとつであったとは思います。当該ツイートは削除しました」。

スウェーデン国王が同国の新型コロナウイルスの対応は「失敗だった」と話したことは、2020年12月に各国のメディアが報じている。しかし、それが今回の辞任の原因だとする報道は確認されていない。

なお、ロベーン氏はその後7月7日に首相に再任されている

結論

チェック対象のツイートには「スウェーデンのロベーン首相が辞任したのは新型コロナウイルス対応の責任を取るため」と記載されているが、引用記事には辞任の経緯を実際は家賃規制の緩和をめぐり他の党と対立し信任を否決されたことが理由だと書かれている。InFactで調べた限り指摘を裏付ける報道は確認できず、「根拠不明」と判定した。

(冒頭画像:Bloomberg記事のスクリーンショット)

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

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