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[Fact Check] 「日本の水道水を浴びたコロナ、一瞬で死滅」は根拠不明

[Fact Check] 「日本の水道水を浴びたコロナ、一瞬で死滅」は根拠不明

「日本の水道水を浴びたコロナ、一瞬で死滅、感染拡大地域はミネラルウォーターが原因か」というツイートが拡散している。しかし、水道局など公的機関は、水道水は十分に消毒されているとしているだけで、水道水そのものに新型コロナウイルスに対する消毒効果があるとは発信していない。(佐渡正弘)

チェック対象
日本の水道水を浴びたコロナ、一瞬で死滅、感染拡大地域はミネラルウォーターが原因か
(5ちゃんねる、2021年5月2日投稿スレッドタイトル)
結論
【根拠不明】 水道局など公的機関は、水道水の安全性を示すという意図で情報を発信している。しかし、水道水そのものに新型コロナウイルスに対する消毒効果があるとは発信しておらず、そのようなデータは確認できない。

この主張は、匿名掲示板「5ちゃんねる」で5月2日に投稿され、まとめサイト「ツイッター速報」が同日付で記事化している。ツイッター速報による記事はTwitter上で拡散され、約1000RTと約2620いいねを獲得している(2021年7月2日時点)。

ツイートへの返信では、水道水を使用することが新型コロナウイルスの感染予防につながると期待する意見が多数見受けられた。この情報によって、水道水そのものにコロナウイルスの消毒効果があると受け止めた例があることが推察される。

札幌市水道局の情報を誤読か

5ちゃんねるの投稿では、情報源として2021年1月14日付の札幌市水道局のホームページの記述が引用されている。その内容は以下のようなものだ。

インフルエンザやコロナウイルスに分類されるウイルスに対しては、一般的に、塩素による消毒効果が高いとされています。水道局では、浄水場で適切に塩素消毒を行い、安全な水を供給しております。

札幌市水道局に取材し、ホームページの内容について問い合わせた。以下はそのやり取りである。

質問:水道水にはコロナ感染対策に効果があると理解した人がいるが、そのような意図の発信か。
回答:そのような意図で発信したのではございません。ホームページの表現方法については、今後検討したいと考えております。

質問:水道水を飲み続けたらコロナ感染に対して何らか解毒作用、消毒作用が発揮されるというデータはあるか。
回答:飲み続けることにより、解毒作用、消毒作用が発揮されるというデータはございません。

これらの回答から、市水道局の記述は水道水を浴びると新型コロナウイルスが「一瞬で死滅」するというようなチェック対象の主張とは合致していないことがわかる。

水道水中の塩素濃度と消毒効果

さらに、水道水の消毒や安全性について詳しく尋ねた。

質問:水道水にコロナウイルスが紛れ込むことは消毒を行っているために通常あり得ず、飲み水として安全に飲めるという意味か。
回答:新型コロナウイルスについては不明な点も多いのですが、一般論として、ウイルスは凝集沈殿・ろ過処理の浄水処理工程で除去され、塩素消毒により一定程度は死滅(不活化)します。また、適切な塩素濃度中では増殖しないこと、上水道においてこれまでウイルスの水系感染が生じた事例がないこと等から、水道水中に問題となるレベルで混入するリスクはほとんどないと考えており、本市のホームページの内容については以上の観点から記載しています。

質問:美味しい水道水を提供するために塩素濃度を低くすると聞いたことがあるが、水道水そのものに新型コロナウイルスの消毒効果があるのか?
回答:水道水は、水道法により蛇口から出る水において適切な残留塩素濃度(0.1mg/L以上、1.0mg/L以下)を保持することが義務付けられていますが、「おいしい水道水」に触れられましたとおり、濃度が高すぎると「カルキ臭」と呼ばれる独特のにおいが生じる原因となってしまうため、本市水道局では適切な残留塩素濃度の管理を行っております。なお、新型コロナウイルスの消毒には、市販の家庭用漂白剤を、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%(500mg/L相当)になるように薄めて拭くことが有効とされています。新型コロナウイルスへの水道水そのものの消毒効果については明らかではありませんが、水道水中の残留塩素濃度は、上述のとおり有効濃度500mg/Lと比べて低く、また、空気等との接触により水道水中の塩素が消費されてしまうため、消毒に十分な塩素濃度を維持することは難しいと考えられます。

蛇口から出る水道水は、適切な残留塩素濃度として0.1mg/L(0.00001%)以上を保持することが義務付けられいる(水道法施行規則第17条第1項第3号)。濃度の上限は法律上の定めは無いが、目標値として1.0mg/L(0.0001%)以下とされている。

厚生労働省では、物体に付着したウイルスへの対策として、「市販の家庭用漂白剤を、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように薄めて」拭くことを推奨している(参照)。塩素そのものが含まれる水道水と単純比較はできないが、塗布等による消毒効果を期待するのは難しいだろう。

その他、塩素以外の要素を含め、水道水を飲んだり塗布したりすることが新型コロナウイルスの感染予防につながるという科学的な根拠は確認できない。

結論

札幌市水道局は、ホームページで水道水の安全性を示した。しかし、だからといって水道水を飲んだり塗布したりすることにより、新型コロナウイルスに対して解毒作用や消毒作用が発揮されるという科学的なデータはない。そして、札幌市水道局は「水道水にはコロナ感染対策に効果があるといった意図で発信したわけではない」と明確に回答した。これに対して、ツイートは、水道水の使用によって新型コロナウイルスが一瞬で死滅したと思わせる内容になっているため、「根拠不明」と判定した。

(冒頭画像:「ツイッター速報」Twitter投稿のスクリーンショット)

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