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【Fact Check】コロナワクチン接種後の心筋炎が昨年の『260倍以上』を検証

【Fact Check】コロナワクチン接種後の心筋炎が昨年の『260倍以上』を検証

2021年に米国に報告されたワクチン接種後の心筋炎の報告数が、前年の「260倍以上」になっているとの言説が拡散した(2021年の報告数が15,531件、2020年の報告数が58件)。真偽を確認したところ、2021年の報告数は前年の「220倍」となっており、拡散した言説は「ほぼ正確」だった。(田島輔)

チェック対象
2021年のワクチン後の心筋炎が昨年の「260倍以上」
これはもう一目瞭然で、特にご説明することもないのですが、2021年は以下のようになっていました。
接種後の心筋炎の報告数の2010年-2021年までの報告数の推移

(twitter、2021年12月7日、冒頭画像)
結論
【ほぼ正確】 米国の予防接種安全性監視システムでは、2021年に12,789件の心筋炎・心膜炎が報告されている(12月16日現在)。2020年の報告数は58件であり、2021年の報告数は昨年の「220倍」だ。

「VAERS」とは
米国の予防接種安全性監視システム(Vaccine Adverse Event Reporting System、通称VAERS)とは、ワクチン接種後の有害事象・副反応疑いについて、医療従事者・ワクチンメーカー・国民一般からの自発的報告を受けて分析を行うシステムのことだ(参照)。
米国のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)とFDA(米国食品医薬品局)が管理しており、日本では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による「副反応疑い報告制度」にあたる。

投稿者が添付しているグラフは、「Open VAERS」というサイトに掲載されているものだ(参照)。
「Open VAERS」は、「VAERS」の検索方法が複雑であることから、「VAERS」に報告されたデータをグラフ化するなど整理して分かりやすく提供することを目的としたサイトであり、一般有志によって運営されている(参照)。

「VAERS」は新しい報告を受けると更新されるため、「Open VAERS」も都度更新され、12月16日現在では2021年に報告されたワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の件数は17,046件と表示されている(接種したワクチンの種類は、新型コロナワクチンに限られず全ての種類のワクチン)。

心筋炎・心膜炎の報告数は?
では、実際に「VAERS」で検索して、2021年にワクチン接種後に報告された「心筋炎・心膜炎」の数を確認してみよう。


「VAERS」では、①症状、②ワクチンの種類、③場所(「VAERSは米国以外の外国で発生した有害事象・副反応疑いを報告することも可能」)、④入院・回復状況、⑤報告年、などの条件で有害事象・副反応疑いを検索することができる(以下の画像が実際の検索画面)。

そこで、「症状」は以下の「MYOCARDITIS(心筋炎)」・「PERICARDITIS(心膜炎)」に関連するものを広く選択し、「場所」は米国に限らず外国も含む全ての地域として検索を実行した。

MYOCARDITIS(心筋炎)、AUTOIMMUNE MYOCARDITIS(自己免疫性心筋炎)、DIPHTHERIA(ジフテリア)、EOSINOPHILIC MYOCARDITIS(好酸球性心筋炎)、GIANT CELL MYOCARDITIS(巨細胞性心筋炎)、HYPERSENSITIVITY MYOCARDITIS(過敏性心筋炎)、IMMUNE-MEDIATED MYOCARDITIS(免疫介在性心筋炎)、MYOCARDITIS BACTERIAL(細菌性心筋炎)、MYOCARDITIS INFECTIOUS(感染性心筋炎)、MYOCARDITIS POST INFECTION(心筋炎後感染症)、MYOCARDITIS SEPTIC(敗血症性心筋炎)、MYOPERICARDITIS(心筋心膜炎)、VIRAL MYOCARDITIS(ウイルス性心筋炎)、PERICARDITIS(心膜炎)、PERICARDIAL HAEMORRHAGE(心膜出血)、ATYPICAL MYCOBACTERIUM PERICARDITIS(非定型マイコバクテリウム心膜炎)、BACTERIAL PERICARDITIS(細菌性心膜炎)、CYTOMEGALOVIRUS PERICARDITIS(サイトメガロウイルス心膜炎)、PERICARDITIS CONSTRICTIVE(狭心症性心膜炎)、PERICARDITIS INFECTIVE(感染症心膜炎)、PERICARDITIS LUPUS(ループス心膜炎)、PERICARDITIS MENINGOCOCCAL(髄膜炎性心膜炎)、PERICARDITIS RHEUMATIC(リウマチ性心膜炎)、PERICARDITIS TUBERCULOUS(結核性心膜炎)、PERICARDITIS URAEMIC(尿毒性心膜炎)、PLEUROPERICARDITIS(胸膜心膜炎)、PURULENT PERICARDITIS(化膿性心膜炎)、VIRAL PERICARDITIS(ウイルス性心膜炎)

2010年から2021年に、ワクチン接種後に報告された「心筋炎・心膜炎」の件数は以下の画像のとおりだ(12月16日現在)。

「VAERS」での「心筋炎・心膜炎」の検索結果。赤枠は筆者による。

「VAERS」での検索結果は、2021年の報告数12,789件、2020年が58件となっており、疑義言説のツイートで引用される「Open VAERS」のグラフとは数値が異なっているようだ(2021年が15,531件、2020年が58件)。

しかし、多少の数値の違いはあるとしても、ワクチン接種後の「心筋炎・心膜炎」の報告数について、2021年の12,789件が前年の58件と比べて「220倍」と極めて多いことは事実だ。
なお、2010年から2020年までの平均報告数は58件だった。

「Open VAERS」でも「VAERS」のデータをダウンロードして使用しているとのことであるが、報告数が異なっている理由が、他の症状も選択している等の検索条件によるものなのかどうかは不明だ(「VAERS」のデータはここからダウンロード可能。)。

海外メディアのファクトチェック内容
SNS上では、「Open VAERS」に掲載されている「心筋炎・心膜炎」の報告数のグラフについて、メディアによってファクトチェック済みであり、「デマ」であると断言する投稿も存在する。

実際、海外メディア(ロイター)がファクトチェックをしており(参照)、記事の結論部分では「There were 2,320 total reports of myocarditis in VAERS from 1990 to Oct. 27, 2021, according to the CDC. Reports of myocarditis and pericarditis have increased since the rollout of COVID-19 vaccines, with 1,005 cases confirmed, but a link to the shots has so far not been established.(CDCによれば、1990年から2021年10月27日までにVAERSに報告された心筋炎の総数は2,320件でした。新型コロナワクチンの接種開始以降、心筋炎や心膜炎の報告が増加し、1,005例が確認されていますが、今のところワクチン接種との関連は確立されていません。)」と述べ、「Open VAERS」のグラフを引用した新型コロナワクチンへの懸念を「ミスリード」と判定している。

しかし、ロイターのファクトチェックには疑問がある。

まず、1990年から2021年に報告されている心筋炎の数が2,320件と少ない点についてだが、そもそも、「Open VAERS」の数値は「心筋炎」だけでなく「心膜炎」を含んでいる。
また、「Open VAERS」のデータは、米国以外の外国を含む全ての地域で報告された件数を含んでいると推測される。一方、ロイターが言及している2,320件は、米国国内だけの報告数だろう(1990年から2021年に米国で報告された「心筋炎」の件数を検索した下の画像参照。12月16日現在の数値であるため、ロイターの記事よりも件数は多くなっている)。

1990年から2021年までの「心筋炎」の米国内での報告数。赤線は筆者による。

そのため、上述のとおり「Open VAERS」に記載されている報告数が、実際の「VAERS」への報告数と異なっていることは確かであるもものの、ロイターの記事で指摘されるほど件数に違いがあるわけではない。
さらに、2021年の心筋炎の報告数(2,165件)は昨年の10件から216.5倍となっており、極めて多いことに変わりはない。

また、CDCとFDAがデータを精査し、「心筋炎・心膜炎」の基準に該当すると判断したのは1,005件であり、さらにワクチン接種との因果関係は確認できないとのことだが、確かに、「VAERS」の免責事項にも「VAERSの報告だけでは、ワクチンが有害事象や病気を引き起こしたかどうか、あるいはその一因となったかどうかを判断することはできません。」と記載されている(参照)。
しかし、「因果関係が確認できない」ことは、必ずしも「因果関係が否定される」ことを意味するわけではない。

ワクチン接種と「心筋炎・心膜炎」の因果関係が明確でないとしても、新型コロナワクチン接種が始まった2021年に「心筋炎・心膜炎」の報告数が、例年の220倍と極めて多くなっていることは事実だ。
そして、2021年に報告されている「心筋炎・心膜炎」に関し、接種したワクチンの種類はほとんどが新型コロナワクチンだ(ファイザー製が9,647件、モデルナ製が3,104件、ヤンセン製が256件、その他が21件。)。

ワクチンごとの「心筋炎・心膜炎」発生件数。なお、混合接種等の関係からかワクチンごとの報告数の合計は上述の12,789件よりも多くなる。

したがって、「VAERS」上で、新型コロナワクチン接種後、例年と比較して極めて多い220倍もの「心筋炎・心膜炎」が報告されていることが事実である以上、新型コロナワクチンと「心筋炎・心膜炎」の関連を疑うことは「ミスリーディング」とまでは言えないだろう。

結論

「Open VAERS」に記載されているグラフの数値は、実際に「VAERS」に報告された「心筋炎・心膜炎」の件数よりも多くなっていたものの、2021年の「心筋炎・心膜炎」の報告数が2020年の「220倍」と極めて多いことは事実であり、拡散した言説は「ほぼ正確」だ。

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