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[新型コロナFactCheck] 「感染対策に緑茶が有効」は根拠不明 査読前論文の未確定情報が拡散

[新型コロナFactCheck] 「感染対策に緑茶が有効」は根拠不明 査読前論文の未確定情報が拡散

緑茶に含まれているエピガロカテキンガレートという成分に抗新型コロナウイルス作用があるとして、感染予防に緑茶を飲むことが有効だとする情報が拡散されている。しかしその情報の根拠は明確ではない。(安藤未希)

チェック対象
『新型コロナウイルス対策として、すぐに緑茶を飲んでください!!』 (中略)エピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate、EGCG、エピガロカテキン3-ガラート)という成分に、強い抗新型コロナウイルス作用が認められたことです。そして、エピガロカテキンガレートは、特に緑茶の中に高濃度に含まれているからです。
(Facebook、2020年4月13日投稿)
結論
【根拠不明】緑茶に含まれるEGCGという成分に新型コロナのウイルスを抑制する効果がある可能性はあるが、そのことを証明した研究結果は現在のところない。

検証

このFacebookの投稿は4月13日に投稿され、800回以上シェアされ拡散された。現在は削除されているが、同じような情報が複数ネット上で拡散されているのが確認されている。

Facebookで拡散した情報

このFacebook投稿は、2020年3月27日に「Research Square」という査読前論文を集めたサイトにアップロードされた1本の論文に載っていた図をシェアしていたことから、この論文が情報の根拠と思われる。

「分子ドッキング法を使用した新型コロナウイルスと戦うための治療薬としての食物分子の同定」というタイトルで、執筆したのはインドのエラ大学医学部所属の5名の研究者だ。これは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こすウイルス、SARS-CoV–2に作用する薬の候補を見つけ出すことを目的とした研究について書かれたもので、その中に次の記述がある。

In adequate light of current findings, intake of the suggested foods (Table 4) as supplements in adequate doses could be helpful to prevent and control COVID–19 infection by suppression of propagation and pathogenesis of SARS-CoV–2. Since green tea is a rich source of EGCG, it may have a major role in combating the SARS-CoV–2.

(訳)現在の研究結果を考慮すると、適切なサプリメントとして提案された食品(表4)の摂取は、SARS-CoV–2の繁殖や病原性を抑制することによって、COVID–19の予防や感染のコントロールに役立つ可能性がある。緑茶はエピガロカテキンガレート(以下、EGCG)が豊富に含まれているため、SARS-CoV–2との闘いに重要な役割を果たす可能性がある。

Identification of Dietary Molecules as Therapeutic Agents to Combat COVID-19 Using Molecular Docking Studies(Research Square、2020年3月27日掲載)

つまり、緑茶の成分であるEGCGの効果について言及しているが、あくまでも「感染のコントロールに役立つ可能性がある」にとどまっている。また、この論文は査読を経ておらず、この内容が公的に認められたものでもない。

論文は下記のように締めくくられている。

Therefore, in our study we suggest EGCG as a potential inhibitor of SARS-CoV–2. However, further research is needed to investigate the mechanism and mode of action of these phytochemicals in future.

(訳)したがって、私たちの研究ではSARS-CoV–2を潜在的に抑制するものとしてEGCGを提案します。しかし、これからメカニズムや植物性化学物質の作用機序のさらなる研究が必要です)

つまり、更なる研究が求められるということだ。この緑茶に含まれているEGCGについては、SARS-CoV–2出現以前にいくつかの研究がなされている。

緑茶で有名な飲料メーカーの伊藤園は、2009年に、静岡県立大学薬学部の鈴木隆教授との共同研究の結果を公表している。その中で、EGCGは新型インフルエンザの原因となるブタ由来ウイルス(H1N1)を含む3種の型のウイルスに対して感染阻害作用を示し、型に関係なくウイルス感染予防に有効であることを細胞実験で確認したとしている。その結果から緑茶がインフルエンザの予防に有効であると発表した。しかし、その研究成果がSARS-CoV–2にも当てはまるかどうかは不明だ。

「お茶が有効」説は海外でも拡散、検証例あり

緑茶と限った話ではないが、お茶が新型コロナウイルスの治療や症状の緩和に有効である、という説は海外でもみられ、フランスのAFP Fact Checkがスリランカの医師の否定コメントを掲載している。

Dr. Jayaruwan Bandara, director of the Sri Lanka Medical Research Institute, told AFP by phone on March 26, 2020 that while tea may strengthen immunity, there is “no research” on the benefits of drinking tea for COVID-19 patients.

(訳)2020年3月26日、スリランカ医学研究所所長のジャヤルワン・バンダラ博士は電話でAFPに次のように語った。お茶は免疫を強化するかもしれないが、新型コロナウイルス患者がお茶を飲むことで恩恵を受けるということについての「研究はない」。

No evidence drinking tea can cure or relieve symptoms of COVID-19, doctors say, AFP Fact Check (2020年3月30日)

結論

緑茶に含まれるEGCGという成分は新型コロナのウイルスを抑制する効果を持つ可能性はあるが、そのことを証明した研究結果は現在のところない。したがって緑茶を飲むことが新型コロナウイルスの感染予防になるという情報は、現時点では証明されておらず、根拠不明であると判断した。

※この記事の調査には、FIJのリサーチャーである武藤珠代氏が協力した。

(冒頭写真は、フリー素材より)

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