新型コロナウイルス感染症の入院患者が増加し、特に感染者が最も多い東京都で病床がひっ迫して医療崩壊の危機にあると報じられてきた。大型連休明けにも、東京都だけ依然として病床がひっ迫しているとNHKに報道されていたが、調査の結果、東京都が発表した不正確なデータに基づく誤報だったことがわかった。（楊井人文）

検証

このニュースは、東京都以外では、新型コロナウイルス入院患者の病床がひっ迫する状況が緩和されてきているが、東京都だけが依然として病床の使用率が８割を超え、ひっ迫した状況が続いていると報じたものだ。例えば11日夕方の首都圏ニュースネットワークでも、「91%を使用」と伝えていた（冒頭写真）。だが、厚生労働省の発表資料と矛盾していることがわかり、調査した。

NHKは、大手メディアの中で唯一、病床のひっ迫状況を詳しく特設サイト等で報道してきた。そこにも「NHK調べ ５月11日時点の最新データ」として、東京都は「新型コロナ対応ベッド数　2000」「入院中の患者数（入院必要な人含む）　2518」「ベッドに対する割合※ 126%」と記載していた。「※ホテル・自宅療養者含む」という注釈もつけ、この入院患者数のうち実際に何人が入院しているのか内訳は示さず、実際はこれより少ないことも推測できたが、ニュースでは病床の使用率が８割を超えていると断定していた。

たしかに、厚生労働省が5月6日に病床確保数などを発表していたが、入院患者数は4月28日時点、病床数の5月1日時点の情報だった。その時点で、東京都は病床確保数2000、入院患者1832人とされていた。だが、東京都の小池百合子知事は5月11日、3300の病床を確保したと発表。にもかわらず、NHKの情報は古い「2000」のままになっていた。

さらに、厚労省が5月12日発表した資料で、東京都の病床数3300（5月8日）、入院患者1511人（5月7日0時現在）と判明した。東京都も5月12日それまで発表していた入院患者数を大幅に下方修正し、1413人と発表した。この時点で、病床使用率が43%と5割を大きく下回っていたことになリ、5月11日時点で「8割超」であったことはあり得ない。NHKはその不正確な発表に基づいて、報道していたことになる。

18日、筆者の取材に対し東京都健康保健局の感染対策課長は、5月11日まで発表していた入院患者数がホテル等療養者だけでなく退院者も含む不正確な数値であることを認めた。厚生労働省の健康局結核感染症課の課長補佐は19日、筆者の取材に対し「東京都から間違った報告がなされていたことは大変残念」とコメントした。

厚労省が12日に最新の資料を発表したにも関わらず、NHKはニュースを訂正せず、特設サイトの数値も11日現在の不正確なデータのまま更新されていない。筆者はNHKに対し、問い合わせているが、まだ回答はない。訂正もなされていない（回答等があり次第、追記する）。　【追記】NHKは5月21日ごろ、特設サイトで、5月13日時点で東京都を含め、病床使用率は５割を下回っている、との記事を掲載し、事実上の修正を行った。

なお、同様に、時事通信も5月11日「コロナ病床、想定の半分以下　確保済み１２県、東京、石川逼迫―厚労省」と題した記事を配信していたが、これも5月6日の厚労省発表資料に基づき、4月28日時点の古い情報を報道したものだった。5月11日時点で状況が大きく変わっていたのだから、結果的に誤りだと言える。

海外メディアにも誤報が拡散

東京都が病床使用率8割を超えてひっ迫しているという誤情報に基づくニュースは、共同通信中国語版（5月11日）も報じ、中国国営の中央テレビ（CCTV）にも報道された。台湾の各メディア（中央通信社、自由時報など）、香港メディア（リンゴ日報）にも報道された。

他に、ロイター通信、ガーディアン、BBCなども、同様の報道をしていたことが確認された。

東京都の病床確保数・入院患者数の調査まとめ

結論

東京都、厚労省が発表した情報に基づき算定すると、5月7日時点での病床使用率は約50%、12日時点で約43%となり、NHKが報道した時点で「8割超」ではなく「5割未満」であった。NHKは東京都の不正確な情報に基づき報道しており、「誤り」と判定した。

※INFACTは、FIJの新型コロナのファクトチェック国際協力プロジェクトに参加している。このプロジェクトは日本財団などの支援を得て、各国のファクトチェック団体と協力して、海外の拡散した新型コロナに関する情報の検証も行っている。この記事の調査には、FIJのリサーチャーであるユウセンブン氏が協力した。

（冒頭写真は、5月11日夕方に放送されたNHK「首都圏ネットワーク」の一画面、筆者撮影）

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