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【FactCheck】拡散するUSAID情報についてアメリカのファクトチェックの事例

【FactCheck】拡散するUSAID情報についてアメリカのファクトチェックの事例

USAIDという日本にはあまり馴染みのないアメリカの連邦政府機関について様々な情報が日本でも拡散している。不思議な現象だが、その根拠と見られるのがトランプ政権高官らの発する発言だ。それらは実際にはアメリカでファクトチェックされて誤りと判定されているものも多い。そのアメリカ国内のファクトチェックの事例を紹介する。(清水竜太郎)

アメリカのトランプ大統領は、自身のXの中でUSAID=アメリカ国際開発庁について「カネの使い道の多くが不正で、まったく説明できないものだ。腐敗はかつてないほどだ。閉鎖しろ」として、組織を閉鎖する可能性に言及した。その後、USAIDを廃止して一部の人道部門を国務省に移管することを決めている。そして、USAIDについて様々な情報がネットなどで拡散する状況がアメリカは勿論、日本でも起きている。

USAIDとはどういう組織なのか。アメリカ議会調査局の公式サイトによると冷戦下の1961年に誕生したUSAIDは、「戦略的に重要な国や紛争にある国を援助する」ことを目的とする。海外を中心に1万人の職員を要し、2023年度は400億ドル余りが充てられている。援助先はおよそ130カ国に及ぶ。援助の内容としては、統治、人道援助、公衆衛生などとなっていて、ウクライナなどヨーロッパ・ユーラシアへの援助がもっとも多い。

USAIDをめぐっては、アメリカは勿論、日本でもネット上で様々な情報が拡散している。これらの根拠となっていると考えらるのが、トランプ政権高官や共和党議員による発言だ。こうした発言に対しては、主要メディアやファクトチェック・メディアがファクトチェックしているので一部を紹介する。

「USAIDからの援助は1ドル中、10セントから30セントだ」→「誤り」

共和党のブライアン・マスト下院議員がCBSテレビ「Face The Nation」で行った発言だ。これについてファクトチェック・メディアのPolitiFactは、「USAIDが出した2024年の報告によると基金のうちおよそ12.1%が、外国にある現地の組織に直接送られている。ブルッキングス研究所のシニア・フェローの話では、残りは国際組織や企業を通して分配されており、その中にはアメリカの組織などもあるが、途上国での食料や医薬品などに使われたり、途上国の組織に送られたりする」として、発言は「誤り」だと判定している。

「USAIDをめぐってはいくつかのケースで、10、12、13%、たぶんもっと少ない金額しか実際には届いていない。残りは関係ない経費や官僚機構に消える」→「ミスリード」

マルコ・ルビオ国務長官の記者会見での発言だ。これについてThe New York Timesは、「ルビオ長官はおそらく基金の12.1%にあたるおよそ21億ドルが直接、現地のパートナーに送られているというUSAIDの報告について言及しているのだろうが、だからと言って残りの80%、90%が関係ない経費や官僚機構に使われることにはならない。事実、ほとんどの基金は、公共的な国際組織と同じく、アメリカの企業や寄付を通して分配される」として、「ミスリード」と判定している。USAIDは、現地のパートナーとの関係強化を目指しているが、現状は違う。2013年度から2022年度まで、基金のおよそ3分の2が、プロジェクト中心の援助に向けられ、19%が国連世界食糧計画や赤十字国際委員会のような公共的な国際組織に、7.7%が管理費に充てられている。

「何十億ドルものカネがUSAIDやほかの省庁で盗まれてきたようだ。その多くが民主党にとっていい話を書いた謝礼としてフェイクニュース・メディアに流れている。左翼のくずメディア、Politicoは800万ドル受け取ったようだ」→「事実誤認」

トランプ大統領のTruth Socialでの発信だ。これについてCBSニュースは、「USAspending.govのデータによると2024年、アメリカの省庁は合わせて800万ドル以上をPoliticoの購読料などに支出している。この中にはUSAIDの2万4000ドルの支出も含まれている」「データによると省庁は、The New York Times、The Wall Street Journalなどほかのメディアに対しても購読料を支払っている」として、発言は「事実誤認」だと判定している。

またファクトチェック・メディアのSnopesは、「USAspending.govのデータによると近年(2023年と2024年)、USAIDは合わせて4万4000ドルを、数百万ドルではなく、Politicoの発行するE&E Newsの購読に使っている」として、発言は「誤り」だと判定している。

「USAIDは、セルビアの職場でDEIを浸透させるため150万ドル、アイルランドのDEIミュージカル制作に7万ドル、コロンビアでのトランスジェンダーのオペラに4万7000ドル、ペルーでのトランスジェンダー漫画に3万2000ドル使ってきた」→「事実に基づかない」「誇張」

ホワイトハウスのキャロライン・レビット報道官の定例記者会見での発言だ。これについてAP通信は、「(発言のうち)ただ一つ、Grupa Izadjiと呼ばれるセルビアの組織への補助金がUSAIDから支払われている。その目的は、セルビアの職場やビジネス・コミュニティで多様性・平等・インクルージョンを進めるものだ。そのほかは、広報文化外交担当の国務次官のオフィスからの支出だ」として、「発言の多くがファクトに基づいていない」と判定している。

The New York Timesもセルビアへの補助は正しいとしながらも、アイルランド、コロンビア、ペルーのケースについてはUSAIDではなく、国務省が拠出しているとして発言は「誇張されている」と判定している。

(編集長追記)

今回はアメリカでのファクトチェックを紹介するにとどめているが、勿論、USAIDをどう評価するかは難しい問題だが、基本的にアメリカの問題であり、国際的な影響を及ぼすとしてもアメリカ政府の判断とそれをアメリカの人々がどう判断するかの問題だとは言えるだろう。その一方で、日本のネットでこの関係で誤った情報が拡散する点は懸念されるところでもある。この点はInFactとしても注視していきたい。

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