
選挙時に選挙カーから身を乗り出して投票を呼び掛ける候補者の姿を目にした人は少なくないだろう。この「箱乗り」についてInFactが参議院選挙時にファクトチェックを行ったところ、各都道府県警への取材から、警察は違法と判断していることがわかっている。それでも、その後も違法ではないかのような言説が繰り返されている。普通に考えて危険な行為であり、地元の警察も違法性を指摘しているのに、だ。なぜなのか?警察を束ねる行政機関である警察庁とのやり取りから誤解が広まる理由が見えてきた。
対象
選挙時に候補者が選挙カーの窓から外に上半身を出して支持を呼び掛けるいわゆる「箱乗り」が違法でないとの言説はなぜ広まるのか。
結論
全国の都道府県警を束ねる警察庁が違法性を呼び掛けるなどの積極的な対応をとっていないためと考えられる。
ファクトチェックの詳細
InFactは2025年の参議院選挙時に、候補者が選挙カーの窓から上半身を出して両腕を突き出すなどして投票を呼び掛けるいわゆる「箱乗り」について、違法性が無いとの指摘が出ている点をファクトチェック。各都道府県警への取材から、こうした行為は道路交通法違反の疑いが有ることを記事化した。
しかし、この件についてはその後もテレビ朝日の朝の情報番組「モーニングショー」で「違法とは限りません」といった誤った内容が伝えられるなど、選挙期間中に限っては問題が無いといった理解が広がっている。このため、全国の都道府県警を束ねる警察機構のトップである警察庁に見解を問うた。具体的には9月29日に以下について質問した。
- 選挙期間中の「箱乗り」については基本的に道路交通法に違反するという理解で良いでしょうか。
- 警察庁としての見解を都道府県警察本部に通知したことは有るでしょうか?
- 仮に有る場合は、その内容について開示して頂きたいのですが可能でしょうか?
対応したのは警察庁交通企画課。次の回答があった。

因みに「暴走族ばりに身を乗り出しての「箱乗り」アピール行為」は朝日新聞の記事から借用して質問に書き込んだもので、その記事では警察庁は違法性を指摘している。ただし、回答では、道路交通法に違反する可能性が有るがあくまでも個別具体的に判断する必要があると言う説明だ。
運転席、座席ともにベルトの着用についてはその義務が免除されるということだが、これは即ち車外に身を乗り出す「箱乗り」を免除したものではない。この点を誤解して「箱乗り」を問題無しとした例の一つが、前述の「モーニングショー」だと考えられる。シートベルトの免除は「箱乗り」を免除したものではないということだ。
ただし、警察庁の回答は明確さに欠ける点が否めない。このため、単刀直入に、「箱乗り」での検挙実績の有無について追加で質問を出した。質問は10月16日に警察庁に送った。以下の2点を問うた。
- これまでに各都道府県警で上記「箱乗り」に関して検挙した件は有りますでしょうか?
- 検挙の例が有るのであれば、その都道府県警別の件数を教えていただけないでしょうか?
これに対する回答が以下だ。

「統計はありません。」とは、検挙事例が無いということではなく、いわゆる選挙時の「箱乗り」に特化した検挙件数を数値としてとっていないというのが警察庁の説明だった。
実は「統計はありません。」についての警察庁とのやり取りで、「「箱乗り」で検挙された事例は実際にはどのくらい有ると考えられるか?」とのやり取りがあった。明言はしなかったが、恐らく検挙実績は無いか極めて少数だろうというのが取材を通じてのInFactの感触だ。そこには、「箱乗り」で大きな事故が報告されていないといった状況も影響しているのかもしれない。
しかし、走行中の車から身を乗り出すといったことが常識的に考えて危険な行為であることは間違いない。InFactが確認している限り、各都道府県警はいわゆる「箱乗り」について道交法違反の疑いが強いとしている。他方、残念ながら警察機構のトップである警察庁から違反に対する毅然とした姿勢を見ることはできなかった。
警察は選挙への介入を極力避けようとする。その姿勢は必ずしも悪いものではない。しかし、交通事故につながりかねない行為に対しては事前の周知も含めて積極的な働きかけが有るべきだろう。推測の範囲を出ないが、こうした警察庁の対応が選挙時の「箱乗り」は違法ではないといった誤った理解の広まりに影響していると言えるだろう。
事故が起きてからでは遅すぎる。警察庁が警視庁及び全国の道府県警本部に通知を出すなどして積極的に違法性を周知する必要が有る。
(立岩陽一郎)

