
沖縄県の辺野古の海を埋め立てて進められているアメリカ軍普天間基地の代替施設について、中道改革連合は、「(辺野古移設を)中止するのは現実的ではない」として容認する姿勢を示した。その後の批判の高まりを受けて態度を保留する形となっているが、この点を問われた野田共同代表は党首討論で「現実的に対応していきたい」と答えており、辺野古の新基地建設が現実的かどうかが問われている。そこでその点を、安全保障の専門家の指摘を踏まえてファクトチェックした。
対象言説 「(辺野古移設を)ストップするかというと現実的ではない」
立憲民主党・安住淳幹事長の「中道改革連合」の綱領発表記者会見(1月19日)での発言。アメリカ軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古の建設について考え方を問われ、「ストップするかというと現実的ではない」と述べた。
その後、同党沖縄県連が抗議を行うなどしたために態度を保留した形となっているが、野田共同代表は日本記者クラブ主催の党首討論でその対応を問われ、「日米同盟は安全保障の基軸であるということは、揺るがせにできませんので、この点は総合的に踏まえて現実的に対応していきたいというふうに考えています」と述べ、沖縄県民の意向を踏まえつつも「現実的に対応」するとの考えを強調している。
このため、あらためて「(辺野古移設を)ストップするかというと現実的ではない」について、「基軸である」とする日米安全保障の観点から検討する。
結論
過去に普天間基地の移設を主導した日米の軍事専門家が、中国軍の対地攻撃能力の向上などから沖縄一か所にアメリカ軍施設を集中させるよりもローテーションで分散させる案を示している。そこでの議論は、辺野古移設を求めていない。つまり、辺野古に建設している新基地は既にアメリカ軍の求めている機能を有していないとも考えられ、安全保障上の観点から見て必ずしも建設継続が現実的とは言い切れない。
ファクトチェックの詳細
普天間航空基地とは
普天間基地はアメリカ海兵隊が使用する飛行場で、約19平方キロメートルの面積の宜野湾市の中央部分を、4.5平方キロメートルにわたって占めている。その周辺に住宅地、学校、病院などがあり、ラムズフェルド国防長官(当時)が視察した際に、世界で最も危険な⾶⾏場だと語ったとされる。
また宜野湾市が那覇市のベッドタウンであることから沖縄県側からの基地の撤去と土地の返還を求める要望が以前から強く、2015年の米兵による少女暴行事件などを受けて沖縄県で日米両政府への反発が強まった際に、沖縄県の要請を受ける形で翌2016年4⽉に返還が日米両政府で合意される。

(沖縄県の資料から)
当時の大田昌秀知事は返還が沖縄県内での代替地への移設であることに反対。その後、仲井真弘多氏も辺野古移設に反対して知事に当選。しかし仲井真知事は就任後に辺野古移設を容認する方針を表明。このため翁長雄志氏が辺野古移設への反対の立場から知事選に出て当選。翁長知事の死去にともなって行われた県知事選挙でも、辺野古移設に反対した玉城デニー氏が当選。また、2019年に行われた県民投票でも辺野古移設に反対する意見が多数を占めた。
この間、アメリカ軍は普天間基地の利用を継続。近隣の沖縄国際大学にヘリコプター墜落した他、滑走路に近い⼩学校に航空機の部品が落下するなどの事故が発生している。
⽇⽶同盟の抑⽌⼒の維持と海兵隊の運用
普天間基地の代替施設について防衛省はこう述べている。
「沖縄は、⽶国本⼟、ハワイなどと⽐較して、東アジアの各地域に近い位置にあると同時に、我が国の周辺諸国との間に⼀定の距離を置いているという利点を有しているなど、安全保障上、極めて重要な位置にある。地理的に重要な位置にある沖縄に、優れた即応性・機動性を持ち、武⼒紛争から⾃然災害に⾄るまで、多種多様な広範な任務に対応可能な⽶海兵隊が駐留することは、わが国のみならず、東アジア地域の平和や安全の確保のために重要な役割を果たしている。このような海兵隊の部隊は、航空、陸上、後⽅⽀援の部隊や司令部機能から構成されている。優れた機動性と即応性を特徴とする海兵隊の運⽤では、これらの部隊や機能が相互に連携し合うことが不可⽋であり、普天間⾶⾏場に駐留する回転翼機が、訓練、演習などにおいて⽇常的に活動をともにする組織の近くに位置するよう、代替施設も沖縄県内に設ける必要がある」

自民党の回答につながる⽇⽶同盟の抑⽌⼒の維持のために沖縄県内に代替施設は必要だとの主張だ。
ところで、⽶海兵隊はその活動の基本を洋上からの出撃としている。その海兵隊の活動を説明すると次の様になる。

アメリカ軍海兵隊の活動の拠点は強襲揚陸艦という航空母艦と同じ機能を持つ戦艦になる。そこに海兵隊員(MEUと呼ばれる海兵遠征部隊)の他、オスプレイなどの航空部隊が揃って作戦行動となる。上記の写真の③の下辺りに、上陸用舟艇LCAC用の出口があり、海兵隊員はオスプレイやヘリコプターに加え、上陸用舟艇で強襲揚陸艦から作戦行動に出る。つまり海兵隊の「一体運用」とは、「陸空」だけではなく「陸海空」の一体を指す。海兵隊の活動の拠点が強襲揚陸艦という点は重要だ。ところで、強襲揚陸艦や支援艦は長崎県佐世保に常駐しており、沖縄に常駐しているわけではない。このため、沖縄の海兵隊が作戦行動や演習に出る際には、強襲揚陸艦が佐世保から沖縄に来て勝連町にある米海軍ホワイトビーチ基地に停泊して部隊、物資をのせて出る形をとっている。このため、防衛省の「一体運用」の説明は一面的なものと言える。また、強襲揚陸艦から飛び立ったオスプレイは沖縄中部にあるキャンプ・ハンセン海兵隊基地で離着陸を繰り返している。後述する軍事アナリストの小川和久氏の指摘もその事実を受けたものと考えられる。
沖縄県の主張
沖縄県の主張も見ておきたい。2020年3月にまとめられた「在沖米軍基地の整理・縮小についての提言」で次の様に記している。
「沖縄間は国土面積の0.6%であるにもかかわらず、日本における米軍占有施設面積の約7割が存在する。その中で新たな基地が建設されることは、過重な基地負担や基地負担の格差を固定化することになりかねない」

「新たな基地が建設される」とは辺野古の沖合を埋め立てて滑走路を造る「辺野古移設」のことを指している。これについて政府はキャンプ・シュワブ海兵隊基地の沖合展開であり「新たな基地」ではないとしているが、大規模な工事によって新たな施設が誕生するという事実は変わらない。
提言は、その建設の問題も指摘している。先ず、建設予定地は「絶滅危惧種262種を含む5300種以上の海洋生物が確認される生物多様性豊かな海域である」こと。また、海底に軟弱地盤が広がっているなどの問題を挙げた上で、国の資料からとして次の様に指摘している。
「今後必要となる地盤改良工事に約5年、その後の埋め立て工事に5年、埋め立て完了後の飛行場施設整備などに3年を要するとされており、新基地建設完成に13年の工期がかかることになる(中略)普天間飛行場周辺住民の危険を長期にわたって放置することになる」
仮に工事が計画通りに進んでも、2033年までは普天間基地の危険性は放置されることになるということだ。
日米の軍事専門家からの指摘
軍事アナリストとして著名な小川和久氏は、普天間基地の返還交渉に当初から関わってきた人物の1人だ。「フテンマ戦記」(文藝春秋社)で交渉の経緯などを詳述している。その中で以下の点を指摘している。
- 当初は嘉手納基地統合案が有ったが、アメリカ軍側から拒否されている。
- 軍事的な観点から、「キャンプ・ハンセン陸上部への移設構想と、沖縄米軍基地に関する沖縄の負担を日本国民全体で等しく分担する構想」を最善策と主張している。加えて小川氏は、辺野古は津波、高潮にも脆弱でリスクが高いことにも言及している。
嘉手納統合案は現在も専門家から出てくるが、小川氏は否定的な見解を示している。これについてはアメリカ軍側の都合に加えて、嘉手納基地を抱える嘉手納町民からも騒音問題が現在よりもさらに深刻になるなどの反発の声が出ているからだ。
一方で、小川氏の挙げている「キャンプ・ハンセン」は前述の海兵隊の実態の運用に沿ったものと言える。勿論、キャンプ・ハンセンには航空基地そのものを設置することはできないため、それについては「日本国全体」、つまり沖縄県外の自衛隊基地及び在日米軍基地に設置するという考えだ。
その「日本国全体」という考え方は、2016年2月に「日米同盟の将来に関する日米安全保障研究会」が「The U.S.-Japan Alliance to 2030: Power and Principle(邦訳「パワーの原則:2030年までの日米同盟」)」で発表した中で示されている。
「長期的には、両国は沖縄に集中する負担を軽減し、日本全国における在日米軍受け入れの責任分担というより前向きな概念へと移行すべく努力しなければならない。政策には、基地の共同利用拡大、部隊の共同配置、MV-22などの沖縄駐留航空機の沖縄外基地へのローテーション配備、二国間訓練機会の増加などが含まれるべきである(in the long-term, the two countries must work hard to reduce the concentrated burden on Okinawa and move towards a more positive concept of sharing responsibility for hosting U.S. forces throughout Japan; policies should include increased joint use of bases, colocation of units, rotational deployment of Okinawa-based aircraft such as MV-22s to bases outside Okinawa, and increased bilateral training opportunities)」
「MV-22」 とはオスプレイのことだ。提言では、オスプレイなどの沖縄県外に所在する自衛隊及び米軍基地にローテーションで展開することを求めている。これは即ち、普天間基地の機能を沖縄県内にとどめるのではなく、県外の自衛隊基地にローテーション配備することで自衛隊との連携を深めることが必要だと指摘している。
このとりまとめにあたったアメリカ側の中心人物はアメリカ海兵隊出身で日米の安全保障に長く関わったリチャード・アーミテージ元国務副長官だ。アーミテージ元長官、小川氏といった沖縄のアメリカ軍基地の状況に精通した日米の2人の軍事専門家が辺野古移設とは異なる提言をしているということだ。
(立岩陽一郎)
編集長追記
この記事は2021年10月に、当時の岸田首相が「⽇⽶同盟の抑⽌⼒の維持と、普天間の危険性の除去を考え合せた時、辺野古移設が唯⼀の解決策です」と国会で答弁し、InFactの取材に対して自民党本部が「唯一の解決策」は事実である旨回答したことからファクトチェックした記事を基にしています。基本的には、当時の記事と同じ内容となっているのは、その当時と現在でも状況は変わらないからです。
実は岸田首相はその後、「辺野古移設を唯一の解決策との考えの下」と言い直しています。「唯一の解決策」は事実だと称すればファクトチェックの対象となるが、「唯一の解決策との考え」は意見、方針であり、ファクトチェックの対象とはなりません。意見はファクトチェックの対象とはならないからです。
そして、「解決策との考え方」が方針である以上、それを変えることは可能です。「現実的ではない」という判断は思考停止でしかないのは、アメリカ軍の戦略に精通し、普天間基地の移設の経緯を知る日米2人の専門家が辺野古移設に事実上、異を唱えているからです。辺野古移設の中止は合理的な判断であり、従って十分に現実的だと言えるでしょう。
その根拠をもう一つ追加しておきます。これは匿名情報に頼るもの故にファクトチェックには馴染まないので「編集長追記」に書いておきます。編集長の友人に、アメリカ国務省に長く務め、沖縄、東京に駐在していた人物がいます。彼が退官後に来日して辺野古の建設現場を視察したというので、「辺野古は普天間基地の代替基地として有効か?」と尋ねてみました。その時の彼の言葉が以下です。
「かつては(It was)そうだ。しかし今は違う(but not anymore)。我々が辺野古を検討した時はまだ中国軍の攻撃能力は高くなかった。しかし今は違う。仮に中国軍が攻撃しようと思えば、辺野古は直ぐに破壊される」
言うまでも無く彼は日米安全保障体制の重要性を主張する人物です。ファクトチェック記事の小川氏にしろ、アーミテージ元長官にしろ、何れも日米安全保障体制を重視する立場であり、そうした立場に立つ専門家が辺野古移設に異を唱えている点は軽視すべきではないでしょう。勿論、「現実的ではない」には、政治的、経済的といった他の要素も有るのかもしれません。しかし、少なくとも政府は普天間基地の代替案をめぐる議論について、日本及び日米の安全保障を議論の中心に置いていた筈です。
ここで編集長自身の恥ずかしい話を書かなくてはいけません。1996年、NHK記者として沖縄で番組を制作していた時、政治部記者がもちこんだ資料によって番組は、普天間基地は返還され得ないという趣旨の『クローズアップ現代』となりました。その資料は、普天間基地の滑走路の厚みの重要性を指摘した当時の日本の防衛当局の内部資料でした。重量のある戦車を載せた大型輸送機が離着陸を行える海兵隊の空港が必要だという内容で、政治部記者はその資料に基づいて日本政府の見解を強調しました。先に触れたアメリカ国務省の友人は「普天間が必要なのではなく、普天間の機能が必要」と話しており編集長には違和感のある指摘でしたが、番組は政治部記者がもちこんだ内部資料を基に放送されました。そして、その放送翌日、当時の橋本首相とモンデール駐日米大使とが会見を開き、普天間基地の返還を発表しています。つまり完全な誤報番組を流してしまったわけです。
ここでは、その誤報の経緯ではなく、その誤報の根拠となった”重量のある戦車を載せた大型輸送機が離着陸を行える”という説明にあらためて注目したいと思います。これが虚偽だというなら極めて悪質な政府の情報戦ということになりますが(勿論、その可能性は否定できませんが)、仮にそうした説明がアメリカ軍からなされていたならば、辺野古の新基地は普天間基地の代替施設とはなりません。そもそもが地盤の脆弱な場所に作られる施設だからです。滑走路の厚さは明らかではありませんが、普天間基地のような厚みが有るとは構造上、考えられません。編集長追記でこの恥ずかしい過去に敢えて触れたのは、今一度、冷静な議論が必要だと考えるからです。
野田共同代表は党首討論で「沖縄の皆様の声には真摯に耳を傾けなければいけない」とも言っています。もっともな話ですが、既に住民投票で示された民意は辺野古移設にNOを突きつけています。それを踏まえても、政治はけして思考停止すべきではないでしょう。
この記事は琉球新報の記事と連携したファクトチェックの取り組みで書かれています。関連する琉球新報の記事は琉球新報デジタルサイトで読めます。

