
NHK の役員に4人もの韓国人がおり、彼らにNHKは牛耳られている等とする言説がネット上で拡散している。しかし日本の法律では日本人以外が放送業務を行うことは認められておらず、NHKの理事に日本人以外が就任している事実はない。
検証対象 「NHKに4人の韓国人役員」がいる。
Xの投稿(2025年10月27日)で、「「NHK には1500人以上の大陸系人が入局。4人の韓国人役員も・朝鮮大卒共産党員が100人以上。彼らにNHKは牛耳られて乗っ取られ状態」だそうです」としている。この投稿は、2025年12月3日現在で300万近く表示され、3万以上の「いいね」、1万以上のリポストを記録している。
結論
日本では日本人以外が放送事業を運営することは法律で禁じられている。NHKもこの検証対象の言説を否定しているが、NHKが否定するまでもなく、NHKの役員に韓国人がなることはできない。
ファクトチェックの詳細
x上の検証対象の言説は以下の複数の内容からなる。
・NHK には1500人以上の大陸系人が入局。
・4人の韓国人役員も。
・朝鮮大卒共産党員が100人以上。
その結果として、「彼らにNHKは牛耳られて乗っ取られ状態」という指摘だ。「彼ら」とは「大陸系」、「韓国人」、「朝鮮大卒共産党員」ということで、韓国・朝鮮人かそこにルーツを持つ在日コリアンによってNHKが牛耳られていると指摘したものと考えられる。
これらすべてについてファクトチェックをする必要があるが、全てを調べ終えるには時間がかかるので、先ずはNHKの放送内容に最も大きな影響力を持つ「役員」に絞って検証した。
「役員」とは、NHKにおいては会長、副会長及び理事ということになる。これは放送法に定められた役職で51条で以下のように定められている。
第五十一条 会長は、協会を代表し、経営委員会の定めるところに従い、その業務を総理する。
2 副会長は、会長の定めるところにより、協会を代表し、会長を補佐して協会の業務を掌理し、会長に事故があるときはその職務を代行し、会長が欠員のときはその職務を行う。
3 理事は、会長の定めるところにより、協会を代表し、会長及び副会長を補佐して協会の業務を掌理し、会長及び副会長に事故があるときはその職務を代行し、会長及び副会長が欠員のときはその職務を行う。
現在の役員を見てみよう。NHKの公表によると、会長が日本銀行出身の稲葉延雄氏、副会長はNHK政治部記者出身の井上樹彦氏。そして会長、副会長を補佐する役割として専務理事が3人、理事が7人となっている。専務理事、理事は何れもNHKの生え抜き職員だ。人数は会長、副会長を入れて計12人となっている。因みに前記の放送法には理事の人数について「7人以上10人以内」としており、法律に則った配置と言える。
先ず、検証対象についてNHKに質問を出した。以下がNHKの回答だ。

会長、副会長、理事の全てが日本国籍を有していると回答しており、検討対象となった言説を明確に否定している。また、電波法及び放送法で、外国人が役員である法人や団体にはそもそも放送免許が与えられないと明言している。与えられない以上、仮に検証対象の言説が事実なら、NHKは放送できない状況に追い込まれている筈だ。つまり、検討対象の言説は全くの誤りとの説明だ。
勿論、NHKが否定したから検証対象が間違いとはならない。では、放送に関する法律を詳しく見てみよう。先ず電波法だ。これは1950年に制定されたテレビ放送、ラジオ放送を含む電波に関する規正法であり、これに違反して放送業務を行うことはできない。そこの第5条に「欠格事由」として以下のように定めている。
第五条 次の各号のいずれかに該当する者には、無線局の免許を与えない。
一 日本の国籍を有しない人
二 外国政府又はその代表者
三 外国の法人又は団体
四 法人又は団体であつて、前三号に掲げる者がその代表者であるもの又はこれらの者がその役員の三分の一以上若しくは議決権の三分の一以上を占めるもの
これに加えて、同じく1950年に制定された放送法でも93条などで「日本の国籍を有しない人」「外国政府又はその代表者」「外国の法人又は団体」は基幹放送事業はできないとされており、NHKもその適用を受ける。
つまりNHKの説明通り、そもそもNHKに限らず日本で放送事業を行う場合、その事業の経営陣は日本人でなければならないというのが日本の法律だ。そうすることで社会に大きな影響を及ぼす放送業務が外国の影響下に入らないよう制度が作られている。これは経営陣というだけではない。例えば民放(民間放送)は株式会社故に大株主は放送事業に少なからず影響を与えることが可能だが、それについても議決権を有した株式については外国人の取得は全体の20%未満に制限されている。
つまり放送に外国の影響が及ぶことの無いよう、様々な規制が行われている。また、その規制の状況については電波法を所管する総務省のみならず、国会の総務委員会が監視する仕組みとなっている。
その是非はともかく、少なくともNHKも民放も外国の影響下に置かれるような状況が生まれないよう制度の設計がなされている上、それについて行政と立法による監視が行われており、NHKの役員に外国人が就任するという状況は、韓国人以外も含めて、現在は勿論、過去においても起きていないということだ。因みに、終戦直後でアメリカ政府の影響力が極めて強かったGHQ(連合国総司令部)の占領下(1945年8月~1952年4月)であっても、NHKの役員、つまり会長、副会長及び理事にアメリカ人及び外国人はなっていない。
(立岩陽一郎)
(編集長追記)
NHKは100年前の1925年に政府主導で発足した社団法人日本放送協会を源流とし、戦後の1950年に特殊法人日本放送協会に改組されて現在に至っています。その間、常に日本社会の公益という観点から放送事業を行っており、その点について批判的に検証する必要は有ります。巨大で影響力の強いNHKは常に批判的に検証されなければならないからです。しかし、その批判は事実に基づいて行うべきで、誤った情報に基づいた批判は意味をなさない以上に有害だと考えます。この検証対象の発信者の方には発信内容の根拠を問い合わせていますが、2025年12月3日現在で返信は有りません。返信が有り次第、その内容を記事に反映させたいと考えています。
(立岩陽一郎)

