◇「被害者の声に耳を傾けて」支援の医師
韓国のサムスン電子の半導体工場で働く従業員に白血病などの健康被害を訴えるケースが相次いでいる事件を追ったシリーズ。被害者の救済に乗り出した医師らは、「これは氷山の一角だ」と話した。
白い作業服を着用したキフン工場の従業員(パノリム提供)
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工場見学は興味深いものだったが、すでに内部の環境はファン・ユミが働いていた当時から大きく変わっていると、父親のファン・サンギから聞いていた。彼もファン・ユミの死後、工場の見学を許されている。しかし、娘から聞かされていた工程は、もうその時点でなくなっていたという。
私が見たときも、すべての洗浄作業が自動化されていた。ウェハーと呼ばれる基盤の束を従業員が直接洗浄することはなく、完全密閉型の大型の洗浄機械に入れてスイッチを押すだけだった。
「洗浄のための化学物質に従業員が暴露する可能性はないんですか?」
と尋ねると、案内してくれた担当者がすかさず答えた。
「まったくありません。万が一、漏れた場合のために検知器も設置されています。しかし、検知器が作動したことはありません」
ガラス窓から、洗浄の現場の様子は確認できた。大きな機械の中で、かつてファン・ユミが抱えて洗浄剤に浸けていたウェハーが、人の手を借りずに洗浄されていた。作業服に身を包んだ従業員は、今、運ばれてくるウェハーを機械に入れるのが仕事だという。そして機械の中の様子をチェックする。
そんな説明をしながら、担当者は何度も「従業員が化学物質に暴露する恐れはありません」と繰り返した。それが何を意味するのかを考えるうちに、やがて私の気持ちは沈んでいった。ファン・ユミが、本来なら絶対に暴露してはいけない危険な化学物質にさらされていたことが、彼の度重なる説明から図らずも確認できたように思えたのだ。