トランプ大統領がゴーサッチ判事の任命を勝ち取る必要が有るのは、その先を見据えているからだと米司法関係者は見ている。終身制の最高裁判事だが、高齢を理由に辞意を表明する判事が数人いると見られているからだ。その1人が、80歳のアンソニー・ケネディ判事。ケネディ判事は1987年に当時のレーガン大統領に任命されたが、その是々非々の判断が今はリベラル派の4人の1人として数えられている。
指名されたゴーサッチ判事はハーバード大学のロースクールを出てオクスフォード大学に留学。トランプ大統領は、「本人が望めばビジネス界で巨万の富を得る道を得られたにもかかわらず、裁判官として公職に就くことを決断」と強調。実際、テレビを通じて流されたゴーサッチ判事の話しぶりは、49歳という若さに似合わず落ち着いており多くの人に信頼感を与えるものだったと評価されている。
トランプ大統領は、裁判所経験の豊富な優秀な若手を指名することで、ケネディ判事が引退を検討しやすい環境作りを狙ったと見られている。
●「絶対的安定多数」で保守の心を掴む
そして、そのケネディ判事の後任こそが、トランプ大統領の最大の勝負になる。仮にその時に保守派の判事が任命されれば、9人のうち6人までを保守派の判事が占める「絶対的安定多数」となるからだ。
トランプ大統領自身は実は思想的には保守でもリベラルでもないと指摘されているが、支持層である保守派の思いに応える必要がある。特に、最高裁が示した同性婚の合憲、中絶を女性の権利とした判断などを取り消すことは保守派の悲願とされている。それを実現することで、大統領としての求心力を維持できれば低い支持率でも2期目を狙えるということになる。
●トランプ大統領の誤算
最高裁を長く取材してきたワシントンの新聞記者は次の様に話す。
「ゴーサッチ判事は過去に、『法律は幅広い支持を得た宗教的な信条を守るためだけにあるわけではない。それよりも、実は宗教的に広く支持を得ていない信条をこそ守るために存在している』などと語っており、実は、ガチガチの保守とは一線を画した判事とも言われている。それだけにトランプ大統領はゴーサッチ判事の承認はさほど問題なく、しかもそれはケネディ判事にもアピールできる最高裁人事だと考えた筈だ」。
しかし、と記者は続けた。
「トランプ大統領にとって誤算は、イスラム諸国からの入国を制限した大統領令への強い反発だ。これが民主党に反対する正当性を与えてしまった。判事の承認は、上院の過半数(51)では駄目で、60人が必要だ。共和党だけでは承認にはいたらない。トランプ大統領の指示通りに共和党が動いたら、その段階で収拾のつかない混乱が生じる恐れもある」。
※Do nuclearの説明は後に加筆しました。