トランプ大統領によるシリア空爆という結果を受けて、トランプ政権が従来の主張を覆して「世界の警察官」になるのではないかといった主張が起きているようだ。北朝鮮を攻撃するのではないかとの憶測を流布する識者も後を絶たない。
しかし、この政権の本質は国内政治優先でしかない。シリア空爆も、国内政治の延長だった。アイアジアの編集長がMBS「報道するラジオ」で語った内容を掲載。
まず、今回のシリア空爆とは何だったのか?地中海に展開する米艦船から発射された巡航ミサイルトマホーク59発がシリア北部の空軍基地に向けて発射されたというものだ。その結果については米ロ、シリア各国によって異なるが、1つ共通していることは、この空爆がロシア軍を狙ったものでもなければシリア軍を狙ったものでもないという点だ。
ホワイトハウスはロシア政府に事前通告していることを明らかにしているし、それはロシア政府からシリアのアサド政権に伝わることも織り込み済みだ。なぜか?空爆の目的が化学兵器の貯蔵施設とその利用に供される軍用機及びその関連施設を破壊するというものだったからだ。重ねて書くが、それ以上のものを狙ったものではないからだ。
もう1つ重要な点は、巡航ミサイルを使ったという点だ。これは、当初、米軍から提示された案の中で、最も関与度の薄い作戦だと言われている。直接、米軍兵士がシリアの領土、領空内で活動するものではないからだ。つまり、米政府の関与は極めて限定的なものだったということは明らかだ。
今回の空爆を機会にトランプ政権が従来の、「米国一国主義」路線を変更して、「世界の警察官」としての政策を進めるのかとの観測がある。それは、これまで「米国一国主義」を主張し政権内で圧倒的な存在感を示してきたステファン・バノン主席戦略官が国家安全保障会議の主要メンバーから外されたことで、説得力をもって語られる。
しかし、今回の空爆はこの転換を裏付けるものとはなっていない。
それ以上に、トランプ大統領の今回の判断は、国内の保守派の支持を狙った可能性の方が高い。空爆の翌日には、上院での最高裁判事の承認手続きが控えていた。大統領令、医療制度改革と政策が頓挫する中で、保守派の判事を最高裁に送るというこの承認手続きが止まれば、トランプ大統領は完全に孤立する可能性があった。
空爆の前はトランプ大統領と身内の筈の共和党との関係は極めてぎくしゃくしたものだった。それが空爆によってがらりと変わったことは間違いない。
因果関係を語れる材料はないが、結果的にはシリア空爆を支持する共和党の結束が実って大統領が指名したゴーサッチ判事が最高裁判事に承認されている。ゴーサッチは49歳と若く、今後数十年間にわたって最高裁判事の地位に就く。「ゴーサッチ判事を最高裁判事にしたことで、トランプ大統領は支持者の思いに半分は応えたことになる」という話もある。
ここに来て米ロ関係がキューバ危機以来の最悪の状況になっているとの見方も出ているが、その辺についてトランプ大統領が冷静に見極めているかは全くわからない。
これまでロシアとの関係改善を主張してきたトランプ大統領だが、「ロシアゲート」という名称までささやかれるほどロシアとトランプ陣営との関係がスキャンダル化する中で、トランプ大統領としては、ロシアと距離を置かざるを得ない状況に追い込まれているからだ。
ロシアとの関係が悪化すればするほど、トランプ大統領の国内での共和党の支持は得やすい。つまり、トランプ大統領は、ロシアとの間に一定の緊張関係を持たなければ、身内が離れていくというジレンマを抱えているからだ。
しかし、それがロシアの今後の出方を冷静に見極めての判断かというと、そこが明確ではない。
MBS「報道するラジオ」で内藤教授が、極めて精緻な分析を行っている。ただ、その分析は過去の外交政策の変遷や地政学に依拠して行われている。トランプ政権がそうした精緻な分析に耐えるような判断をしているのかが疑問だ。
残念ながら、トランプ政権について考えるとき、首都ワシントンで言われていることを繰り返すしかないのだ。
「この政権で確実なことが一つだけある。それは、何一つ確実でないことだ」