Metaがファクトチェック団体によるFacebookなどでの情報の検証について廃止するとしたことが少なからぬ衝撃を世界に与えている。日本経済新聞が社説で「メタのファクトチェック廃止は問題だ」と報じるなど日本の主要メディアも批判的に報じている。国際的なファクトチェック団体であるIFCNは抗議の書簡を公表した。IFCNに加盟するInFactもその書簡に署名した。しかし、Metaの今回の措置については冷静に受け止めるべきと考えている。その点、InFactの姿勢を明らかにしておきたい。(立岩陽一郎)
「絶え間なく進化する誤情報の問題は、Meta一社だけで対処できるものではありません。Metaでは、一次情報源へのインタビュー、公開データの調査、写真や動画を含むメディアの分析といった独自のレポートによって記事の正確性を審査、評価するよう独立したファクトチェッカーに依頼しています。ファクトチェッカーがMetaのプラットフォーム上のコンテンツを虚偽と判定した際には、必ず閲覧者が少なくなるようにそのコンテンツの配信を大幅に減らし、ラベルを付けて、シェアしようとする人に通知しています。ファクトチェッカーがMetaのアプリケーションからコンテンツ、アカウント、ページを削除することはありません。コンテンツがMetaのコミュニティ規定に違反している場合は、Metaが削除しますが、これはファクトチェックプログラムとは別の取り組みによるものです。」
これは「ファクトチェックに対するMetaのアプローチ」と題された2016年のMetaのアナウンスで、以後、Metaはファクトチェック団体の協力を得て、FacebookやInstagramでの誤情報の排除に努めてきた。「第三者によるファクトチェックプログラム(The third party fact checking program)」と呼ばれ世界でその取り組みが行われてきた。
今回、Metaが廃止するのがこのプログラムだ。2025年1月7日、MetaのCEOマーク・ザッカーバーグ氏がその取り組みをアメリカにおいて廃止することを発表した。発表によると廃止の対象はアメリカのみとなっている。
IFCNはザッカーバーグ氏の判断に抗議する公開書簡を発表した。アメリカのメディアは勿論、日本の主要メディアも批判的な報道を行っている。
少し、このザッカーバーグ氏の発表の内容を見てみたい。彼は動画での発表の中で、第三者ファクトチェックプログラムが「検閲のツール」になってしまったと総括した上で、「特にアメリカにおいては、ファクトチェッカーは政治的に偏向しすぎており、信頼をおとしめるものとなってきた」と指摘した上で、米国におけるファクトチェック団体によるファクトチェックを廃止し、X(旧Twitter)のような「コミュニティノート」システムに置き換えるとした。また、移民やジェンダーなどのトピックに関する特定の制限を撤廃し、コンテンツ・ポリシーを「簡素化」するという。
これに対してIFCNは前述の書簡で、「あなた(ザッカーバーグ氏)のコメントは、ファクトチェッカーが検閲に責任があると示唆しているが、Metaはファクトチェッカーにコンテンツやアカウントを削除する能力や権限を与えたことはない。ネット上の人々はしばしば、Metaの行動のためにファクトチェッカーを非難し、嫌がらせをしてきた。あなたの最近のコメントは、間違いなくそうした認識を助長するだろう。しかし、現実には、ファクトチェッカーが虚偽だと判断したコンテンツにどのようなランクを下げたり、ラベルを貼ったりすべきかは、Metaのスタッフが決めたことなのだ。何年もの間、何人かのファクトチェッカーが、どうすればこのラベリングをより押しつけがましくなく、検閲のようにさえ見えないように改善できるかをメタに提案してきたが、メタはそれらの提案に従うことはなかった。さらにメタは、政治家や政治家候補が既知の虚偽を流した場合でも、予防措置としてファクトチェックの対象から除外している。一方、ファクトチェッカーたちは、政治家も他の人々と同様にファクトチェックを受けるべきだと述べてきた。」としている。
この指摘は冒頭のMetaのプログラム開始時の発表にある「ファクトチェッカーがMetaのアプリケーションからコンテンツ、アカウント、ページを削除することはありません。コンテンツがMetaのコミュニティ規定に違反している場合は、Metaが削除しますが、これはファクトチェックプログラムとは別の取り組みによるものです。」と符合するものだ。
ただし、ファクトチェッカーがこのプログラムで検閲的な行為に関わっていなかったとしても、Metaの検閲活動に組み込まれていた懸念が無かったとは言い切れない。この点は実は見過ごされているが、InFactはこの点については検証が必要だと考えている。
InFactはMetaのプログラムには関わっていない。InFactは主に有力政治家や高位にある公職者の発言、主要メディアの報道をファクトチェックの対象としているからで、このプログラムはその趣旨とは合致していない。仮にMetaのプログラムが継続されても、それに参加を希望することも、参加することも考えていない。
その点を明確にした上で、それでもInFactはIFCNの書簡に署名した。それは、Metaのプログラムそのものへの疑問は維持しつつも、Metaの判断で示されたファクトチェックに対する事実誤認を認めることはできないからだ。また、IFCNの書簡で強調されている「真実へのアクセスは言論の自由を促進し、社会が自らの価値観に沿った選択を行うことを可能にします。ジャーナリストとして、私たちは報道の自由への献身を堅持し、真実の追求が民主主義の礎として存続することを保証します。」もInFactが共有するものだ。
InFactはIFCNのサラエボ声明を支持している。サラエボ声明は、「ファクトチェックは、虚偽であったり、誤解を招いたり、重要な文脈を欠いたりするメッセージを訂正し、明確にするための証拠を提示し、追加情報を提供することを目指すものである。ファクトチェックは、こうしたメッセージを抹消したり消し去ったりすることを目的とするのではなく、公開討論の一環として、その討論に正確に情報を提供するために必要な証拠を提示しながら、それらを維持することを目的としている。」としている。
InFactはMetaのプログラムの有無に拘わらず、Facebookなどを含むネット上で拡散する誤った情報についてファクトチェックを続けていく。それは世界中のファクトチェッカーが同じだろう。Metaがどう判断しようとも、ファクトチェックの取り組みを廃止することはできない。