
ファクトチェックは対象となる発信者に対して厳しい指摘をするところが社会の分断を招いているとの指摘がある。このため、インファクトは2025年から対象者を弾劾するかのような指摘を避けるやさしいファクトチェックの実践を試みている。それは「虚偽」「誤り」「ミスリード」といったレーティングを極力避けるところから始まっているのだが、このレーティングは海外のファクトチェック・メディアが使っているものを日本に導入したものだ。実際に海外では現在、レーティングはどのように使われているのか調べた。
ファクトチェックの始祖とも言えるアメリカのケースを見てみたい。アメリカではファクトチェック・メディア以外でもテレビ、新聞などの主要メディアもファクトチェックに取り組んでいるが、ここではファクトチェック・メディアをとり上げる。
PolitiFact(ポリティファクト)
アメリカの代表的なファクトチェック・メディアがポリティファクトだ。主に政治家の発言をファクトチェックしている。このメディアでは以下のレーティングが使われている。日本でファクトチェックのレーティングをまとめたFIJは主にこのポリティファクトのレーティングを参考にしている。
「True(正しい)」
「Mostly True(ほとんど正しい)」
「Half True(半分正しい)」
「Mostly False(ほとんど誤り)」
「False(誤り)」
「Pants On Fire(虚偽)」
以下の説明が公式サイトに書かれている。PolitiFact | The Principles of the Truth-O-Meter: PolitiFact’s methodology for independent fact-checking

1994年からファクトチェックを実践しているSnopes(スノープス)も見てみたい。
Snopes(スノープス)
Snopesのレーティングは20に分かれている。
以下はそのレーティングとなる。Fact Check Ratings | Snopes.com
「Research in Progress(調査中)」
「True(正しい)」
「Mostly True(ほとんど正しい)」
「Mixture(混在)」
「Mostly False(ほとんど誤り)」
「False(誤り)」
「Unproven(証明されず)」
「Unfounded(根拠なし)」
「Outdated(時代遅れ)」
「Miscaptioned(ミスリードな写真や動画の説明)」
「Correct Attribution(適切な出所)
「Incorrect Attribution(間違った出所)」
「Legend(言い伝え)」
「Scam(詐欺まがいの内容)」
「Legit(本物)」
「Labeled Satire(風刺とされるもの)」
「Originated as Satire(もともとは風刺)」
「Recall(正規品の回収通告)」
「Lost Legends(失われた言い伝え)」
「Fake(巧みに処理された写真や動画)」
例えば「Research in Progress(調査中)」とは、まだ調べている途中で公開するまでの結果に達していない記事のことだ。



一方で、レーティングを使わないファクトチェック・メディアもある。FactCheck.orgだ。このファクトチェックメディアも創設は2003年と比較的古い。
FactCheck.org(ファクトチェック・ドットオルグ)
この団体は、公式サイトで対象言説や取材方法など記事の作成過程について提示しているがレーティングとその基準については提示していない。ただ取材過程で対象言説が正しいことが判れば、その記事は取りやめるとしている。記事にするのはあくまで「False」あるいは「Misleading」に当たる内容だとしている。
FactCheck.orgの記事の特徴は、他と違って判定結果を前面に出していないところだ。インファクトもそうだが、普通は「対象言説」と「判定結果」を明確に打ち出してから、本文で「詳細」について書くのが一般的だ。しかしFactCheck.orgは違う。結論部分を最初に入れてはいるものの、項目として分けずに全体が一つの文章となっている。それはある意味、テレビや新聞のニュースに代表される従来の書き方と似ている。以下、2つの例を挙げてみる。
【4月15日付けの記事】
Trump uses questionable figures for US plants and factories lost since NAFTA (トランプ大統領は、北米自由貿易協定が発効して以来、廃業となった「工場」について、疑わしい数字を使っている)という記事を見てみよう。Trump Uses Questionable Figure for U.S. ‘Plants and Factories’ Lost Since NAFTA – FactCheck.org

結論部分は以下のようになるが、独立した文章ではなく、全体の一文として書かれている。
But that figure is questionable, and experts say other factors, such as automation, had more to do with the large decline in U.S. manufacturing jobs than trade.
しかし(9万という)数字は怪しく、アメリカの製造業の雇用が大きく減ったのは、貿易よりも例えば自動化のような他の要素の方が関係していると専門家は言っている。
【3月27日付の記事】
Was the Signal chat illegal? (民間の通信アプリSignalを使ったチャットは違法か?)
という記事についても見てみよう。この問題は、トランプ政権の安全保障メンバーらが、中東のイエメンの反政府勢力への軍事作戦について、民間の通信アプリを使ってやりとりしていたもので、軍事情報の管理のあり方が問題視されている。Was the Signal Chat Illegal? – FactCheck.org

こちらの記事も結論部分は独立しておらず、全体の一文として初めの方に書かれている。
Legal experts on national security issues say Democrats may have a point, that a case could be made that the chat violated a provision of the Espionage Act. But they say it is highly unlikely such a prosecution would be initiated by the Trump administration against one of its own.
安全保障に関する法律の専門家たちは、このチャットがスパイ活動法の規定に反するとして訴えが起こされる可能性があるという点で民主党は的を得ていると言う。しかしながら、トランプ政権が仲間内に対する起訴に踏み切る可能性は極めて低いと言う。
(清水竜太郎)