若い世代の政治参加を促す活動を行う団体・「NO YOUTH NO JAPAN」が、「同意なく『眠っている又は意識なし』の人と性行為をした場合でも犯罪にならない」ため、「不同意性交等罪」の創設が必要と主張する画像を投稿した。しかし、相手が「眠っている又は意識がない」ことに乗じて性行為を行った場合には、準強制性交等罪が成立する。そのため、犯罪が成立しないとする同団体の主張は誤りだ(田島輔、伊藤友登)<追記あり>
チェック対象
今の法律では、「同意をしていなくても 激しく抵抗できないほどの暴行・脅迫の証明が必要」であり、「眠っている又は意識なし」の人との性行為は犯罪にならない
(NO YOUTH NO JAPAN、2021年3月1日投稿)
【誤り】「眠っている又は意識なし」の人は「抗拒不能又は心神喪失」にあたり、同意なく性交すれば準強制性交等罪(刑法第178条第2項)に該当するため、犯罪が成立する
「不同意性交等罪」とは?
現在、法務省に「 性犯罪に関する刑事法検討会 」が設置され、性犯罪を罰する刑法の規定が実情に合っているかが審議されている。検討会における議題の一つが、 同意のない性行為を犯罪とする「不同意性交等罪」の創設だ。
「不同意性交等罪」の創設が議論されるきっかけの一つとなったのは、2019年3月に名古屋地方裁判所岡崎支部が下した無罪判決だ。
この事件では、実の娘に性的暴行を繰り返した父親が準強制性交等罪に問われたが、裁判所は被害者の「同意」がなかったことは認めつつも、準強制性交等罪成立の要件である「抗拒不能」だったとは断定できないとして、父親を無罪とした(ただし、二審では罪の成立が認められ、2020年11月に最高裁で有罪が確定している。)。
この無罪判決のように、性行為時に相手の同意がないだけでは犯罪が成立しない場合があることから、犯罪成立の要件から「抗拒不能」等の要件をなくし、同意がなく性交した時点で犯罪が成立する「不同意性交等罪」の創設を求める声が広がり、それが前掲の検討会で議論されている。対象言説は、その検討会での議論について発信したものだ。
「準強制性交等罪」とは?
では、 「抗拒不能」などが犯罪成立の要件となっている「準強制性交等罪」 とは、どのような犯罪なのだろうか。
「準強制性交等罪」の内容は、「 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は 」5年以上の有期懲役に処する(刑法第178条第2項)というものだ。
そして、「性犯罪に関する刑事法検討会」に提出された資料において、「心神喪失」とは「精神的な障害によって判断力を失った状態」、「抗拒不能」とは「心理的又は物理的に抵抗が出来ない状態」と定義されている。
「心神喪失・抗拒不能」の具体例
それでは、裁判においては、具体的にどのような場合が「心神喪失・抗拒不能」に該当すると判断されたのだろうか。
「性犯罪に関する刑事法検討会」 に提出された資料の中で、心神喪失又は抗拒不能の認定例として取り上げられているの事例は以下のとおりだ。
表にある通り、心神喪失又は抗拒不能の認定例として、「熟睡」・「飲酒による熟睡」・「薬物の作用による熟睡」が挙げられている。すなわち、「眠っている又は意識なし」の場合には、「心神喪失又は抗拒不能」にあると考えられることから、相手の同意なく性交等を行えば、準強制性交等罪が成立するということだ。
強制性交等罪についての記載も誤り
また、 「NO YOUTH NO JAPAN」 が投稿した別の画像には、強制性交等罪について、「激しい抵抗がないと犯罪とは認められない」と記載されている。
しかし、強制性交等罪において、被害者が激しい抵抗をしたことそれ自体は犯罪成立の要件ではない。
整理しよう。
強制性交等罪の内容は「 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。 」というものだが、犯罪成立の要件は、加害者の「暴行・脅迫」が、被害者の反抗を著しく困難にする程度のものであることであり、実際に被害者が激しい抵抗を行ったことではない(参考)。
さらに、「性犯罪に関する刑事法検討会」 に提出された資料の中でも、「実務においては,かなり広く暴行・脅迫を認めているのが現状であり,また,暴行・脅迫はなくても抵抗できなかった事案については,抗拒不能として準強姦の成立を認めている」と報告されていることから、「激しい抵抗がないと犯罪とは認められない」とは言えない。
したがって、「激しい抵抗がないと犯罪とは認められない」との記載内容も誤っている。
ただし、不同意性交等罪の創設を求める団体が主張する通り、裁判の中で結果的に、反抗を著しく困難にする程度の「暴行・脅迫」が立証できなかったことから、強制性交等罪の成立が否定されたケースは存在すると考えられ、現在の法律で全ての性暴力を罪に問うことが出来ているとは言えないだろう。
また、若者の政治参加を促すというこの団体の取り組みは高く評価されるべきだと考えるが、情報の発信に正確性が求められることは言うまでも無い。
追記:「NO YOUTH NO JAPAN」が説明のコメントを追加
(追記)5月12日、「NO YOUTH NO JAPAN」は自身のツイッター及びインスタグラムにおいて、チェック対象となった投稿について、「裁判事例などに基づいて解説をしましたが、法律上の文言と一致しない箇所がありました。」とコメントした。
その上で、現在の裁判例では、結果的に準強制性交罪の成立要件である「心神喪失・抗拒不能」が認定されない場合があることから、「眠っている又は意識がない状態の性暴力でも裁かれるにはハードルが高い」、「現在の法律で裁かれる例が限定的である」という問題提起をするための投稿である旨、説明している。
結論
対象言説は、犯罪成立のためには「眠っている又は意識なし」の場合の性行為では犯罪は成立しないと主張しているが、実際には「眠っている又は意識なし」の場合に性行為を行えば「準強制性交等罪」が成立する。
また、別の画像では「激しい抵抗がないと犯罪とは認められない」と主張しているが、被害者の激しい抵抗の有無は犯罪の成立それ自体には関係がない。
よって、これらの点に関する「NO YOUTH NO JAPAN」の主張内容は「誤り」だ。