3月2日、ファイザー社製のワクチン接種後に60代の日本人女性がくも膜下出血で死亡したことを厚生労働省が発表し(日本での1例目)、このニュースは日本だけでなく世界でも報じられた(朝日新聞、ロイター通信)。
インターネット上では、女性の死亡とワクチン接種を関連付ける投稿が散見され、週刊新潮も「日本人初の死亡者も…」と、あたかもワクチン接種と女性の死亡との間に因果関係があるかのような「見出し」をつけている。
しかし、ワクチン接種とくも膜下出血に因果関係があるかは不明であり、ワクチン接種と女性の死亡を関連付ける言説は根拠不明だ(田島輔、伊藤友登)。
結論
【根拠不明】 厚生労働省の発表では、ファイザー社製ワクチンの接種と女性の死亡との因果関係は評価不能とされている。そのため、ワクチン接種がくも膜下出血の原因であるかのような言説は根拠不明だ。
厚生労働省の報告内容は?
報じられた死亡例は、厚生労働省により3月2日に発表されたものであり、新型コロナワクチン接種後の死亡事例として1例目だ。死亡の原因はくも膜下出血だと推定されているが「詳細は調査中」と注意書きがある。
以下、当該死亡事例に関する、専門家のコメントを抜粋する。
死因として疑われているくも膜下出血は、40~60歳台の方に比較的起こりやすい疾患とされており、今のところ海外における接種事例でも、くも膜下出血と新型コロナワクチンに関連があるとはされていないようである。
偶発的な事例かもしれないが、この症例についても更に情報を収集し、今後の審議会で評価していく必要がある。
(厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会長の森尾友宏氏)
くも膜下出血と考えられるということであるが、そうであれば一般には以前からあった動脈瘤などの破裂が原因となることが多く、こうした年代の方々に生じうる疾患と考えられる。ワクチンとの関連については、海外での治験や接種後の報告でも、新型コロナワクチン接種後にくも膜下出血が増加するとの知見は報告されていない様である。
(薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会長の岡明氏)
なお、3月26日にも、ワクチン接種後に26歳の女性が死亡したことが報じられており(朝日新聞)、こちらの事例でも、死因は小脳出血の脳幹部圧排、くも膜下出血等、脳出血とされている。
しかしながら、厚生労働省の発表では、原因特定のためには、より詳細な情報が必要であって、ワクチン接種と死亡との間の因果関係は評価不能とのことだ(厚生労働省の資料)。
医師の見解は?
また、脳神経外科の柳澤毅医師も、科学に絶対はないことを前提にした上で、以下の理由から「ワクチン接種と女性の死因とされている“くも膜下出血”の関係性は考えにくい」としている。
くも膜下出血の原因の8割以上は脳動脈瘤、つまり頭の中にできた血管のこぶのようなものが破裂すること。ただ、その動脈瘤ができて、破裂に至るまでは通常年単位の年月がかかると言われている。
ワクチンを接種して3日後、それが原因で動脈瘤ができて、さらに破裂までしたということは考えにくい。
(3月4日、ABEMA TIMES、「ワクチン接種後に“くも膜下出血”で死亡報道に米・脳神経外科医が苦言」)
他方で、小児感染症科の紙谷聡医師は、自身のYahoo!ニュース個人の記事の中で、新型コロナワクチンの接種により、くも膜下出血と同じ血管系異常の病気が発症しうる懸念の声があることを紹介している。
新型コロナ感染症と凝固異常・血管系異常、とくに血栓症との関係は以前から指摘されており、こうした自然の感染症で起きることが、ワクチン接種でも起きるのではないかと懸念する声もあります(くも膜下出血とは厳密には異なる病気ですが同じ血管系異常としての懸念かと思います)。
(3月8日、「はたして新型コロナワクチンはくも膜下出血の原因なのか」)
ただし、同記事の中で紙谷医師は、3月1日時点では、ワクチン接種によりくも膜下出血等の出血性の脳卒中は増えていないとアメリカ予防接種会議が判断していることを紹介し、「ひとまずは安心できるといってよい」と結論付けている。
少なくとも、医師の見解としては、現時点において、ファイザー社製ワクチン接種とくも膜下出血との間に因果関係があると評価することは出来ないということだろう。
結論
厚生労働省の発表では、ファイザー社製ワクチンが、くも膜下出血を引き起こしたとの結論には至っていない。また、医師の見解でも、ワクチン接種とくも膜下出血との関係性は考えにくいとしている。
したがって、少なくとも、2021年3月28日現在、ワクチン接種と女性2名の死亡との因果関係は評価不能であり、これらを関連付ける言説は「根拠不明」だ。
(冒頭写真:ファイザー社製のワクチン接種後に日本人女性が死亡したことを報じるニュース、TBS NEWSより)