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[FactCheck] 「閉じ込められたウイグル人の児童」は誤り 撮影場所は自宅 「捨てられた書物」も別の国での撮影

[FactCheck] 「閉じ込められたウイグル人の児童」は誤り 撮影場所は自宅 「捨てられた書物」も別の国での撮影

中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害について国際的な非難が高まるなか、内モンゴル出身の学者として中国問題についての発信も多い大学教授が、「ジェノサイドの実態」として2つの画像をTwitterで紹介している。しかし、これらの画像はどちらもウイグルでの人権侵害を表したものではない。中国政府によるウイグル族への非人道的な迫害行為は深刻な問題で、その存在を裏付ける多くの証拠も集まっているが、事実に基づかない言説の混入には注意が必要だ。(大船怜)

チェック対象
友人のウイグル人が送ってきた写真。親が逮捕された後、ウイグル人の児童も閉じ込められる。そして、書物も捨てられた。モンゴル語の本も同じく捨てられた。ジェノサイドの実態。
楊海英氏Twitter、2021年3月20日投稿。強調は筆者による)
結論
【誤り】 この画像の子供たちは閉じ込められているのではなく、自宅でお菓子を食べている。また、書物の画像はウイグルではなく、モロッコのサウジアラビア大使館でのもの。

この投稿(冒頭画像)は歴史人類学者で静岡大学教授の楊海英(大野旭、オーノス・チョクト)氏によるもので、約3000件のRTと5200件のいいねを獲得している。

投稿画像の1つでは格子で覆われた場所に3人の子供たちの姿が見え、もう1つでは地面の上にアラビア語の書物が無造作に山積みにされている。

子供たちがいるのは自宅

楊氏はこの子供たちについて、「閉じ込められる」とあたかも施設等に強制収容されているかのように表現しているが、実際はそうではない。この写真は元々ロイター通信のカメラマンが撮影したもので、以下のような説明が付されている。

Ethnic Uighurs girls eat sweets as they sit in the window of their home at the Uighurs neighbourhood in Urumqi in China’s Xinjiang Autonomous Region July 8, 2009.
(筆者訳:2009年7月8日、中国・新疆ウイグル自治区ウルムチのウイグル人居住区にある彼らの家の窓際に座り、お菓子を食べるウイグル民族の少女たち)

この写真が撮られた数日前にはウルムチで大規模な暴動が発生、漢族とウイグル族との衝突により多数の死傷者が出た。この事件を契機に中国政府はウイグル族に対する弾圧をさらに強めたとされ、強制収容などの人権侵害の実態も明らかになりつつある。

とはいえ、上述の説明文が示すようにこの写真の子供たちがいるのはあくまで自分たちの住む家であり、強制収容のような人権侵害の様子が直接写っているわけではない。また、この子供たちの親が逮捕されたという記述も見当たらない。

元の鮮明な画像を見てみれば、格子は脱出を防ぐためとしてはかなり隙間が広く貧弱な作りであること、子供たちは何か棒状の物を吸って食べていることが分かり、迫害の光景としては不自然に思われる。

書物はモロッコの光景

もう一方の積まれた書物の画像は、中国ではなくモロッコのサウジアラビア大使館近くで2016年に撮影された写真だ。中東メディアが伝えたサウジアラビア大使館の説明によれば、これらの書物は大使館の地下に保管してあったもので、雨で損傷したため燃やして処分するよう職員に命じたが指示に反して屋外に放置されたのだという(参照12)。

中国政府はウイグル族の多くが信仰するイスラム教に対しても弾圧を加えているとされるが、少なくともこの画像はウイグルとは無関係だ。

この書物の画像は過去に海外でも同じように「中国でのウイグル弾圧」として拡散され、AFP通信がファクトチェック記事を公開しているので参照されたい(この時は共に拡散されたうち1枚の画像は実際にウイグル関連のもの)。

結論

1枚目の画像は「ウイグル人の児童」ではあるものの「閉じ込められ」ているわけではなく、2枚目の捨てられた書物の画像はウイグルとは無関係である。ウイグルでの人権侵害行為が実在するとしても、これらの画像がその「実態」を表しているとは言えず、全体としてこの言説は「誤り」である。

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