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「欧州でガソリン発電EV充電器が流行」などの画像が拡散 相次ぐ類似の誤情報

「欧州でガソリン発電EV充電器が流行」などの画像が拡散 相次ぐ類似の誤情報

ネット上で、「ヨーロッパなどでガソリンで発電機を動かし電気自動車(EV)を充電するのが流行している」などとする画像付きのツイートやまとめサイト記事が相次いで広まった。中には著名人が拡散に携わったものもある。それらをファクトチェックすると、誤りだったり正確性に欠ける情報だった。(大船怜)

チェック対象①
欧米はガソリンで動く小型発電機で電気自動車を充電するのが流行っているらしい。どう考えてもガソリンを直接車に入れた方が環境に優しいだろうが。やれやれ。
(エミン・ユルマズ氏Twitter、2021年7月6日投稿
結論
【不正確】 この充電器はオーストラリアで実験的に設置されたもの。ガソリンではなくディーゼル燃料(軽油)で発電し、エネルギー効率も必ずしも悪いとは言えない。
ユルマズ氏投稿のスクリーンショット

エコノミストのエミン・ユルマズ氏によるこのツイートに添付されたのと同じ写真は、オーストラリアのEV情報メディア「The Driven」による2018年の記事に掲載されている。

記事によれば、この充電器があるのは当時EV用の充電インフラが十分に整備されていなかったオーストラリア・パース。より環境に良い充電設備が実用化されるまでの一時的な手段として地元の元エンジニアが考案し、安価なディーゼル発電機を使って自前で設置したという。

また、実証実験によって消費したディーゼル燃料(軽油)の量を計測し燃費を割り出したところ、燃料を直接使って走る同クラスのディーゼル車と比べても遜色無い結果だったとされている。

ユルマズ氏のツイートは、装置が石油からできた燃料で発電しているという点は正しいものの、「欧米」「ガソリン」という部分は誤りである。また、一個人が実験的に設置した装置を「流行っている」と称するのは言い過ぎだし、実験結果を見ると、燃料を直接使う方が「どう考えても環境に優しい」とは言い切れない。全体としてこのツイートは「不正確」だ。

インファクトでは9月12日にユルマズ氏に対しTwitterを通じてコメントを求めたが、現在までに返答は得られていない。

チェック対象②
【速報】欧州で「ガソリン発電EV充電器」が流行ってしまうw
(ツイッター速報、2021年7月14日記事
結論
【誤り】 これはアメリカで開発された移動式のEV充電器で、発電機能は無い。
「ツイッター速報」記事スクリーンショット

まとめサイト・ツイッター速報によるこの記事は、匿名掲示板「5ちゃんねる」の7月14日投稿のスレッドの内容を転載したもので、同16日にはエッセイスト・動物行動学者の竹内久美子氏もツイートしている

写真はイタリアのIT企業Eurotech社による2016年の記事から。写っているのはアメリカのFreeWire Technologies社が開発した移動式EV充電器「movi」で、EurotechはそのIoTシステムを担当している。

moviの説明ページを見ても、ガソリンを使って発電しているといったことは全く書かれていない。そもそもこれは発電装置ではなく、他の電源から補給した電力を蓄える電池にあたる。仕様書には240Vの電源やEVステーションから充電可能とある。

つまり、この装置は「ガソリン発電EV充電器」では全くなく、「欧州で流行っている」とする情報も根拠不明なことから、総じて記事は「誤り」と言える。

インファクトでは9月12日に竹内氏に対しTwitterを通じてコメントを求めたが、現在までに返答は得られていない。

チェック対象③
【速報】欧州で「ガソリン発電EV充電器」が流行ってしまう ワロタwww
(Twitter一般ユーザー、2021年9月10日投稿)
結論
【不正確】 4枚の画像のうち少なくとも3枚は、欧州ではない、ガソリン発電ではない、特殊な状況下の光景であるなど、ツイートの記述と食い違っている。

これらの画像はいずれも上述の「5ちゃんねる」スレッドで取り上げられており、同じ情報源を基にしたと思われる。

右上の写真は「The Driven」2021年1月の記事から。これは実は①で紹介したオーストラリアの充電装置の改良版で、ディーゼル燃料を使った以前の装置が「ソーシャルメディアで叩かれた」ことをきっかけに同じ元エンジニアが開発した、バイオディーゼル(使用済み植物油)で発電する充電器である。

左下は2019年にTwitterに投稿された写真。自動車メディア「The Truth About Cars」の記事によれば、これは当時テスラが全ての自動車販売をオンラインに移行すると発表したことを受けて、閉店となるショールームで在庫のEVを充電している様子である。使われているのは「ガソリン発電」ではなくディーゼル発電、場所は「欧州」ではなくアメリカのカリフォルニア州・バーリンゲームだ。また、これはあくまで実店舗の一斉閉店という特殊な状況がもたらした光景であり、このような充電方法が「流行って」いると言えるわけではない。

右下は2010年の「Green Car Reports」の記事から、日産のEV「リーフ」のイベント用の移動式急速充電装置。これもまたディーゼル燃料による発電で、場所はアメリカだ。記事の中で記者は、今後EVのための急速充電インフラが普及しなければこのようなディーゼル充電器が広く使われるようになるかもしれないと述べているが、現時点ではまだ限られた用途のものでしかない。別の記事によれば、日産は充電切れしたEVへのロードサービス用にも同様の移動式ディーゼル充電器を使っているという。

左上の画像は、2018年Twitterで一般ユーザーが投稿したもの。場所はスコットランド・ラウダーなので「欧州」に当てはまるが、やはりディーゼル燃料式のようだ。どのような意図で設置されたものかなど詳しくは不明で、「流行」と言えるほどの状況なのか定かではない。

以上から、チェック対象のツイートには多少の正しい部分もあるが、全体的に多くの誤りやミスリーディングな情報が含まれる「不正確」なものである。

誤情報は海外でも

余談になるが、EVとディーゼル燃料に関しては海外でもこれと類似した様々な誤情報が拡散され、それに対するファクトチェックも行われている。

①の充電器の画像を使いながら「ディーゼル式の充電は燃費が非常に悪い」と主張するもの(米TV局KHOUの検証)、②と同じような移動式充電器や(AFP通信ロイター通信USAトゥデイ)単なるボイラー設備(検証ブログ「HoaxEye」)を「ディーゼル発電機」と誤認したものなどがその例だ。

結論

オーストラリアやアメリカを「欧州」としたり、ディーゼル燃料を「ガソリン」とするなどの誤りは、本質的に重大とは言えないかもしれない。しかしながら、特殊な状況下での運用に過ぎないものをあたかも広く普及しているかのように述べたり、実際以上に不合理なシステムを使っているかのように述べたりするのは、読み手の正しい理解を大きく妨げるため、これらの情報は「不正確」または「誤り」と判定した。

このレーティングは、InFactがこのたび新たに始めたエンマ大王のキャラクターを使った表示で「2エンマ大王」~「3エンマ大王」に相当する。今回は便宜的に、これらを統一して「2エンマ大王」とした。

以下が、InFactが新たに始めたエンマ大王のキャラクターの判定基準。

  • 4エンマ大王 「虚偽」
  • 3エンマ大王 「誤り」
  • 2エンマ大王 「ミスリード」「不正確」「根拠不明」
  • 1エンマ大王 「ほぼ正確」

(冒頭画像:チェック対象ツイートのスクリーンショット(コラージュ))

InFactはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、InFactのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。

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