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[コロナの時代]ファクトチェック: 麻生大臣の国会発言 「民度の違い」を理由に「死亡者数が欧米より少ない」はミスリード

[コロナの時代]ファクトチェック: 麻生大臣の国会発言 「民度の違い」を理由に「死亡者数が欧米より少ない」はミスリード

麻生太郎財務大臣は国会で、日本の新型コロナウイルス感染死亡者数は少ないとして「(諸外国とは)国民の民度のレベルが違う」からと発言し、それは海外でも報じられた。民度とはそもそも根拠不明な言説だが、その議論の前提となる事例について語る際、麻生大臣は不都合な真実には触れていなかった。(立岩陽一郎)

チェック対象
死亡率が一番問題なんですけど。調べてみたら、人口比で100万人あたり日本は7人。(・・・)フランスは228人。アメリカが824人。イギリスで309人。日本は7人。(・・・)お宅とうちの国とは国民の民度のレベルが違うんだ(・・・) (麻生太郎財務大臣、2020年6月4日参議院財政金融委員会)
結論
【ミスリード】日本の新型コロナ感染症の100万人あたり死者数は、欧米の主要国より少ないのは事実だが、日本以外の東アジア、東南アジア各国には日本よりも少ない国がある点に触れていない。

検証

麻生大臣のこの発言は6月4日の参議院財政金融委員会で、自民党の中西健治議員の新型コロナに関する「世界の中の日本」について問われた際に答弁したもの。その発言は以下の通り。

死亡率が一番問題なんですけど。調べてみたら、人口比で100万人あたり日本は7人。死亡者ですよ。こういうのは結果は死亡者ですから。戦争も何も最終的には死亡者が何人でその戦争が勝ったか負けたかという話になるわけですから。フランスは228人。アメリカが824人。イギリスで309人。日本は7人。『なんか、お前らだけ薬を持ってっているのか?』ってよく電話かかってきたときに言われたものですけれども、私どもとしては、そういった人たちの質問には、『お宅とうちの国とは国民の民度のレベルが違うんだ』ていつも言ってやるとみな絶句して黙るんですけれども。それをすると後の質問が来なくなるんで、それが一番簡単な答えなので、『クオリティーが違う』と言っていましたけど、このところその人の電話も無くなりましたから、なんとなく定着しているのだと思うんですけども

この後、次のように話している。

(日本は)島国ですから、連帯的なものも強かった。いろんな意味で国民が政府の要請に対して極めて協調したことなんだと思いますけれども。いろんな意味で暴動が起きたわけでなし国民性が結果論として良かった

つまり、麻生大臣の主張は、日本は他国に比べて新型コロナウイルスによる死亡者数が少ないのは、日本人は民度が高く、政府の罰則なしの緩い外出自粛要請にも素直に従った結果、他国に比べて死亡者数が少なくなっているということだ。

この発言はイギリスのフィナンシャル・タイムズ紙が記事にするなど、世界で報じられている。

これについてまず、麻生大臣の語った100万人あたりの感染死亡者数について確認してみたい。麻生大臣は「フランスは228人。アメリカが824人。イギリスで309人。日本は7人」と例を挙げて日本が如何に感染死亡者が少ないかを語っている。

こうした数字は、政府の専門家会議もオクスフォード大学の集計したOur World in Dataを基に示しているので、そのデータから確認した。数値は6月4日時点をとっている。麻生大臣の発言はそれより前の数字ということも考えられるが、さほど大きな数字の変動は無いと見て良いだろう。

Our World in Data(6月4日)

それによると、日本は7.14で四捨五入をすれば7人となり、麻生大臣が語った通りだ。しかし、フランスは444.61、イギリスは585.22、アメリカは323.79となっていた。四捨五入すると、フランスは445人、イギリスは585人、アメリカは324人となる。アメリカについては324人の3を8と読み違えた可能性が有るが、何れにしても、数字はオクスフォード大学の集計とは大きく異なるものとなっていた。ただし、いずれの数字を見ても、日本の7人は極めて少ないことは明らかであり、麻生大臣の発言が事実を曲げたものとはならない。

ところで、その同じ数値で日本以外の東アジア、東南アジア各国の人口100万人あたりの感染死者数を多い順位に列挙すると次のようになる。いずれも発言のあった6月4日の数字だ。

つまり、7人である日本より100万人あたりの感染死亡者が少ない国はインドネシア、韓国、マレーシア、台湾などかなりの数にのぼることがわかる。中国も日本より少ないが、中国の公表数字には異論もあるのでここでは考慮しなくても良いだろう。それでも、アジアも含めて考えた時、100万人あたりの感染死亡者数が日本より少ない国があることは事実だ。

つまり、欧米だけを例に挙げて比較を語るのは、都合の良い数字を並べたものでしかない。国会での大臣の発言は重い。特に麻生大臣は副総理という政権ナンバー2の立場でもある。そういう地位の政府高官が不都合な真実を避けて都合の良い話だけをすることは日本全体が誤解されかねない。

結論

ファクトチェックの結論を書くと、麻生大臣の発言は、日本が欧米主要国に比べて100万人あたりの感染死亡者数が少ない点においては誤りとは言えないが、「世界の中の日本」について問われて、日本より100万人あたりの死亡者数が少ないアジアの状況には一切触れずに、「お宅とうちの国とは国民の民度のレベルが違うんだ」や「クオリティーが違う」といった発言につなげている。他に日本より死者数が少ない国もあるのに、あたかも日本人が優れているから死者数が低く抑えられているかのような誤解を与える恐れがある発言だ。

この問題では、麻生大臣の「民度」発言がクローズアップされた。この「民度」は英訳が不可能だったと見えて、フィナンシャル・タイムズ紙は「mindo」とローマ字で表記し、「経済、社会、文化のレベルや生活水準」と説明しているが、この議論をすること自体が麻生大臣の「民度」論に与するものと受け取られかねないのでここではその議論はしない。

インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加しており、この記事にはFIJの藤直哉リサーチャーが協力している。

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