小池百合子氏は2016年都知事選で「東京ブランドを確立し、観光・インバウンド客をさらに増大させる」との公約を掲げて当選した。日本全体の外国人観光客が増大する中で、東京の伸び率はどうだったか。「東京ブランド」については都市総合力ランキングにより検証した。(安藤未希)
検証対象の公約内容
東京ブランドを確立し、観光・インバウンド客をさらに増大させる。
(2016年都知事選の公約「スマート・シティー」(10))
検証
小池氏は都議会の所信表明演説で、「2020年までに2500万人という目標を確実に達成する」ために「観光産業振興実行プラン2017」に基づいて東京都の観光都市化を推進することを明言していた(平成29年第一回都議会定例会知事施政方針表明)。
「観光産業振興実行プラン2017」には、2020年の目標として「外国人リピーター数」など5つの具体的数値が示されている。現時点で確認できる最新の数値は2018年分で、それらの数値は全項目で増加している。だが、2016〜2018年の伸び率は、2020年の目標達成に届くために必要な伸び率を大きく下回っていた。
※1:訪日・訪都外国人旅行者数及び訪都国内旅行者数の推移
※2:平成28年東京都観光客数等実態調査
※3:平成28年度 国別外国人旅行者行動特性調査 結果概要
※4:平成30年東京都観光客数等実態調査
※5:平成 30 年 国・地域別外国人旅行者行動特性調査 結果概要
しかも、2020年の目標数値は東京オリンピックによる訪都外国人観光客を含むものと考えられ、新型コロナウイルス 感染症の影響で外国人の入国が厳しく制限され、オリンピックも延期されたため、現実の目標達成はほぼ不可能に近い。
訪都外国人観光客数と訪日外国人観光客数の推移を比較すると、2018年の訪日外国人観光客数は2016年と比べて29.7%増加している一方、訪都外国人観光客は同8.7%の増加に留まっている。つまり、東京都を訪れる外国人観光客の伸びが鈍化していることがわかる。
事業は小池都政以前からスタート
小池氏は、公式サイト「これまでのお仕事」で、東京ブランドの発信として「江戸東京きらりプロジェクト」で制作されたサイトの公開、Tokyo Tokyoのサイトでの日本文化の発信に言及している。
その中に、東京は「世界の都市総合力ランキング(森記念財団)」において、2016年以降、4年連続でロンドン、ニューヨークに次いで3位という世界のトップランナーとしての地位を守っています、との記述がある。
しかし、2019年版のレポートをよく見ると、東京は総合力3位を維持したものの、「東京の下落幅は大きく、ニューヨークとのスコア差が広がり、パリとの差が縮まった」と指摘されている。2017年、2018年は東京のスコアが上昇したものの、2019年は小池知事就任前の2016年よりやや低いスコアに下落していた。
この「都市総合力ランキング」は、2008年から毎年、経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6分野で複眼的に評価し、順位付けしているもので、都市研究の分野における国際的な第一人者によって構成される実行委員会の監修の下、作業委員会が具体的な分析を行い、ランキングの作成過程や結果の妥当性について第三者評価員による評価・検証を受けているという。それなりに信頼できる評価指標であろう。
就任年である2016年と2019年のポイントを分野別に比較すると、2019年には「経済」を除いた5分野でポイントを伸ばしている。一方で、順位は「文化・交流」「交通・アクセス」を除いた4分野で落としている。これは東京以外の都市が東京以上にポイントを伸ばしているため、東京の順位が上がっていないということだ。
東京の「都市力総合ランキング」の分野別スコア・順位の推移
(出典)世界の都市総合ランキング概要版(2019年11月)/世界の都市総合ランキング概要版(2018年10月)/世界の都市総合ランキング概要版(2017年10月)/世界の都市総合ランキング概要版(2016年10月)
結論
訪都外国人観光客・訪都国内観光客は増加しているものの、訪日外国人観光客数などと比較すると決して十分な増加であるとは言えない。都市ランキングのポイントも順位を守っており、取得ポイントは上がっているが、順位が下がっている項目もあるため、この公約についての取り組みは「可」と判断した。