
神奈川県警察本部が市民からの苦情受付を減らすために「監察ホットライン」を閉じたとする言説がX上で拡散している。実際のところはどうなのかファクトチェックした。
対象言説
「神奈川県警 苦情が来るのを減らすために窓口(監察ホットライン)をなくした」( 2025年5月2日、X上のポスト)
投稿には、Google検索エンジン上の「監察ホットライン受付」のページの写真と、該当ページがすでに削除されたことが「お探しのページが見つかりません」の文言と共に示されている。
ファクトチェックの結果
神奈川県警の「監察ホットライン」が無くなっていること自体は正しい。しかし、「監察ホットライン」を廃止した上で、「総合相談室」と窓口を統合し、苦情等の申し出に対応している。統合させた理由について県警は、問い合わせの内容が類似していることを理由として挙げている。実際に、「監察ホットライン」が今年3月に廃止された後も県警は苦情件数を把握しており、苦情件数は今年の1月から4月までと、昨年の同期比を比べてみると増加している。
ファクトチェックの詳細
投稿は2025年5月24日現在、8,500回以上リポストされ、391万回以上表示されている。コメント欄には、「自分たちを守る時のみ仕事が早いね!見習わなきゃ」「加害者を4月にアメリカへ逃すことを見越して、3月のうちに苦情窓口を閉鎖したのか」など川崎での女性の死体遺棄事件と結び付けたコメントがある一方、県警の「致命的な人手不足」という指摘もある。 何れも、投稿が事実だという認識のもとに書かれたものとみられる。
まず、県警の「監察ホットライン」とは何かを調べてみた。「監察ホットライン」とは1999年頃に立て続けに起こった神奈川県警の不祥事がきっかけとなって開設された。朝日新聞は次のように報じている。
「県民からの苦情や要望、職員の不祥事情報などを受け付ける専用電話を『監察ホットライン』と名称変更し、担当職員を二人増やして三人にするなど相談窓口を充実させた」(朝日新聞2000年2月3日付朝刊「不祥事防止へホットライン 県警監察官室、県民に窓口 /神奈川」)
もともとあった県民からの苦情を受け付ける窓口が組織再編、名称変更を経たものが「監察ホットライン」ということだ。
実際にアクセスしようとしても「監察ホットライン」には行きつかない。では、実際に「監察ホットライン」は存在したのか。過去のウェブサイトを復元すると、「監察ホットライン」は、実際に存在していたことが確認できた。以下がそれだ。


県警には別に「総合相談室」があったものの、「警察職員の信用失墜行為」に関する情報は「監察ホットライン」で扱っていたということが分かる。

では、X上の言説にあるように、実際に市民から「苦情が来るのを減らすために」「監察ホットライン」は廃止されたのか。県警に問い合わせた。
1回目は5月19日、電話で問い合わせを行った。問い合わせ項目と県警からの電話による回答は以下の通り。
Q)現在の神奈川県警察における「監察ホットライン」の運用状況は?
A)「監察ホットライン」は2025年3月12日まで設置されていたが、苦情を減らすために閉鎖したわけではなく、他の窓口と統合した。 現在は「総合相談室」で苦情などの申し出を一括受付している。
Q)もし「監察ホットライン」の運用状況に変更があった場合、その理由や経緯は?
A)なぜ統合したのか、その理由や背景については回答できない。
では、この廃止された「監察ホットライン」はどうなっているのか。さらに調べるために、5月23日と5月30日にメールによる問い合わせも行った。6月3日に電話で次のような回答をもらった。
Q) 過去の「監察ホットライン」への連絡件数は?
A)監察室では、「監察ホットライン」以外にも手紙、メールの受け付けもあったため「監察ホットライン」のみの算出はしていない。「監察ホットライン」を含めた監察室での相談受理件数は、2023年が775件、2024年が679件だった。
Q)「監察ホットライン」が無くなった現在、連絡件数は実際に減っているのか?
A)県警では県民からの苦情を引き続き受け付けているため、減少はしていない。 「総合相談室」への苦情連絡件数は、2024年1月から4月が53件、2025年1月から4月が58件だった。 また、「総合相談室」への要望・意見の連絡件数は、2024年1月から4月が5,868件、2025年1月から4月が6,703件 だった。
これらの回答から、「監察ホットライン」が廃止された後の件数は明らかではないが、1月から4月までの期間で比べると、昨年に比べ、苦情件数は9ポイント、要望・意見の数は14ポイントそれぞれ増えていることが分かった。つまり、「監察ホットライン」は廃止したものの、苦情連絡は引き続き受理しているというのが説明だ。
Q)「監察ホットライン」を他と統合させた理由は?
A)「総合相談室」で受けていた連絡と「監察ホットライン」で受けていた連絡の内容が類似していたため、一本化した。
県警側としては「苦情を減らす」ことを目的としておらず、「内容が類似していた」ということで統合したという説明だ。念のため、具体的にどのように窓口を一本化したかも確認した。
Q)電話問い合わせでの答え「『他の窓口』と統合した」の「他の窓口」とは具体的に何か?
A)今年3月13日より、「総合相談室」の警察相談専用電話「♯9110」と「監察ホットライン」を統合した。「♯9110」は広報県民課が管轄し、「監察ホットライン」は監察官室が管轄していた。これらを統合させた。
県警の説明では、「監察ホットライン」を設置したものの「総合相談室」と連絡の内容が類似していることから、これらを「総合相談室」として統合したということだ。なお、統合された「総合相談室」は広報県民課が管轄している。
InFactは誤った発信を非難するようなファクトチェックはしていません。あくまで発信の内容を確認し、明らかになったファクトを共有することを目的としています。
(岩岡幸菜、椹木純奈、高橋寧々)