
参院選に向けて主要メディアの多くがファクトチェックの取り組みを表明する中、政党の中にもファクトチェックを取り入れる動きが出ている。政党はファクトチェックの担い手になれるのか、国際的に認められたファクトチェックの原則から確認した。
対象言説「政党はファクトチェックの担い手になれるのか?」
各党の動きや関連する報道からInFactが対象言説を設定した。以下は「ファクトチェック」を掲げた国民民主党の特設サイトと公明党の機関紙「公明新聞」のサイトだ。


結果
政党が誤った指摘に反論したり訂正を求めたりすることはできるが、それはファクトチェックではない。国際的に認められたファクトチェックの原則では、「特定の政策的立場に立ったり擁護したりすること」を認めていない。政党はむしろ「特定の政策的立場に立ったり擁護したりする」存在であり、ファクトチェックの担い手とはならない。
ファクトチェックの詳細
2025年の兵庫県知事選挙で誤った情報がネット上で拡散したことを受けて、参議院選挙に向けて新聞、テレビなどの主要メディアがファクトチェックに力を入れる方針を示している。こうした中で、政党の中でもファクトチェックを行う動きが出ている。
しかしファクトチェックには国際的に認められたルールがある。そうしたルールを無視した形でファクトチェックが行われれば、ファクトチェックそのものが形骸化する恐れが生じる。
ファクトチェックのルールとして国際的に認められているのはIFCN=国際ファクトチェックネットワーク(アメリカ・フロリダ州)の示しているCode of Principlesだ。翻訳は日本でのファクトチェックの取り組みを支援するための団体であるFIJのものを基本に、一部表現を修正している。
1. A Commitment to Nonpartisanship and Fairness
Signatory organizations fact-check claims using the same standard for every fact check. They do not concentrate their fact-checking on any one side. They follow the same process for every fact check and let the evidence dictate the conclusions. Signatories do not advocate or take policy positions on the issues they fact-check.
1. 非党派性と公正性
IFCNメンバーは、全てファクトチェックにおいて同じ基準を用いて言説のファクトチェックを行います。一方のサイドに偏ったファクトチェックはしません。全てのファクトチェックを同じ手続に従って行い、証拠をもって結論を語らせるようにします。私たちは、ファクトチェックの対象とする問題について、特定の政策的立場に立ったり擁護したりすることはしません。
2. A Commitment to Standards and Transparency of Sources
Signatories want their readers to be able to verify findings themselves. Signatories provide all sources in enough detail that readers can replicate their work, except in cases where a source’s personal security could be compromised. In such cases, signatories provide as much detail as possible.
2. 情報源の基準と透明性
IFCNメンバーは、読者に自分たちが行った調査結果自体を検証してもらいたいと考えています。IFCNメンバーは、自分たちが行った調査を読者が再現できるよう詳細に全ての情報源を開示します。情報源の個人的な安全が損なわれる場合は例外的ですが、そのような場合でも、可能な限り詳細な情報を提供します。
3. A Commitment to Transparency of Funding & Organization
Signatory organizations are transparent about their funding sources. If they accept funding from other organizations, they ensure that funders have no influence over the conclusions the fact-checkers reach in their reports. Signatory organizations detail the professional background of all key figures in the organization and explain the organizational structure and legal status. Signatories clearly indicate a way for readers to communicate with them.
3. 資金源と組織の透明性
IFCNメンバーは、自分たちの資金源について透明性をもちます。他の組織から資金を受け入れても、資金拠出者がファクトチェックの調査で達した結論に対して全く影響を与えないことを確約します。ファクトチェックの組織における全ての重要人物の職業的背景をつまびらかにし、組織の構造や法的地位についても説明します。読者が 連絡をとる方法についても明示します。
4. A Commitment to Standards and Transparency of Methodology
Signatories explain the methodology they use to select, research, write, edit, publish and correct their fact checks. They encourage readers to send claims to fact-check and are transparent on why and how they fact-check.
4. 検証方法の基準と透明性
IFCNメンバーは、ファクトチェックを行う際の選択、調査、執筆、編集、公表、そして訂正についての方法を説明します。読者にファクトチェックすべき言説を提供するよう奨励し、自分たちがファクトチェックを行う理由や方法について透明性をもちます。
5. A Commitment to Open & Honest Corrections Policy
Signatories publish their corrections policy and follow it scrupulously. They correct clearly and transparently in line with the corrections policy, seeking so far as possible to ensure that readers see the corrected version.
5. オープンで誠実な訂正方針
IFCNメンバーは、自分たちの訂正方針を公表し、それに厳格に従います。訂正方針に沿って明確かつ透明性をもって訂正を行い、可能な限り読者が訂正版を見れることができるように努めます。
以上が5原則だ。「IFCNメンバー」とは、ファクトチェックの担い手として様々な要件を満たしたメディアがなれるもので、InFactもIFCNメンバーの一員となっている。この5原則で最も基礎となるのが非党派性と公正性だ。ここで「特定の政策的立場に立ったり擁護したりすることはしません。」と明示されている。政治的中立と解される項目だ。
これらの原則はIFCNメンバーのものであって、IFCNメンバーでなくてもファクトチェックは可能だという反論は勿論あり得る。しかし他の4点について満たしていないファクトチェック・メディアは存在する可能性を否定できないが、この「非党派性と公正性」については、ファクトチェックを名乗る以上、求められる基礎的な要件というのがファクトチェックを担う人々の共通の認識と言って良い。
他方、政党とは「共通の政治的主義・主張をもつ者によって組織され、一定の政治的利益や政策の実現のために活動し、政権獲得をめざす集団」(welbio辞書)であり、ファクトチェックの原則が否定する「特定の政策的立場に立つ」ことが求められている。
つまり、政党はファクトチェックの担い手としての基礎的な要件を満たしていない。従って、ファクトチェックの担い手とはなれない。勿論、政党が自らの党に対する誤った情報について反論したり訂正を求めたりすることは問題無い。
因みにIFCNは2024年6月に出したサラエボ声明で、「ファクトチェックは、自由な報道と質の高いジャーナリズムの一部であり、公共の情報と知識に貢献するものである。」としている。ファクトチェックは、あくまでジャーナリズムの一環として行われるものだという理解だ。
(立岩陽一郎)