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【FactCheck】自衛隊:「大将」、「大佐」への変更は「諸外国に準じた」もの?

【FactCheck】自衛隊:「大将」、「大佐」への変更は「諸外国に準じた」もの?

読売新聞が報じた自衛隊の階級呼称の変更についての記事で、「諸外国に準じた呼称にする」とした部分に様々な指摘が出ているのでファクトチェックをした。その結果、「諸外国に準じた」とは言えないとの結果になった。(画像は防衛省のサイトから)

検証対象

記事にある「政府は、自衛隊幹部の階級の呼称を変更する方針を固めた。将官の中で陸海空それぞれのトップとなる幕僚長らは「大将」、それ以外の将は「中将」、1佐を「大佐」など諸外国の軍隊に準じた呼称にする。呼称変更は1954年の自衛隊発足以来、初めて。自衛隊は「軍隊」ではないなどの理由から他国と異なる呼称を使い続けてきたが、大きな転換点を迎える」のうち、「諸外国の軍隊に準じた呼称にする」との説明についてファクトチェックする。

読売新聞オンライン(2026年4月5日

結果

陸将、陸将補といった将官については現状の2段階から3段階にするというものでで、同盟国のアメリをはじめ、イギリス、フランス、ロシアといった主要国の軍隊は4段階以上となっている。中国人民解放軍は3段階だが、その例をもって「諸外国に準じた」とは言えない。また佐官については日本語の名称を別の日本語の別の名称に変えるだけであり、これも「諸外国に準じた」と言えない

ファクトチェックの詳細

読売新聞からの回答
まず、読売新聞にこの点について何を根拠に「諸外国に準じた」としたのか問い合わせを行った。これに対して読売新聞グループ本社広報部から5月11日に回答が得られた。以下がそれだ。

残念ながら、これは記事の説明であってInFactの問に対する回答ではない。敢えて推測するならば、与党が「国際標準化」という方針に基づいて行っている階級呼称の変更だから「諸外国に準じた」と書いたということなのかもしれない。では、本当に読売新聞が報じた階級呼称の変更は「諸外国に準じた」と言えるのか、以下ファクトチェックした。

自衛隊の階級

まず自衛隊の現在の階級を見ておきたい。

防衛省のサイトから)

将官については陸自は陸将、海自は海将、空自は空将となり、その下に将補がいる2段階ということだ。それぞれのトップの幕僚長も階級としては将となっている。

諸外国の例

次にアメリカの将校の階級をアメリカ陸軍で見てみたい。

米陸軍ウエブサイトから

最上段左から、将校の中で最も下位の尉官であるSecond Lieutenant、その上がFirst Lieutenant、そして尉官のトップがCaptainとなっている。そして一列目の最右翼が佐官で最も下のMajor、そして一段下がって左からLieutenant Colonel、そして佐官トップのColonelと続く。因みに、「Lieutenant」は大中小という大きさとは関係はなく、代理とか補助といった意味の名詞だ。

図の説明に戻る。佐官の次に将校が星の数で示されている。一つ星(ワンスターと呼ばれる)がBrigadier General、その上の二つ星(ツースター)がMajor General、更に上の三つ星(スリースター)がLieutenant Generalで、四つ星(フォースター)が事実上の最上位のGeneralとなる。アメリカ陸軍ではその上にGeneral of the Armyという最高位を設けており、陸軍元帥と訳される。ただ、この階級は日本を占領したGHQ司令官だったダグラス・マッカーサーなど将校の中でも限られた人間にしか与えられていない。この陸軍元帥を除き、将官とされる階級は4つあることがわかる。日本語では准将と訳されるBrigadier Generalの存在があるからだ。これはイギリス軍、フランス軍、そしてロシア軍も同じだ。アメリカ軍に「準じた」軍制を持つ韓国軍も同じだ。

因みに、フランス軍も見てみたい。次の様になっている。

GlobalMilitary.netから)

将官は前述の通りアメリカ軍、イギリス軍と同様に4つの階級に別れており、佐官はColonelをトップに、次がLieutenant-colonel、その下がComandantとなっている。もともとアメリカ軍のColonelもフランス軍のColonelから来ているとの説が有力だ。AIにColonelの語源を問うと、「ラテン語で『円柱・柱』を意味するColumnaに由来し、イタリア語の『縦隊の長』を指すColonnello」と出た。それがフランス経由でイギリス、アメリカに入ったということのようだ。因みにロシア軍も同じだ。

フライドチキンのKFC創業者であるカーネル・サンダースの「カーネル」はこのColonelだ。カーネル・サンダースには軍歴は無かったようだが、軍歴のあるアメリカ人の中には軍の肩書を退役後も使う人がいる。軍人に敬意を表することが一種の社会通念になっているアメリカならでは、と言えるかもしれない。

中国人民解放軍についても確認した。百度百科によると、将官は上将、中将、少将に分かれ、佐官は「大佐、上佐、中佐、少佐」となっている。

「諸外国に準じた」報道の検討

読売新聞の報道によると、自衛隊の階級呼称の変更は上記の将官の部分を現在の将と将補の2段階から、大将、中将、少将の3段階に分けるというものだ。これは中国人民解放軍と同じになるとは言えるが、同盟国のアメリカは勿論、イギリス、フランス、ロシアような主要国の軍隊とは異なり、従って「諸外国に準じた」階級への変更とは言えない。

佐官についてはどうだろうか。これは段階を変えるわけではなく、呼称を変えるものだ。しかしアメリカ軍、イギリス軍のColonelは「円柱・柱」であり、そこに「大」という意味が有るわけではない。だから一佐を大佐に変えることは、特に「諸外国に準じた」変更とは言えない。

ではなぜ将官を2段階から3段階に、一佐を大佐、二佐を中佐、三佐を少佐に変えるのか?それと同じ階級システムを使っている軍隊があった。それは旧日本軍だ。旧日本軍では将官は大将、中将、少将、佐官は大佐、中佐、少佐が階級制度として使われていた。以下は旧日本陸軍の階級だ。

日本の歴史学講座サイトから)

つまり、読売新聞の記事にある階級呼称の変更は、「諸外国に準じた」ものではなく、旧日本軍の伝統に戻すという説明であれば正しい。因みに一佐、二佐、三佐といった数字を使った階級はアメリカ軍にもある。自衛隊の三尉を指すSecond Lieutenantと二尉を指すFirst Lieutenantがそれだ。

(立岩陽一郎)

編集長追記

読売新聞の記事は、「複数の政府関係者が明らかにした」としており、読売新聞が独自に入手した内容を報じたものと考えられます。ですから、今の段階で政府が公式に発表はしておらず、従って政府が何かしらの見解を出しているということはないようです。

ファクトチェックはその是非を問うものではありません。この記事も、記事の「自衛隊幹部の階級の呼称を変更する方針」の是非は問うていません。ファクトチェックは事実の確認に徹した作業で、記事にある「諸外国に準じた」との説明が事実と言えるかを確認したものです。ただ、なぜ読売新聞が「諸外国に準じた」と書いたのかは気になるところです。記事の情報源と思われる防衛省・自衛隊の関係者が「諸外国に準じた」と説明したものをそのまま使ったのかもしれません。

ただ、InFactの取材に丁寧に対応して頂いた読売新聞グループ本社広報部には謝意を表したいと思います。勿論、この記事は事実関係を明確にするもので、読売新聞を批判するものでもありません。

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