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【参院選25FactCheck】公明・斎藤代表「裏金議員は推薦していない」をファクトチェック

【参院選25FactCheck】公明・斎藤代表「裏金議員は推薦していない」をファクトチェック

7月2日の党首討論会(日本記者クラブ主催)で公明党の斎藤代表は、「いわゆる裏金議員という方々は推薦していない」と明言した。一方で、「裏金問題」として名前の挙がった自民党議員に推薦を出しており、その発言についてファクトチェックした。

対象言説

公明党・斉藤代表の日本記者クラブ党首討論会(7月2日)の発言

「いわゆる裏金議員という方々は推薦しておりません。
不記載の方でしっかりとその内容を明らかにし、収支報告にも報告をされた、そして、私たちに対してしっかりと反省、そして今後のクリーンな政治に向けての決意、そういうことを表明された方を、我々は推薦をさせていただいたわけでございます。」

公明党は「裏金議員」とされる自民党の候補者を推薦していないかを対象言説とした。

結論

「いわゆる裏金議員」について公明党が独自に定義付けした上で、推薦した候補者は「裏金議員」ではないとしているものだ。つまり、「公明党が定義するところの『いわゆる裏金議員』という方々は推薦しておりません」が正しく、「いわゆる裏金議員」を推薦していないとまでは言えない。

ファクトチェックの詳細

前提条件

「裏金議員」とは、一般には安倍派と二階派の政治資金パーティーでパーティー券を販売して得た献金の一部についてキックバック(還流)を受け、それを自身の政治団体の政治資金収支報告書に記載せず、事実上「裏金」として管理或いは使用していた疑いのある議員のことを指す。少なくともメディアはそう報じている。

一連の問題を整理してきた情報公開クリアリングハウスは、「パーティー券裏金問題 国会議員別情報」を公開している。それらを参考に、上記の自民党議員で今回の参院選に立候補している人を確認すると以下になる(北から順)。

高橋はるみ氏(北海道)、森まさこ氏(福島県)、宮本周司氏(石川県)、酒井庸行氏(愛知県)、吉川ゆうみ氏(三重県)、堀井巌氏(奈良県)、加田裕之氏(兵庫県)、西田昌司氏(京都府)、北村経夫氏(山口県)、長峯誠氏(宮崎県)。

このうち公明党は石川県選挙区の宮本周司氏、京都府選挙区の西田昌司氏、奈良県選挙区の堀井巌氏に推薦を出している。

公明党の回答

これについて公明党に問い合わせたところ、公明党広報部から以下の回答を得た。この回答を踏まえて検討する。


つまり、宮本氏、西田氏、堀井氏の3人は「いわゆる裏金議員」ではないので推薦したという説明だ。

その理由は公明党によると以下になる。

「今回推薦した候補者については、

①不記載について不起訴処分が下され、かつ訂正がなされていること、

②政倫審など公的な場での謝罪と説明があったこと、

③地元公明党との協議を重ね、党員・支持者への説明と再発防止の意思表明が確認されたことを、道府県本部で丁寧に確認した上で、

④所定の手続きを経て推薦に至ったものです。」

推薦、非推薦議員の違いの有無

では、上記の自民党議員の中で推薦した議員と推薦しなかった議員の間で①から④について違いが有るのか調べた。

福島県選挙区の森まさこ氏は公明党の推薦を受けていない。168万円を不記載としており政倫審で謝罪している。不記載について不起訴処分が下されたかは確認できなかったが、宮本氏(974万円)、堀井氏(466万円)、西田氏(234万円)と比べても不記載額は少なく起訴される状況ではない。因みに、宮本氏は不起訴だが嫌疑不十分ではなく起訴猶予だ。つまり犯罪を構成する要件は見たいしているという理解だ。③についても、森氏の政倫審での発言を確認する限り、公の場で再発防止の意志表明がなされていると見て良いだろう。

兵庫県選挙区の加田裕之氏も同様だ。加田氏も公明党の推薦を受けていない。加田氏は648万円の不記載があったことを自ら自民党に報告しており、「戒告」の処分を受けている。また政倫審で説明と謝罪をしている。

勿論、公明党の推薦については各候補者からの推薦依頼が前提となるので依頼が無かったことは考えられる。また兵庫県選挙区などは自民党、公明党がそれぞれ候補者を出している。そうした状況から推薦を見送った点も有るだろう。それについては現段階で確認はできていないが、「不記載について不起訴処分が下され、かつ訂正がなされていること」「政倫審など公的な場での謝罪と説明があったこと」という要件は、上記の森氏、加田氏に限らず満たしている。

つまり、公明党が推薦した候補者と他の候補者との違いは、公明党の説明する①から④では十分に説明されているとは言えない。

その他の回答について

他の回答についても、ファクトチェックとの関係に言及しているので検討しておきたい。

他の回答①「まず指摘したいのは、「裏金議員」の定義を明確にする必要があるという点です。ファクトチェックとは本来、言葉の意味を明確にした上で、事実関係を検証する営みであるはずです。/そもそも、「裏金」とは何か、その定義を明示しないままに事実確認を試みる姿勢自体が、検証として不正確であることは、率直に申し上げておきたい点です。/言葉の意味と背景を丁寧に捉えることが、真に誠実なファクトチェックの出発点であると考えます。」

この回答で「ファクトチェックとは本来、言葉の意味を明確にした上で、事実関係を検証する営み」としている点は明確に説明する必要がある。これを必ずしも否定するわけではないが、注意が必要だ。ファクトチェックには国際的に認められた原則がある。その第一が「非党派性と公正性」だ。公正性とは客観性、第三者性を含む。

公明党の回答に即して言及するならば、誰が「裏金議員」について「言葉の意味を明確にした」のかが問われる。客観的且つ正当性のある立場の者が「言葉の意味を明確にした」のであれば、この説明は一定程度は成立つ。しかし、当事者が自ら「言葉の意味を明確にした」と主張して、それでファクトチェックをするとはならない。つまり公明党が「言葉の意味を明確にした」としても、それを基準にファクトチェックをするとはならない。

他の回答②「「記載漏れ=裏金」という単純な構図で断定することは、あまりに乱暴です。不記載があったとしても、その後に使途と金額を明確にし、説明責任を果たした人物と、説明も反省もないまま使途不明な金銭を受け取った人物を、同列に扱うべきではありません。」

これについては既に説明している通り、公明党が推薦していない議員と推薦された3人との違いは明確にはなっていない。また推薦したのは、「不記載があったとしても、その後に使途と金額を明確にし、説明責任を果たした人物」という説明も疑問だ。一度止めた筈の還流がどのような経緯で再開されたのかなど実態解明につながる十分な説明がなされていない上、秘書が数百万円の資金を議員に伝えずに保管していたといった信ぴょう性に疑問が生じるような説明も行われている。そもそも政治資金規正法は政治家個人が政治資金を受け取ることを禁じているにも関わらず「秘書に聞いた」として還流を行っていた点については、政倫審でも明確になったとは言い難い。

他の回答③「仮に「裏金=使途が不明な資金」であると定義するならば、かつて政策活動費として多額の資金を受け取りながら、今なおその使い道を明らかにしていない与野党幹部こそ、「裏金議員」と呼ばれるべきではないでしょうか。公明党は、その政策活動費を一円も受け取っていません。制度の廃止を主導した政党でもあります。」

公明党が回答の中で書いている政策活動費の問題はInFactが逸早くその問題を追及してきたものだ。一連の記事をご覧いただければわかるが、「かつて政策活動費として多額の資金を受け取りながら、今なおその使い道を明らかにしていない与野党幹部こそ、「裏金議員」と呼ばれるべきではないでしょうか」という公明党の回答に同意する。しかし、どちらも問題だというのが正しい。政策活動費を数十億円単位で受け取っていた議員も「裏金議員」であり、派閥の政治資金パーティーに参加して支援者から得た寄付の一部について還流を受け、それを政治資金収支報告書に記載していなかった議員も「裏金議員」ということになる。

因みにInFactはこの政治資金パーティーそのものの問題も記事で追及している。事実上、「違法な企業献金」になっている疑いが極めて高い点も記事にしている。

(立岩陽一郎)

編集長追記

先ずは選挙戦のさなかに回答を頂いた点、公明党に感謝を申し上げます。InFactは選挙中であっても、党の代表や候補者の発言についてファクトチェックをして、その結果を社会と共有する取り組みを2017年から続けています。その取り組みに理解を頂いたことを有難く思います。

ただ、今回のファクトチェックの記事で対象とした斉藤代表の言葉は、「われわれは、いかなる時代、いかなる社会にあっても、「大衆とともに語り、大衆とともに戦い、大衆の中に死んでいく」との誓いを貫き、常に民衆の側に立つことを信条とします。われわれが内に求め、行動の規範とするのは、高い志と社会的正義感、モラル性、強い公的責任感、そして民衆への献身です。」としている公明党の理念に沿ったものなのか、素直に疑問を感じざるを得ません。

斉藤代表が「いわゆる裏金議員」ではないとする自民党の候補者3人を推薦したことについては支持者から批判が出ていることがうかがえます。例えば同党の竹谷とし子参議院議員はXへの投稿で、「公明党を応援してくださる方々には、清潔さを政治に求める方々が圧倒的に多いからこそ、 法律上は不起訴であっても 収支報告書を訂正しても 政治倫理審査会で説明をしたとしても 仮に公明党議員であれば辞職するレベルのものであり、同様に、不記載があった自民党議員に推薦を出すことには到底納得できない、というご意見があることも当然のことだと思います。」と書いています。

https://twitter.com/t_takeya/status/1916037241387770148

竹谷議員の投稿の中身こそ、斎藤代表が語る内容だったのではないかと考えます。

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